Cö shu Nie×Kaz Skellingtonが問う、情報社会における意思の在処 MV構築から“ファンクの体得”まで
“自己愛の復活”をテーマに、2024年秋完成予定のアルバムに向けて制作&リリースを重ねているCö shu Nie。そのスタートラインとなった昨年リリースの2曲「no future」「Burn The Fire」は一見すると対極なようでありながら、中村未来(Vo/Gt/Key/Manipulator)流の筆致で、パーソナルな言葉を現代の無気力や憤りの歌にまで昇華し、ここぞというポイントでディストーションサウンドが爆発する抜群のロックナンバーだった。
そして今年3月、次なる新曲「Artificial Vampire」がリリースされた。持ち前のノイジーなギターサウンドではなく、松本駿介(Ba)のベースラインとビートが主体となって楽曲を牽引するミニマルなアンサンブル。ダンサブルかつキャッチーだが、その奥にどことなく不穏さが顔を覗かせる。テーマは、曖昧になっていく人間らしさや自己の在処。便利さやアルゴリズムによって盲目化されていく情報化社会の暗部にメスを入れていくような1曲だ。
この「Artificial Vampire」にグルーヴアドバイザーとしてクレジットされ、MVの監督・編集も担ったのがKaz Skellington。ラッパー、ギタリスト、映像作家、音楽ライターなどマルチな方面で活躍しており、中村と一緒にライブのステージに立った経験もある。Cö shu NieのMV監督は「Burn The Fire」に続く2作目となるが、彼の手腕とアイデアが光るSF映画のような映像に思わず惹き込まれた人も多いだろう。Cö shu NieのMVはいつも曲への解釈を何倍も深めてくれるが、Kazはそれを新鮮かつリアリティ溢れるスタイルで確立させてみせた。今回は、中村、松本、Kazによる鼎談を通して、「Artificial Vampire」の制作秘話、さらには社会やシステムへの違和感から、ファンクの深みまでを語り合った。(信太卓実)
「Kazくんのストーリーを描く力に賭けたいなと思った」(中村)
ーーまず、Cö shu NieとKazさんはどのように繋がったんでしょう?
中村未来(以下、中村):最初の出会いが、2022年5月のサンダーキャットのライブ(『Thundercat Japan Tour 2022』)で偶然話したことでした。
ーーお互いのことはもともと知っていたんですか。
中村:知らなかった。
Kaz Skellington(以下、Kaz):僕も知らなかったです。でも『東京喰種トーキョーグール』の漫画がめっちゃ好きだったんで。Instagramのアカウントを教えてもらって、家帰ってよく見たらオープニングテーマやってる人じゃん! と気づきました。アニメの方はちゃんと観てなかったんですけど、そういえば声聴いたことある気がするなって。
ーー昨年ニューヨークでライブされた際のVlogなどをKazさんが撮影・編集していましたけど、「Burn The Fire」のMVをKazさんが監督されたのはどんな経緯だったんですか。
中村:話していても点と点を線に繋げるのが上手で、私が表現したいことをより明確に映像化してくれそうな気がしたので、彼のストーリーを描く力に1回賭けたいなと思ったんです。Vlogもそうだし、以前撮ってもらったちょっとした映像でも明らかにセンスを感じたので。
松本駿介(以下、松本):アーティスト Kaz Skellingtonとして出しているMVをいろいろ観たんですけど、どの映像にもテーマがしっかりあって面白い。自分でアーティストをやってるからこそ、音のリズム感と映像のはめ方の気持ちよさ、「こうしたい」っていうノリをすごくわかりやすく表現してくれるんですよ。今までのMV監督とはまたちょっと違う手法というか。Cö shu Nieって「この絶妙なリズムを聴かせたい」っていうところをいろいろ散りばめてるんですけど、そこをちゃんと汲み取ってくれそうやなと思ったので。Kazくんが俺らにどういうアイデアを出してくれるんだろうっていうワクワクもあったし。だから太鼓判を押してました。
ーーKazさんはMVを作る際はどのようにアイデアをまとめ上げていくんですか。
Kaz:たぶん長年ライターをやってた経験が生きてる気がするんですけど、どんなアーティストでも、撮る前にまずインタビューするんですよ。がっつり2時間くらい、「どこ出身なんですか?」とか「小学校の頃は何やってたんですか?」みたいな話をして。音楽ってコンテクストによって聴き方や印象が変わると思うんですけど、それを引き出したり説明する側の仕事をしてきたので、インタビューして把握した上で、「音楽的にこういう風に捉えられるな」っていう分析的な視点と、「この人ってこういう人生経験してるからこの表現になったのかな」っていう人間的な視点の二軸を持って、映像でその多面性を出すようにしている感じですね。
自分で曲を作る時もそうなんですけど、自分の表現したいことを自分自身が100%理解できていない時ってあるんですよ。MV撮る時にそれをもう1回考えて、いろんな要素を書き出しながら「本質的には俺ってこういうことを言いたかったんだな」みたいに言語化し直すんですけど、「Burn The Fire」と「Artificial Vampire」では、その再整理をかなりやりました。だから最初に想定していた案と、実際に撮影で使う案が違ってくることも多くて。
一人二役による葛藤表現、アバター、アナログ撮影…MVの様々なアイデア
ーーでは最新曲「Artificial Vampire」だと、中村さんはそもそもどのような曲を作ろうとしていて、それがMVの中でどのように発展・変化していったんでしょうか。
中村:まずブレインストーミングをしながら「情報化社会について書こう」と思って。私は“Artificial Vampire”っていうキャラクターを作りたかったんですよ。その子が無意識にいろんなものと関わることでいろんな事象が起きていくみたいな、無垢な存在として描きたくて。便利な技術がどんどん発展していくと頼りきりになっちゃうけど、そうなるといつの間にか、便利さを作り出している側がそれを享受する側から何かを奪っていくような気がするというか……自我が奪われていく感覚があって。今って自分に合わせてSNSがカスタマイズされるから、もらった情報に従って“好きにさせられている”ような感覚だし、そもそも世の中で何回も流れる曲は、誰かが売りたいと思ってる、もしくは大多数が聴く音楽だからそうなっているわけですよね。
あとはAIがアーティストの声を再現して歌ったりしてるわけですけど、そうやってどんどん作り手の領域にも侵食してきていることとか、あるいはプラスチックが環境によくないってわかっていても、あらゆるものに使われているから抜け出せないし、この社会に生きてる限り、誰もが無意識に環境破壊に加担してしまっているなと思ったりとか。それに対して一概に何かをはっきり言うこともできないし、わからないことだらけなんですけど、今改めて考え直すべきではないかと思うし、だからこそ“Artificial Vampire”っていうキャラクターに喋らせてる曲なんです。今、“自己愛の復活”というテーマでアルバムを作っているんですけど、そういったことさえ許していきたい気持ちがありながら、やっぱり手放しで許すわけにもいかへんよなって思う部分もあるから、考えていこうねって。曲にはいつも起承転結が欲しくなっちゃうんですけど、投げかけで終わる挑戦の曲でもありますね。
ーー情報化社会に対するあらゆる疑問符を、キャラクターを通して投げかけていると。
中村:そうです。いろんな要素がある中で、歌詞はすごく削って書いたんですよ。とはいえMVではどう収拾をつけようか悩んでいたんですけど、Kazくんから映像案をもらった時に点と点が線に繋がった気がして。辻褄が合った感じがしたんですよね。
Kaz:まず曲を聴かせてもらった時に、読み解き方の軸が3つくらい出てきたんですよ。今の話にも通ずるけど、1つ目が、与えられたものを何も考えずに享受して、脳死してしまったような状態。それは技術的な攻撃とも例えられるし、人類の集中力が年々短くなっているのも何かを奪われている感じがするなって。2つ目が、結局それでも便利だと思って使ってしまう自分たちに対して、「まあしょうがなくない?」と思う部分も正直あること。あともう1つポイントがあったんですけど、忘れちゃったんで思い出したら言います(笑)。
ーーお願いします(笑)。話を聞いてても思ったんですけど、やっぱり利用していると思い込んでいるシステムに、実は利用されているというのが肝なのかなと。
Kaz:あ、3つ目の軸で言おうと思ってたこと、まさにそれでした(笑)。利用すべきものに利用されている。今回の吸血鬼のモチーフってまさにそういうことじゃないですか。
中村:深淵を覗いていると、実は向こうからも覗かれてるっていう。
Kaz:人工知能による機械学習とかもそうで。AIツールを便利だと思って使用していたとしても、実際我々を利用して学習しているのはAIの方なので。
中村:私、まさにそのイメージで作ってたよ。最初は猫と犬の違いもわからないのに、徐々にAIが私たちからいろんな情報を得て、次第に細やかな判断ができるようになっていく。「Artificial Vampire」は〈君の脳をわたしにください〉〈君の体わたしにください〉と言っていて、人間以上のものになろうとしてることを曲にしているんです。
ーーなるほど。実際MVを観てみると、単に情報化社会を映像化するだけじゃなくて、中村さんと松本さんが演じている登場人物のパーソナルな物語まで読み取れますよね。大きなテーマ設定の曲が、MVを観ることでストンと手元に落ちてきたような感覚もあったんですが、解釈が整理された上で、実際どのように映像に落とし込んでいったんでしょう?
Kaz:僕のMVって一人二役やるものが多いんですよ。善悪をはっきりつけたりとか、「お前が間違ってる」みたいに言う表現って深みがないなと思ってるので、どちら側の視点もあって、それによって見た時の感覚が絶妙に変わるみたいな印象をあえて用意するんです。その葛藤を表現するのがアーティストだと思っているので。「Artificial Vampire」だと、「こうなりたい」という画面の中の理想の姿と、それを見ている2人の登場人物がいて、何かに憧れたり、恋焦がれている状態を設定しました。
中村:その話で思い出したことがあって。“Artificial Vampire”っていうキャラクターを作りたいと思った時に、どう映像で表現したらいいのかわからなかったんですけど、(Kazが)アプリゲームのアバターとして出すっていうアイデアを提案してくれたんですよ。なるほど、それなら一貫性のあるメッセージとして伝えられるんじゃないかと思えたし、それをできる限りアナログな手法で撮ったらどうなるのかっていう部分まで言語化してくれたよね。
Kaz:僕はあまりCGとかを使いたくなくて。勉強すればCGや他の技術で作れるシーンだったとしても、それをあえてアナログなアイデアで撮りたい。例えばスパイク・ジョーンズが大好きなんですけど、FKAツイッグスが家の中で踊ってるApple(「HomePod」)のCMがあって、家の壁がビョーンと伸びるんですけど、あれもCGを使わず、実際に壁を伸ばして撮ってるんですよ。そういう、「マジでこれやったの!?」みたいな映像にしたいから。「Artificial Vampire」のアバターのシーンもCGで作るんじゃなくて、ちゃんと実写で撮りながら、かなり初歩的な合成の技術で作るっていうのはこだわりました。
中村:編集とかもすごく凝ってるからそれだけのエネルギーを感じる映像なんですよね。あと、今回演技をしっかりできたのもよかったです。
Kaz:踊ってるシーンの撮影は側から見ると結構面白いことになってて。カメラの横で僕も一緒に踊ってるんです(笑)。
中村:自由に踊りながら、その中で「これもやってみようよ」と言ってくれたりとか。
Kaz:深夜1時くらいのテンションで、「正拳突きやっちゃおうぜ」って(笑)。
松本:あれは面白かった(笑)。
Kaz:演技という意味で言うと、僕はMVの中にアーティスト本人が全面的に出てきてほしいんですよ。俳優が演じて本人が全く出てこないタイプのMVもありますけど、僕としては本人が演じることで、曲をどう捉えているのかを表現できる映像にしたい。だから絶対しゅんす(松本)さんも出すって決めてました。ベースの演奏シーンもありますけど、やっぱり演奏はCö shu Nieの醍醐味であり、キャラクターの一部だと思うので。曲のグルーヴ感とか、「ベースめっちゃむずくない?」というところまで伝わってほしいなと思って。
松本:観る側としても演奏シーンは欲しいなって思うタイプなので、こういうストーリー性のあるMVでもそこを活かしてくれるのは、Kazくんのアーティストらしさを感じますね。