RYUSENKEI、体制変更で新たな音楽の地平へ 「2024年にシティポップ的な言葉を連ねても意味はない」
悪い行為は、きちんと批判しなければならない(瀧口)
――その他の日本語詞は、すべて瀧口さんが手がけていますが、ここにも、少なからぬ変化を窺うことができますね。
瀧口:この2024年に、いわゆるシティポップ的な言葉を連ねたとしても、もはや何ら意味を持たないなと痛感したんですよ。シティポップの流行った80年代は、リスナーたちが、豊かなライフスタイルへの期待を共有していた。可愛い彼女をオープンカーの助手席に乗せて、トロピカルな椰子の木の並んだ海沿いの道路を走る……みたいな(笑)。
――当時は、いずれ実現され得る、リアリティを伴った夢のようにとらえられていたのかもしれませんが、バブル崩壊から失われた30年を経て、あの世界観は、単なる妄想に終わってしまった感がある。令和の現在、昭和のシティポップを鑑賞する視線には、叶えられることのなかった未来像を愛でるという倒錯的なノスタルジーが含まれている気がします。
瀧口:将来のリスナーが、2024年にRYUSENKEIがこんな歌詞の曲を歌っていたと振り返ったら、ずいぶん呑気だなあと呆れるんじゃないかと思う。海外ではウクライナやパレスチナで戦争が起こり、国内では自民党の裏金問題をはじめとして政界の腐敗が止まらないわけだから。
――マーヴィン・ゲイやカーティス・メイフィールドといったニューソウルのシンガーソングライターが、洗練された旋律にのせて社会に対する異議を表明したことを思い出します。その姿勢はまた、後のスタイル・カウンシルにも通じるものがある。
瀧口:例えば、「もしかしたら2人」という曲は、単に甘い恋愛を歌っているように聴こえるかもしれないけれど、実は、リアルタイムで進行している戦争のことを歌っています。隣り合って暮らす民族同士が、なぜ互いを理解することができないのか。それに対するラディカルな疑問を、こういう形に仕立ててみました。
――「モンキー・ビジネス パート2」は、かなりダイレクトに現代社会へのプロテストを表明しています。昨今のショービズにおける性加害の告発にまで踏み込んでいるようです。
瀧口:悪い行為は、きちんと批判しなければならない。汚い奴らに騙されちゃいけないというメッセージを、ここに込めました。
Sincere:そういう曲がある一方で、これを本当にクニモンドさんが書いたのかと思うほど、女の子の視点で描かれたラブソングも収録されています。そこがいいなあって(笑)。
瀧口:「あなたはトリコ」という曲では、ツンデレな女の子を描きました。こういう歌詞を、Sincereのような声で聴いてみたいという願望を実現し、感無量です(笑)。
――「タイムトラベラー」は、そのものズバリである『時をかける少女』は言わずもがな、『ねらわれた学園』など、ジュヴナイルSFを原作とした角川映画を思い出させます。
瀧口:Sincereのボーカルを聴いた時、まず想起したのが、松任谷正隆・由実夫妻がプロデュースを行ったシンガー、麗美だったんですよ。角川映画の主題歌に深く関わったユーミンへの敬意が、ここに表れているのかもしれません。
――つまり、『イリュージョン』の歌詞では、ポリティカルとリリカルという二つの形容詞が両立しています。RYUSENKEIの新たなステージを目の当たりにした思いを強くします。
瀧口:ちなみに、冒頭の「スーパー・ジェネレイション」では、積極的な世代交代の必要性をアピールしています。Sincereみたいな若者たちを鼓舞するアンセムですね。
――「スーパー・ジェネレイション」という曲名は、明らかに、雪村いづみさんの同名アルバム『スーパー・ジェネレイション』にリスペクトを捧げたもの。つまり、すれっからしのマニアへの目配せも怠ってはいない(笑)。この名盤では、雪村さんがキャラメル・ママのメンバーを従え、笠置シヅ子の「東京ブギウギ」をはじめとする服部良一の名曲をカバーし、見事な世代の継承を行っています。しかも、レーベルはアルファ。新生RYUSENKEIのローンチ作の劈頭を飾るに、これほどふさわしい楽曲はない。
瀧口:ありがとうございます(笑)。
――アルファミュージックは、2019年にソニーの完全子会社になって以降、しばらくは従来通り旧譜の再発に専念していましたが、創立55周年を迎えた今年、約四半世紀ぶりにオリジナルの新譜をリリースする運びとなりました。その記念すべき一枚が、RYUSENKEIの『イリュージョン』というわけです。
瀧口:アルファといえば、作編曲家の村井邦彦さんが創業し、ガロ、荒井由実、吉田美奈子、そしてイエロー・マジック・オーケストラといった都会的なサウンドを生み出してきた老舗ブランド。その系譜に連なることは、光栄としか言いようがない。
Sicere:私も、アルファのさまざまな功績を周囲から耳にしていたので、ミュージシャンとしてはうれしい限りですね。
――これまでインディーズで活動してきたRYUSENKEIが、アルファミュージックに所属することになった経緯は?
瀧口:僕は2020年から、「CITY MUSIC TOKYO」と冠したシティポップのコンピレーションアルバムのシリーズをキュレーションしてきました。その担当者が、今回のアルバムのディレクターでもある蒔田聡さんだったんです。彼が、たまたまアルファミュージックのリブートプロジェクトも手がけることになり、じゃあ、RYUSENKEIもアルファからリリースしようじゃないかと決まったんです。思いがけない幸運に恵まれました。
――『イリュージョン』というタイトルは、世界的な大ベストセラー『かもめのジョナサン』で知られるアメリカの作家、リチャード・バックが1977年に発表した同名の小説から採られたとのことですが。
瀧口:僕は、村上龍が翻訳したヴァージョンを高校生の時に読みました。あの作品には、ヒッピーカルチャーの残響が濃い。そして、自由の大切さを訴えながらも、そこにはそれなりの責任が求められるんだと強調している。混沌とした世の中で、そのアティテュードは尋常でない重みを持つ。このアルバムに与えたインパクトは大きいですね。
――アジア圏においても、RYUSENKEIは高い人気を誇ると聞きます。瀧口さんは、この3月、北京、広州、上海という中国の3都市で、DJツアーを行ったそうですね。
瀧口:今、シティポップスと銘打ったイベントを開催したとしたら、日本の場合、来場するのは恐らく僕みたいな50代以上のおじさんが中心になるじゃないですか。ところが、中国では、20代の若者がたくさんやってくる。女子率も高い。レアグルーヴやフリーソウルに若いリスナーが夢中になっていた、90年代の東京のクラブシーンの熱気を彷彿とさせました。
――現地のオーディエンスは、どのぐらいシティポップスに通じているものなんですか。
瀧口:秋元薫とか当山ひとみとか、みんな、ちゃんと知っていることにびっくりしました。そういう盤を回すと盛り上がるんですよ。むしろ、泰葉の「フライディ・チャイナタウン」をかけた時は、ちょっとベタな選曲しちゃったかなと反省したぐらい(笑)。現地のDJは、日本の楽曲の他に、80年代の中華シティポップもかけたんですが、それが、かなり面白かった。山下達郎の「あまく危険な香り」をカバーしてたりするんです。
――そんなムーヴメントが盛り上がる中、まさに時宜を得たこのアルバムの発表は、RYUSENKEIの世界的評価をさらに高めることになりそうです。
Sincere:ソロとしての私のファンとRYUSENKEIのファン、どちらにも喜んで聴いてもらえるよう、これから一層成長を続けたいなと考えています。
瀧口:アルファミュージックの名折れにならぬよう、頑張ります!
■リリース情報
RYUSENKEI 『イリュージョン』
2024年4月24日(水)発売
MHCL-3082 ¥3,300(税込)
配信はこちらから→ https://lgp.lnk.to/b1BciC
<収録曲>
01. スーパー・ジェネレイション (Super Generation)
02. 月のパルス (Moon Beams)
03. あなたはトリコ (TRICOT)
04. タソガレ (TASOGARE)
05. モンキー・ビジネス パート2 (Monkey Business part 2)
06. タイム・トラベラー (Time Traveler)
07. 真夜中のドライバー (Midnight Driver)
08. 静かな恋のメロディ (Quiet Love Melody)
09. もしかしたら2人 (Maybe I Can Love My Neighbor Too)
10. 帰郷 (I Remember Nico)
RYUSENKEIオフィシャルサイト:https://www.ryusenkei.com/
ALFA MUSIC 55周年特設サイト:https://www.110107.com/ALFA55