XG、なぜHIPHOPファンの支持を得られた? ラップスキルと秀逸なリリックに対する評価を紐解く

 さらに、欧米圏のリスナーがよく指摘する点はリリックの良さだろう。特に2023年にNYでの『Head in The Clouds』(88rising主催の音楽フェス)でサプライズ披露された「[XG TAPE #3」の2曲は、90~00年代のアメリカのヒップホップカルチャーを熟知したネタが多数散りばめられており、リファレンス元やビートのネタ元への理解と活用の仕方が的確という評価が多いようだ。

[XG TAPE #3-A] Two Tens (HARVEY, MAYA)

 HARVEYとMAYAによるニュースクールをテーマにした「Two Tens」は原曲のTwo Tens=2人の100点満点の女をそのまま体現しているようだし、リリックにもThe Notorious B.I.G. & 50 Cent「Realest Niggas」やJ. Cole、The White Shadow of Norway、2PACなどのヒップホップクラシックからのリファレンスだけでなく、XGファンならわかる単語や過去の「XG TAPE」のリリックの引用など、密度の濃い内容だ。

[XG TAPE #3-B] Nothin' (JURIN, COCONA)

 JURINとCOCONAの「Nothin'」はオールドスクールの再解釈で、2002年にリリースされた(JURINは2002年生まれ)N.O.R.Eの原曲をビートジャックしている。こちらも最初のヴァースから原曲のN.O.R.Eの名前を織り込んだり、Cassidy & Swizz Beatz、The Notorious B.I.G、G.Dep、ミッシー・エリオット、N.W.Aなど豊富なリファレンスを思い起こさせる。16 Barsは16ラインのヴァースを表現する一般的な言葉だが、Arrested Developmentのトッド・トーマスが刑務所で行ったワークショップのドキュメンタリー映画のタイトルでもある。そのほか、プロデューサーのSIMONを思い出させるPharoahe Monch「Simon Says」をリファレンスにしたり、ファンダム名のALPHAZを折り込むなどの遊びも豊富だ。

 フロウやトーンなどのスキル面も重要だが、やはりヒップホップで最も評価の軸とされるのは「リリック」であり、この点でXGが「XG TAPE」で見せているパフォーマンスは他にない大きな強みを持っていると言えるだろう。

 XGALXの総括プロデューサーであるSIMONがアイドルとしてグループ活動していたDMTNは元々MCモンという韓国では知られたラッパーがプロデューサーで、SIMON自身もMCモンのアルバム『Humanimal』に参加したことがある。ソロになってからもヒップホップ/R&Bミュージックレーベル「ミリオンマーケット」から最初のアーティストとしてデビューした。 

 SIMONがアイドルだった2010年代前半のK-POP界では、アイドルの楽曲やコンセプトに「ヒップホップ」が活発に採用され始めた時期で、当時は今ほど韓国でもヒップホップジャンルが大衆化されておらず、ラッパーに憧れて音楽業界に入った若者の多くはアイドルグループのラップ担当として活動するしかなかった時代だった。その時代にアイドルとしてのトレーニングを受け、同時にラッパーとしてのクリエイティビティも養っていた経験がXGのスタイルに与えている影響を考えると、XGのラップスキルやスタイルはラッパーとヒップホップ系アイドルの境界も曖昧だった「第二世代K-POPアイドル」のスタイルを、K-POPのトレンドとは別のスタイルとしてブラッシュアップして現代に活用出来ているように見える。

 アルバム『NEW DNA』に収録された曲の中で最もヒップホップ色の濃かった「GRL GVNG」が、2023年に米国ビルボード「Hot Trending Songs Powered by Twitter」で1位にチャートインしたことを踏まえると、初のオールラップ曲となる「WOKE UP」はXGが期待されて待ち望まれていた曲となりそうだ。SIMONのInstagramアカウントが過去の投稿を全て消して「WOKE UP」一色になったということは、「来るべきものが来る」という暗示なのかもしれない。

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