友成空、「鬼ノ宴」ヒットを経て放つ新たな一手 「睨めっ娘」で進化する無二のセンスと存在感

友成空「鬼ノ宴」ヒット経た次なる一手

 今年1月にリリースした「鬼ノ宴」で大ブレイク、Billboard Japanの「Heatseekers Songs」チャートで3週連続1位を記録し、今なおTikTokやYouTube(同曲のリリックビデオは3000万回再生、カバー動画含む関連動画が5億回再生を超えている)を中心に聴かれまくっている友成空。昨年初めてワンマンライブを開催したばかりとは思えないスピード感で、彼に対する注目度は高まり続けている。そんな勢いのまま、3月には「I LOVE ME!」をリリース。そして5月15日にはさらなる新曲「睨めっ娘」を配信。リリースのペースとしても、そしてドロップされる楽曲のクオリティやインパクトの面でも、いよいよ本気の臨戦体制が整ったと言っていいだろう。

 小学生で音楽制作を始めた(!)という彼がデビューを果たしたのは2021年、彼が18歳の時のこと。たまたま事務所のデモテープ募集に応募したことがそこに至るきっかけだったという。そうしてリリースされたのが5曲入りのEP『18』。たった5曲だが、今聴き直してみても、ここには友成空というアーティストのポップセンスが凝縮されていると感じる。往年のポップスやロックのエッセンスを柔軟に取り込みつつ、人肌のあたたかみを感じるメロディと等身大の歌詞で彼自身の顔が見えるオリジナルソングに仕立てる手際は、すでに最初から完成していた。

 しかし一方で、『18』での彼は、ある意味では非常にナイーブな、良質なシンガーソングライターという印象だった。彼というアーティストの才能が本当に開花していったのは、『18』をリリースし、高校を卒業して以降――つまり2022年に入ってからだ。TikTokに続々とアップされたカバー曲の数々(フジファブリックにThe 1975、竹内まりやに藤井 風……とそのラインナップはバラエティに富んでいる)は、カバーするアーティストへのリスペクトを強く感じさせながら、節回しや音色のチョイス、アレンジ、そしてそれを体現する演奏や歌唱のスキルには強烈なオリジナリティが宿っている。配信リリースされたKANA-BOON「ないものねだり」やMONKEY MAJIK「空はまるで」のカバーを聴けば、原曲の“ツボ”を的確に捉えながら、それを彼にしかできない表現に昇華することに成功していることがはっきりとわかるだろう。

@tomonarisora この曲チューニングが違うって知ってた? #藤井風 #432hz #花 ♬ オリジナル楽曲 - 友成空

 つまり、友成空というアーティストの真価は、ソングライティングの能力もさることながら、必要な音を選び取り、それを咀嚼し表現する――リスナーとしての感覚の鋭さとプロデューサー的な視点の高さにある。比較対象が存在するカバー曲だとそれがなおさら強調されるわけだが、もちろんオリジナル曲においてもその資質は存分に発揮されている。メロウなギターのループが展開しながら感情の繊細な変化を浮かび上がらせる「コーヒー」、穏やかなグルーヴとキラキラとしたサウンドのテクスチャー、透き通るようなコーラスのアレンジが言葉以上に朝の空気感を表現している「グッドモーニング」、そしてベースのリフとハンズクラップが淡々と繰り返されるミニマルなサウンドを基調にしながら、挿入される多彩な音によって妖しげな“和”のムードを演出する「鬼ノ宴」。曲ごとにさまざまなイメージを表現しながらも、その強烈な求心力は一貫している。

 何を表現したいのか、何を描きたいのか、リスナーに何を感じさせたいのか。その意図が、すべての音に緻密に織り込まれている。そこに聴き手の生活とリンクする等身大の歌詞があわさることで、彼の楽曲は瞬時にして僕たちをその世界へと引っ張り込む。彼の楽曲はSNSを通してたくさんのカバーを生んでいるが、そうした広がりを生み出しているのも、解釈したくなる歯応えと、共感を呼ぶ普遍性が楽曲のなかに同居しているからだ。もっとも、彼にとって現時点で最大のブレイク作となっている「鬼ノ宴」に関して言えば、歌詞そのものは決して日常を描いたものではない。だがそのかわりに、友成は歌詞やメロディの端々に思わず口ずさみたくなるフレーズや節回しを散りばめている。〈宴が始月曜(はじマンデー)〉のような言葉遊び、〈食べなはれ〉や〈堕ちなはれ〉のような言い回しは一度聴いたら強烈に耳にこびりつく。切り口は他の曲とは違うが、むしろ彼のプロデュースセンスが全開になっているのがこの曲なのであり、だからこそ「鬼ノ宴」は爆発的なヒットとなったのだ。

友成空(TOMONARI SORA) - "鬼ノ宴" [Lyric Video]

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