岩田剛典がMATEを“Paradise”へと誘う LDHパフォーマー初ソロアリーナツアー初日を観た
囲み取材で僕はひとつ質問を投げかけてみた。ズバリ、この楽園がどのように再現されるのか。すると岩田は、「ここが僕の仕事場であり岩田剛典そのもの」だから、「一番僕を感じていただける空間」では、これまで数え切れない声援をもらってきたMATEに対して「ギフティングする」ことで、ここが「MATEにとっての楽園」になると明言してくれた。同時にこの楽園は岩田にとっての「生き甲斐」ともなる。客席とコミットするように全方位に向けて音楽が行き渡る「Paradise」は、曲調が心地よく、春の季節感にぴったり。ポカポカ陽気に身体が揺れる感覚は、ちょうど3月に来日していたPJモートンによるラバーズロック曲の朗らかな明るさとも通じ、“パラダイス・ハイウェイ”が、一瞬のうちに目の前に立ち上がる。人生を肯定的に捉えようとする自然な態度を促す、“ネアカ”岩田印のオプティミズムが、ツアーの偉業感を気張らず、軽やかにチャージする。まさに“ARTLESS”。
あるいは、TEAM Gのバンドメンバー紹介からシームレスに続く「korekara」のグルーヴ感は、『“THE CHOCOLATE BOX”』より一層メロウネスましましのボーカルフロウで、滋味深く会場に響いた。ライブ中盤の要となる「モノクロの世界」では、「会場のみんなに見せたい景色」とMCで銘打ち、白黒からカラフルなMATE色を見出すことができた。岩田にとってのMATEとは、感謝すべきファンであるばかりか、「Be My guest」というプロジェクト、はたまた岩田剛典そのものの“これから”を一緒に作り上げる共同制作者に他ならない。
岩田がXで「ただのドキュメントじゃないんで!」(※2)とポストしていた『ARTLESS』』初回生産限定盤特典 Blu-ray収録のドキュメンタリーで、僕は聞き手を担当させてもらったのだが、その収録中、MATEに対する感謝を何度も織り込むようにインタビューに応えていた姿を不意に思い出した。EXILE/三代目JSBのパフォーマー、俳優、ソロアーティスト、3つの草鞋すべてをひっくるめて、「パフォーマーの可能性を広げます」と言って徐ろに上を向いた瞬間の、「今の岩田剛典はこうなんだ!」という達観した眼差しを僕は覚えている。未来を志向する、含蓄あるその眼差しの先で座標を取るのは、いつでもMATEの存在だ。
同収録で、“MATE ONLY”な感謝の姿勢を垣間見た僕は、岩田の眼差しが仮託するもののひとりの証人として、今度はパフォーマンス合間のMCに耳を傾けてみた。いよいよライブも大詰め。会場に行き渡る熱気が満遍なく、まろやかに心地よい温度になったところで、こんな故事を“ドドンパ”。「怒髪天を衝く」ーー『ドラゴンボール』の超サイヤ人の髪型にたとえながら、「怒りっていうパワーは、今までの活動の原動力」だと説明し、辛酸を嘗めたこともある過去に言及する。「まだまだ道半ばではあるんですけど」と前置きしながら続くのは、「ペプシ<生>BIG ZERO LEMON」のタイアップ曲「MVP」。『802 BINGTANG GARDEN』(3月17日放送)で、「この業界に入るきっかけとなった1曲」として紹介されていたFlii Stylz & Tenashus「Break It on Down (Battlezone)」とセットで聴けば、KRUMPダンサーを原点とする岩田のルーツへの理解は深まるが、反骨の表現たる「MVP」が、LAストリート発祥のKRUMPの精神性と通じることの音楽的意義は特筆しておきたい。
「MVP」では、特効として花火もスパークし、クライマックスへ向けて投入されたのが、「Night Parade」。三代目JSBのライブでもお馴染みのトロッコに乗った岩田が、会場中を練り歩くように移動する。アーティストと客席が本当の意味で心から共鳴し合い、岩田とMATEが一体となる様は、「ライブ空間がパレード」という言葉通りだった。ラストのサビでステージ上に戻ると、紙吹雪が舞う。客席からは「岩ちゃん、ありがとう」コール。「アリーナが似合う男になれましたか?」と岩田が応じた瞬間にはグッときた。MCすらリリックとしてふるわせてくる。「みんなの存在は、僕自身でもあるし、僕の誇りです」と言って客席に微笑んだときには、やっぱり俳優だなと思った。ステージ上の大型モニターが、まるで映画のフレームだと錯覚してしまうのだ。囲み取材で感じた静かなる緊張が、まさか本人の涙として流れるだなんて、1stアルバム『The Chocolate Box』のタイトルに影響を与えた映画『フォレスト・ガンプ/一期一会』(1994年)の名台詞「人生は、チョコレートボックスのようなもの」を自ら証明している。さっきまで「水を飲むだけでキャーッと言われる男」と戯けていた岩田が、客席にいるMATEが涙する姿を見てもらい泣きし、両目にためた一粒、二粒の涙は、永久保存版。それこそ、同作主演のトム・ハンクスのようにアカデミー主演男優賞ものだ。
そんなMATEへの感謝を込めて作られた「Only One For Me」が、もちろん、アンコール曲となった。MATEがいる限り、どんな高みにでも駆け上がっていけるのだとすると、岩田剛典的“ARTLESS”な楽園の先で、僕らは最終的にどんな夢の場所へたどり着くのか。終点がないからこそ、上昇気流に乗って上へ上へ。成層圏、大気圏も越え、たどり着いたのは宇宙……!
ここでもうひとつだけ、映画の話題を。1995年公開の幽玄的傑作フィルム『書かれた顔』主演の坂東玉三郎がこんなことを言っている。
「ひとつの空間をパッと区切られたときに、その区切られた中にパッと宇宙観を表現できる人たち。それが演劇的な人たちだと思ってます」
今回のツアーでの岩田は、ライブ全体の統括プロデューサーでもある。なるほど、演者が演出も兼ねる方式は、能楽や歌舞伎など、古来から続く伝統芸能の習わし。玉三郎が言うところの「演劇的な人」(ライブアーティスト)である岩田剛典が、アリーナ会場全体を「宇宙観」として拡大した公演初日は、やっぱり掛け値なしで歴史的偉業に相応しい一夜だったのだ。
※1:『ARTLESS』初回生産限定盤特典 Blu-ray 収録ドキュメンタリーより
※2:https://twitter.com/T_IWATA_EX_3JSB/status/1769313983071498551
■公演日程
『Takanori Iwata LIVE TOUR 2024 "ARTLESS"』
【福岡公演】
日程:2024年4月2日(火)
会場:マリンメッセ福岡 A館 開場:17:30 /開演:18:30
日程:2024年4月3日(水)
会場:マリンメッセ福岡 A館 開場:17:30 /開演:18:30
【埼玉公演】
日程:2024年4月9日(火)
会場:さいたまスーパーアリーナ 開場:17:30 /開演:18:30
日程:2024年4月10日(水)
会場:さいたまスーパーアリーナ 開場:17:30 /開演:18:30
【大阪公演】
日程:2024年5月9日(木)
会場:大阪城ホール 開場:17:30/開演:18:30
日程:2024年5月10日(金)
会場:大阪城ホール 開場:17:30/開演:18:30
【静岡公演】
日程:2024年5月25(土)
会場:エコパアリーナ 開場:15:00 /開演:16:00
日程:2024年5月26日(日)
会場:エコパアリーナ 開場:14:00 /開演:15:00
武道館追加公演決定!
「Tananori wata LIVE TOUR 2024 "ARTLESS" FINAL in 武道館」
【東京公演】
日程:2024年6月6日(木)
会場: 日本武道館 開場:17:30 /開演:18:30
日程:2024年6月7日(金)
会場: 日本武道館 開場:17:30 /開演:18:30
【詳細はこちら】
https://www.ldh-liveschedule.jp/sys/tour/25680/
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