花譜、新たな姿=“廻花”でバーチャルの向こう側へ 国立代々木第一体育館を圧倒した音楽×テクノロジー

 「踊子」と銘打たれた第3部は、DJミックス「KAF DISCOTHEQUE」で幕開け。ダンサーチームのクールなパフォーマンスを交えながら、ダンサブルなディスコナンバーを中心に進行した。“起源形態 犀鳥”へと姿を変えた花譜が自身の音楽的同位体 可不(KAFU)とのデュエットで「CAN-VERSE」「トウキョウ・シャンディ・ランデヴ」を披露すると、さらにはバーチャルヒューマン形態・VIRTUAL BEING KAFにも変身。メインスクリーンいっぱいに映し出される勇姿の物理的なスケール感でオーディエンスを圧倒しつつ、長谷川白紙「蕾に雷」、大沢伸一(MONDO GROSSO)「わたしの声」でのタッグによってアーティスティックなエンタテインメントショーを展開した。

 そして第4部は「歌承」。カンザキイオリのKAMITSUBAKI STUDIO卒業に伴い、新たなソングライター陣とともに作り上げた“歌承曲”と呼称される新曲群を披露するブロックだ。ステージには“特殊歌唱用形態 扇鳩”と呼ばれるマント型の新コスチュームに身を包んだ花譜が通常サイズで現れ、「スイマー」「アポカリプスより」「ホワイトブーケ」「ゲシュタルト」といった新基軸の楽曲群を惜しみなく連発していく。そしてフュージョン系インストナンバーの演奏に乗せたバンドメンバー紹介を経て、KAMITSUBAKI STUDIOの同僚にあたるシンガーソングライター・Guianoが登場。本ブロックの締めとして、彼の手がけた「この世界は美しい」が2人の息の合ったコンビネーションで届けられた。

 ここで不意に舞台が暗転すると、メインスクリーンに意味ありげな「深化 Alternative 5」の文字が躍った。そこには「現実の身体に、バーチャルインターフェイスを実装し、リアルとバーチャルの関係性を反転させた『あらたな存在』へと分岐すること」との語義説明も添えられており、にわかに客席の観測者たちがざわつき始める。そして「廻花」という謎の文字列が表示されると、ややあってメインスクリーンにサイバーテイストのきらびやかなバーチャル空間が出現。そこには華奢な体つきをした少女とおぼしき人物のシルエットが、ほのかに輝く光輪のような3Dエフェクトをまとって佇んでいた。

 アリーナ中に戸惑いの空気が充満する中、おもむろにピアノの寂しげな旋律が奏でられる。するとシルエットの人物がか細いシルキーボイスでそっと歌い始め、そこに流麗な弦のアンサンブルが重なっていく。客席からは驚きと感動の入り交じった複雑な色合いの拍手が自然と巻き起こる。すると不意にドラムの性急なフィルインが打ち鳴らされ、楽曲はグルーヴィなAORナンバーに変化した。シルエットの少女は囁くような歌声から力強いハイトーン、さらにはつぶやきにも似たポエトリーリーディングまで、多彩なボーカル表現を交えながら楽曲の張り詰めた世界観を丁寧に構築していく。再びピアノと弦のみの間奏に差しかかったところで、彼女は唐突に「皆さん、はじめまして。廻花です」と名を告げた。

 廻花とは、ひと言で言えば花譜の新たな表現形態だ。“オリジン”と呼ばれる、いわゆる“中の人”の生身の姿をLEDスクリーンに投影するビジュアル表現を用いて、彼女自身が作詞作曲したパーソナルな楽曲を届けていく“バーチャルシンガーソングライター”と位置づけられている。実際にこの日は彼女が高校生の頃に作ったという楽曲を中心に、全5曲の自作曲が披露された。

 終盤のMCでは、廻花という名前や存在そのものに込めた思いを述べつつ、「今日ここから“廻花”を始めます」と開花宣言ならぬ廻花宣言で喝采を巻き起こした廻花。そしてシンフォニックかつポエトリックなピアノロックナンバー「かいか」で約3時間におよんだ充実のステージを爽やかに締めくくったあと、改めて「花譜と廻花、どちらも私です。どんな歌も楽しく自分らしく歌っていく花譜、より自分自身の内側から湧き出るものだけで形作る廻花。これからは自分なりの歩幅で2つの活動を続けていきたいと思います」と所信を表明。最後には涙で声を詰まらせながら「みんな、愛してる!」の言葉を振り絞り、「花譜でした。そして廻花でした。またね!」と大きく手を振りながら次元の向こう側へと姿を消した。

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