ACIDMAN、映画『ゴールデンカムイ』との運命的な共鳴 主題歌「輝けるもの」を大木伸夫が語り尽くす

ACIDMAN『金カム』主題歌を語る

 昨年2023年は自身のツアーに加え、フェスにイベントに、とライブ活動に精力を注ぎ込んできたACIDMANが約3年ぶりとなるシングル『輝けるもの』をリリースした。

 シリーズ累計2500万部突破のベストセラー漫画を実写映画化した『ゴールデンカムイ』の主題歌として書き下ろした主題歌の「輝けるもの」が、彼らの「ある証明」(2005年5月)や「Stay in my hand」(2014年7月)を連想させるアップテンポのロックナンバーになったことを意外と感じるリスナーも少なくないと思うのだが、作詞・作曲を手掛けたバンドのフロントマン 大木伸夫(Vo/Gt)がその理由を含め、曲に込めたさまざまな思いを語ってくれた。(山口智男)

ACIDMAN - 輝けるもの ( 映画『ゴールデンカムイ』主題歌 )

主題歌オファーは「激しい曲ではあるけれど、若い人には歌えない歌」

――シングルとしてリリースした「灰色の街」と「Rebirth」、その2曲も含むアルバム『INNOCENCE』という直近の流れを考えると、アップテンポのロックナンバーである「輝けるもの」は、ある意味では意外でもあるし、こういう衝動を感じさせる曲がACIDMANのなかに蘇ってきたという印象もありました。「輝けるもの」がそういう曲になったのは、どんなきっかけがあったのでしょうか?

大木伸夫(以下、大木):僕自身、『ゴールデンカムイ』の大ファンだったから、お話をいただいた時、すごくワクワクしたんです。オファーも、「激しめの曲で」という希望でした。僕のなかでは、こういうパンキッシュな曲はもうやらないかもしれないとも思っていたので、逆にありがたいチャンスをいただけたと思ってますね。

――パンキッシュな曲はもうやらないだろうと思っていたのは、どうしてだったんですか?

大木:自分が作りたいか作りたくないか――それだけのことなんですけど、“激しい曲”というものは、衝動的であるべきだと思うんです。「作りたい!」と思ったら作るもので、狙って作るものじゃないと思うし、もうそういう歳じゃないだろうという自覚もありますし。もちろん、今体力的な老いを感じているわけではないんですけど(笑)、でもいずれそういう時は来るわけだから、その準備はしておかなきゃいけない。その一方で、パンクバンドと思われるのもイヤだという気持ちもあって。だからと言って、バラードバンドと思われるのもイヤで(笑)。いろいろなことをやっていきたいんです。だから、ひとつのイメージだけになりすぎないように、だけれども、アーティスティックなバンドでありたいという気持ちがずっとあるんですよね。そうなると、パンクの方向性は、僕のなかではちょっと外れてくる。僕にとって、パンクというものは若さゆえの衝動的なものだったので。でも、今回そういう激しい曲を求められたことによって、その方向にしかないよさを再確認できたんです。「激しい曲ではあるけれど、若い人には歌えない歌を歌ってほしい」というオファーをいただいたことで、ACIDMANがそういうふうに見ていただけているんだなという、ひとつの自信にもなりました。

――映画の主題歌であることはもちろんですが、ライブで観客の声出しが解禁されたことやコロナ禍が明けてACIDMANとして初めてリリースするシングルであることとか、ひょっとしたらそういう背景も少なからずきっかけになっているんじゃないかと想像したのですが。

大木:どうなんでしょうね。ライブで激しい曲をやった時のレスポンスの感動はすごく溢れているんですけど、今回の話がなかったら、僕のなかではもう少しライトな曲を発表しようと考えていたんです。すごくピースフルな曲があって、それをずっと温めていたんです。でも、映画の主題歌のお話をいただいたことで、「まだこういう楽曲をやってもいい歳なんだ」「もうちょっとかっこつけてみよう」と思わせていただきましたね。

――でも、「輝けるもの」のようなアップテンポの曲が、コロナ禍が明けて1発目のシングルになったのはACIDMANにとって、きっととてもいいことですよね。

大木:それはもちろんです。ここでもう一度気合いを入れ直して、もっともっと上を目指せる自信になればいいなと思います。

――映画『ゴールデンカムイ』の主題歌のオファーをもらったのが、とあるライブ出演の20分前だったそうですが。

大木:そうなんですよ。レーベルの代表から、夕方くらいに電話が来たんですけど、僕らはリハーサルで忙しかったから、「明日かけ直そう」と思っていたんです。そうしたら、ステージ衣装に着替えて、イヤモニも準備した時にまた電話がかかってきたから、何か大きな問題が起きたんじゃないかって。でも、僕らはそんな心当たりないし(笑)。

――(笑)。

大木:「何かしたっけ?」ってちょっとドキドキしながら折り返したら、第一声が「大木くん、『ゴールデンカムイ』って知ってる?」だったんです。「もちろん知ってますよ!」「実写化されるんだけど」というやり取りがあったあと、「主題歌のオファーが来ているんだけど」って言われたから、「絶対やります」と即答しました。めちゃめちゃ嬉しかったですね。その時に、「『ある証明』のような激しめの曲がいい」という映画のプロデューサーの松橋(真三)さんからのリクエストを聞いて、一瞬でイメージが湧いてきて、イントロだけ、すぐにボイスメモで録ったんです。

ACIDMAN - ある証明

――もともと大木さんは『ゴールデンカムイ』の大ファンだったそうですが、原作を読み始めたのはどんなきっかけでした?

大木:数年前、ファンの方から1巻だけいただいたのがきっかけでした。そのあと、続きを読んでみたらすごく面白かったんです。

――どんなところが面白かったですか?

大木:まず、アイデアがキャッチーですよね。金塊という人間の欲が吸い寄せられるものをモチーフにしながら、アイヌの方たちの美しい生き方を対比させて物語が描かれているんです。僕は、アイヌの方たちについての知識はあまり持っていなかったので、「こんなに美しい世界観を持っているんだ」という勉強にもなりました。『ゴールデンカムイ』は、グルメ漫画とも言われていて、なおかつ、ギャグ漫画としての要素もあるし、バイオレンス感もあれば、アドベンチャーもあって、いろいろなものをちゃんとエンターテインメントにしたうえで、最後大団円で終わらせる。読み終わったあと、本当にすごい漫画だと思いました。エンタメとしてこんなにまとめている漫画は、今までなかった気がすると思うくらい面白かったです。

――ボイスメモに録音したイントロから、どのようにして「輝けるもの」を作り上げていったのか聞かせてください。

大木:ボイスメモの録音から大枠を作っていったんですけど、じっくり考えて作っていくと、かえって悩んでしまってよくないと思ったので、なるべく衝動的にやろう、と。夜な夜な自宅のリビングでいろいろなパターンのメロディをギターも持たずに吹き込んで、5パターンぐらい作ったのかな? そこから「これだ!」と思えたメロディを研ぎ澄ましていって。

 実は、その2週間後くらいに松橋プロデューサーとZoomで打ち合わせさせてもらうことになったんです。まだ直接打ち合わせしていないのに勝手に作るのは危ないと思いつつ、でも、その時すでに僕のなかではある程度曲の方向性が固まっていました。しかも、最初に言われていた「ある証明」のイメージというよりも、「Stay in my hand」のほうが『ゴールデンカムイ』には合う気がして、そのイメージで作っていたんです。そうしたら、Zoomで打ち合わせた時に、プロデューサーさんが「実は『Stay in my hand』みたいな曲にしてほしいんです」っておっしゃったから、すっごく鳥肌が立って。「そういうふうに言われるんじゃないかと思って準備してました!」って。それで決まりましたね。

――大木さんの読みが正しかったわけですね。

大木:メンバーとマネージャーにも聴いてもらって反応もよかったので、準備していた「輝けるもの」をプレゼンさせていただきました。

――当時は、メロディだけが出来上がっていた状態だったんですか?

大木:メンバーに聴いてもらった時には、すでにメロディと歌詞と展開、間奏まで、ほぼすべてできた状態でしたね。

ACIDMAN - Stay in my hand

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる