ACIDMAN、映画『ゴールデンカムイ』との運命的な共鳴 主題歌「輝けるもの」を大木伸夫が語り尽くす

ACIDMAN『金カム』主題歌を語る

『ゴールデンカムイ』に導かれた「輝けるもの」

――歌詞はどんなところを取っ掛かりに書いていったんですか?

大木:『ゴールデンカムイ』で描かれているアイヌの人々の生き方と、欲にまみれた僕たちの対比を描きたいと思いました。〈だからその手を離さないで/この手は君を守るために〉と歌っている間奏の4行は、「主役のふたり(杉元佐一とアシㇼパ)が手を取り合うシーンがあるので、それを想起させる言葉があると嬉しいです」というプロデューサーさんからのリクエストで書いたんですけど、それは僕も願ったり叶ったりといいますか、そのシーンは絶対に大事だと思っていました。漫画が原作だから、子どもたちも含め、老若男女いろいろな方が聴くと思ったので、変にアーティスティックな表現をしちゃうと、そういう表現にアレルギーを起こす人もいるだろうし、耳にした時にすごくわかりやすい言葉を使うように意識して。自然と共に生きる人たちと、僕ら欲望にまみれた者たち、どちらも否定したくなかったんです。

――そこは単純な勧善懲悪じゃない、と。

大木:『ゴールデンカムイ』の登場人物の誰もが人間としての悪さを持っているんですよ。それは仕方のないことでもあって、僕らが強く生きようと望むから生まれてきてしまう摩擦みたいなものだから、強く生きるために誰もが目標を掲げて、それに手を伸ばしている。その目標というものが金塊なのか、夢なのか、地位なのか、宇宙の神秘なのか――何なのかはわからないけど、そういう渇望の美しさと残酷さを自然が包みこんでいるような歌にしたいと思いながら、言葉にしていきましたね。

――欲望を否定しないところが大木さんならではの視点ですよね。

大木:僕自身、欲にまみれている人間ですからね(笑)。いや、欲にまみれてない人なんていないと思います。それが人間の弱さでもあるし、逆に強さでもある。誰だって戦争はしたくないし、誰だってお金持ちになりたいのに、満たされている人はほとんどいなくて、満たされることが目標ではないこともわかっているんだけど、次々に手を伸ばしてしまうというのは、人間として、それこそ生命としてしょうがない。僕のなかでは、それを「輝けるもの」というワードで表現しました。金塊なのか、命なのか、星なのか、すべてそこで光っているから、僕らは手を伸ばす。象徴的なタイトルになったのかなと思いますね。

――欲望を求める気持ちも含めて「輝けるもの」、そしてそれこそが生命だと。

大木:「いつ死んでもいい」と思いながら生きているけれど、最後の瞬間、喉がカラカラで、そこにあるコップに水が入っていたら飲むと思うし、もしかしたら誰かを差し置いてでも飲んでしまうかもしれない。それを“強さ”と言っていいかどうかはさておき、そういうものすら肯定していきたいという思いはありますね。

――「輝けるもの」は、展開、構成、アレンジは衝動に突き動かされているだけではなくて、テンポがぐっと落ちる間奏も含め、ドラマチックだと思いました。

大木:このアレンジも、僕のなかでは結構衝動的なんですよ。間奏では対比を見せたくて、ストイックにアンビエントにしたかったけど、同じコードの繰り返しで、そんなに悩まず、煮詰めず、煮込まず。最初のアイデアをそのまま活かしたという印象があります。

――Aメロのアレンジが秀逸だと思いました。イントロでかき鳴らしていたギターがAメロではグッと後ろに下がって、代わりに大木さんの歌メロの裏で佐藤(雅俊)さんのベースが奏でるカウンターメロディが際立つ一方で、浦山(一悟)さんのドラムは手数をかなり抜いたことで逆に耳に残るものになっているのですが、そのドラムが1番では〈その風の中で舞い踊って〉という歌詞に合わせて踊るようなフレーズになっています。2番では〈僕らは争い合うばかりだ〉という歌詞に合わせて、僕にはスネアの鳴り方が銃声に聴こえたんですよね。

大木:なるほど。そう言われてみると、たしかに。意図していなかった部分だけれど、そういう解釈の仕方もあっていいですね。

――でも、1Aと2Aのドラムのフレーズを変えているのは、ちゃんと理由があるんですよね?

大木:もちろんアレンジは細部までこだわっていますけど、明確なビジョンがいつもあるわけではないんですよ。「輝けるもの」に関しては、「この歌にはこのリズムが合うでしょ」「ここで呼吸をしているからもっと裏の拍じゃないと」という感じでしたね。僕はそもそも歌詞に合わせて、リズムを作るってことはあまりしないんです。メロディに合わせてリズムを作っていくんですけど、今回は意識していないところで、おっしゃっていただいたような形でうまくハマったんだと思います。

――リスナーにはぜひ、そんなことを意識しながら耳を傾けてみてほしいです。ギターのアプローチはどんなふうに考えましたか?

大木:歌詞と同じでわかりやすく、シンプルにしようと思いました。Aメロは最初アルペジオにしようかと思ったんですけど、クリーントーンのコードストロークにして、ギターを始めたばかりの人でもちょっと練習すれば弾き語りできるようなフレーズにしました。そのうえで、キレよく、荒々しさと激しさを意識しながら弾きました。

――ボーカリストとしては、いかがでしたか?

大木:歌がいちばん難しかったですね。荒々しく無骨にするべきなのか、上品にするべきなのか、どっちに寄せようか悩んで。最初に作った時は、声を潰してもっと叫んでいるようなイメージだったんですけど、あまり合わなかったというか、わざとらしくなってしまって。それで、丁寧にエモーショナルに歌うことを意識しました。

――ACIDMANが今衝動的なものをやるとそうなる、ということなんでしょうか?

大木:もしかしたら、この曲に関してだけかもしれない。そこはわからないですね。今回はオファーをいただいたので、自分が作っているというよりも、『ゴールデンカムイ』に導かれて作っているところもあるから、丁寧に歌うっていうのはそこから出てきたのかもしれないです。それこそ、丁寧に(歌を)届けることを今まででいちばん意識したかもしれないです。

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――映画は、先にご覧になりましたか?

大木:観させていただきました。すごく面白かったです。でも、今回実写化されているのは、原作の本当に最初の部分だけなんですよ。

――そのようですね。

大木:今回の作品は、まだ始まりに過ぎない――というふうに終わるんです。だからこそ、プロデューサーさんは激しめの曲をオーダーしてくれたと思うんです。最後に「まだまだ続いていきますよ」という雰囲気を求めていたということが、映画を観終わったあとにわかりました。「そうか、ワクワクさせて終わるパターンなのか」って。もしあるのであれば、早く次が観たいと思いましたね。

――映画の一部として流れる「輝けるもの」を聴いて、いかがでしたか?

大木:照れ臭いところもあるけど、本当に作品に寄り添ったので。ただ、そこもプロデューサーさんからはありがたいことに「寄り添いすぎないでほしい」と言っていただいたんです。「寄り添いすぎると、こってりしちゃうから」って。それは僕も感じていて、寄り添いすぎてしまうと、曲が滲むというか、雰囲気が混ざっちゃうんですよ。だから、そういうところは気をつけたし、ハマりすぎていると主題歌として美しくないとも思っていたので、僕のアインデンティティやACIDMANの世界観をちゃんと入れながら寄り添ったつもりで。そこはうまくできたんじゃないかなと、映画を観た時に思いました。

――たしかに、作品だけにかかわらず、今世界で実際起こっていることにも重なる曲ですよね。

大木:そうですね。そういう本質的なことは常に歌っていきたいし、大袈裟に歌っていくべきかなと僕は思っています。

――映画を観た人をワクワクさせる以外に主題歌として、どんな役割がありますかね。

大木:この曲が流れるたび、何年後でも映像や世界観が浮かんでくれたらいいかな。久保(茂昭)監督から、「『ゴールデンカムイ』を含め、北海道というと誰もが雄大な大地を表現しがちだけど、大木さんは視点を空に向けたんですね」って言ってもらえたのがうれしくて。

――ああ、なるほど!

大木:「さすがの視点ですね」って言っていただいたんですけど、たしかに! と思いました。「僕は北海道の雄大な自然を感じながらも、カメラを上に向けた」というのは監督ならではの聴き方だなと思って。そんなふうに『ゴールデンカムイ』に立体的に、空間的に色を添えられたらいいですよね。今お話をしていて思い出したんですけど、主題歌を作るにあたって原作をもう一度読み直した時に、「あまり星についての描写がありませんように……」って思ってました(笑)。

――(笑)。

大木:それで読み返したら、星に関してのシーンはあまりなかったのでよかったです(笑)。「空の星に向かって手を伸ばす」というのは昔から僕のテーマでもあるので、その姿勢のままなら過度に寄り添いすぎずに曲が作れると思ったことを監督に見抜いていただけたのは、嬉しかったですね。

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