『BTS Monuments: Beyond The Star』が映し出すARMYとBTSの絆 天国と地獄を経験した10年

ドキュメンタリーが映し出すARMYとBTSの絆

 その悪循環を打開したのが、2015年からの「青春三部作」“花様年華”シリーズだ。第1弾『花様年華 pt.1』から「学校三部作」のヒップホップのイメージを一新させ、少年から青年へと成長する過程の苦悩や葛藤を美しいメロディに乗せて描き、青春の危うさをクローズアップした。パフォーマンスを重視していたMVも、短編映画のようなストーリー性のある壮大なものに変わった。「あのころの僕たちをそのまま曲にした」(JIMIN)、「青春の苦悩が自然と表現できた」(SUGA)と話すように、時代と彼らの成長過程がマッチし、デビュー3年目にして「I NEED U」で初の音楽番組1位を獲得することができた。

 2016年には“花様年華”シリーズ最終章『花様年華 Young Forever』を発表し、憧れのオリンピック体操競技場(現KSPO DOME)でライブ『2016 BTS LIVE 花様年華 ON STAGE : EPILOGUE』を行う。「Blood Sweat & Tears」を収録した2ndフルアルバム『WINGS』も好評を博し、11月には高尺スカイドームでファンミーティング『BTS 3RD MUSTER [ARMY.ZIP+]』を開催。ライブ会場もどんどん大きくなり快進撃が続いていたが、成功と比例するようにいわゆるアンチも増えていき、「ワクワクするはずの新曲公開が怖くなってきた」とRMは当時を回想する。『BTS 3RD MUSTER [ARMY.ZIP+]』でそのころの心情を自分たちの味方であるARMY(ファン)に向け歌ったのが、「2! 3!」(アルバム『WINGS』収録)だ。ファンソングなのにどこか悲しさの漂うこの曲の切実さがARMYとBTSの絆を深くしたが、そんな瞬間をも余すことなく映像で見せてくれる。この年の年末にはアジア最大級の音楽授賞式『Mnet Asian Music Awards』で念願の大賞を受賞し、ついにBTSは韓国音楽界の頂点に立つに至った。

 2017年になるとグループ名を「防弾少年団」から「BTS」に改め、本格的な世界進出を開始する。ライブは世界19都市40公演という過去最大規模のワールドツアー『2017 BTS LIVE TRILOGY EPISODE III THE WINGS TOUR』を敢行し、日本では同ツアーの“SPECIAL EDITION”として初のドーム公演を京セラドームで開催。音楽的には、「LOVE YOURSELF」という新シリーズをスタートさせた。さらにアメリカでは、『ビルボード・ミュージック・アワード2017』で6年連続受賞してきたジャスティン・ビーバーを破り、トップ・ソーシャル・アーティスト賞を初受賞。『アメリカン・ミュージック・アワード2017』に韓国グループとして初めて招待され、「DNA」をパフォーマンスするという快挙を達成した。そしてリミックス楽曲「MIC Drop (Steve Aoki Remix) (Feat. Desiigner)」がBillboard Hot 100で28位にランクインし、ワールドスターへの階段を勢いよく駆け上っていった。

 表面上は順風満帆。しかし当時を振り返るメンバーたちからはこんな声が……。「全員が辞めたいと思っていた」(SUGA)、「みんな泣いていた」(V)、「こんなにも注目されると思っていなかった」、「燃え尽きた」(JIN)、「走り続けている感じがした」(JUNG KOOK)。周りのお祭り騒ぎとは逆に、彼らの心と身体はボロボロになっていたのだ。2018年にはBillboard 200で1位を獲得。年末の『Mnet Asian Music Awards』で2つの大賞を含む五冠を受賞するも、受賞コメントでJINが「事務所との再契約を前にグループ解散も話し合った」と言及し、メンバーたちが涙して大きな衝撃を与えたが、栄光と波乱に満ちた2018年に突入する場面で第2話が終わる――。

 興味深いのは世界に注目されるようになったBTSメンバーたちを前に、パン・シヒョクが「音楽に対する愛情とファンへの感謝を忘れてはならない」と説いた後、グループのさらなる飛躍や成功ではなく、「僕は君たちが幸せになる方法をみつけたい。これまでのスーパースターは幸せになっていないから」と各人の幸せを願ったことだ。このころBTSが掲げていた「LOVE YOURSELF」に通じるが、天国と地獄を同時に味わっていた彼らにとって、ARMYの声援はもちろんだが、彼ら各人に寄り添ってくれる人がいたことも大きな力になったのではないだろうか。

 この『BTS Monuments: Beyond The Star』には、彼らをより近くで見てきたHYBE会長パン・シヒョクや、オフィシャルブック『BEYOND THE STORY ビヨンド・ザ・ストーリー:10-YEAR RECORD OF BTS』の著者カン・ミョンソクも登場し、周囲の大人の目線でもBTSが語られる。

 第3話では精神的どん底にあった2018年が描かれているのだろう。以降は、「Dynamite」「Butter」でビルボードを席巻し、「21世紀のビートルズ」といわれる存在に。ドキュメンタリーの冒頭でRMは、「芸術は世界を救えると信じている」「音楽は国境も人種も超える」と語っているが、その境地に至る過程にも興味がそそられる。この『BTS Monuments: Beyond The Star』では、韓国での授賞式や単独公演、『アメリカン・ミュージック・アワード』、『ビルボード・ミュージック・アワード』、国連での講演や、ロサンゼルスのローズボールスタジアム、ロンドンのウェンブリー・スタジアムでのパフォーマンスに加え、入隊前に行っていたソロ活動など、BTS史に欠かせない映像も満載なのも見逃せない。

 今月入隊したRM、V、JIMIN、JUNG KOOKの除隊は、2025年6月の予定だ。BTSは入隊前に、HYBEと2度目の再契約を締結しているが、『BTS Monuments: Beyond The Star』は2025年のグループ再始動に向かう様子を追う作品だともいえるだろう。4人の入隊のタイミングでARMYは、「今は会えないけれど、寒く辛い冬が終わり、春の日は再び訪れる」と歌う6年前の楽曲「Spring Day」をiTunesメインチャートのソングチャートで1位にランクインさせた。ARMYとBTSの絆があれば、これからの1年半も乗り切れるに違いない。

■配信情報
『BTS Monuments: Beyond The Star』
ディズニープラスにて、12月20日(水)より独占配信開始(毎週水曜2話ずつ配信/全8話)
出演:RM、SUGA、JIN、J-HOPE、JIMIN、V、JUNG KOOK
監督:パク・ジュンス
©2023 BIGHIT MUSIC & HYBE
配信サイト:https://www.disneyplus.com/ja-jp/series/bts-monuments-beyond-the-star/3ItPowcufUqR

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