ハナレグミ、“夢中”に身を委ねる大切さ 新たな煌めきを掴んだ2023年のライブも振り返る

ハナレグミ、“夢中”に身を委ねる大切さ

 ハナレグミの2023年はかなり濃密な1年であった。とにかくコロナ禍の時期を取り戻すかのようにライブをたくさんやっている。今回はインタビューを通して、そのライブで一緒になった年下世代、同世代、年上世代のミュージシャンたちについても尋ねてみた。想定以上に具体的な話を聞けたと思う。

 また、SUPER BUTTER DOG時代から個人的に感じていた永積 崇が持つ肉体性と内面性という両面性についても、自然に本人から話してもらえた。新曲「MY夢中」(11月17日配信リリース)にも繋がるが、結局のところ自分自身が夢中になりたいというシンプルな答えに辿り着いたとも言えるのだろう。ハナレグミの2024年の活動についても語ってくれているので、ぜひとも読んでいただきたい。(鈴木淳史)

世代の異なるミュージシャンとの共演で得た刺激

――まずは改めて2023年を振り返っていただけたらと思います。

永積 崇(以下、永積):今年はめちゃくちゃライブをやったね。去年からずっとやっている弾き語りツアー(『Faraway so close』)がコンスタントにあって、それ以外にも普段なかなか一緒にやれないようなミュージシャンとの面白い企画があったりとか。パッと思い浮かぶのは、高木正勝くんと福島でやったもの(3月開催『種を蒔くデザイン展 LIVE in fukushima 』)。それから、中村佳穂ちゃん、GEZAN、熊谷和徳くんと北海道のアイヌの人たちのフェス(2月開催『阿寒ユーカラ「ウタサ祭り」』)に呼んでもらって。アイヌの昔からある曲と自分の曲を合体させたりしましたね。春には同じ世代のEGO-WRAPPIN'の中納良恵さんと二人のステージもやったし。大きいのだと、スカパラ(東京スカパラダイスオーケストラ)とメキシコのフェス(3月開催『Vive Latino 2023』)に出たりした刺激の多い1年だったな。それから作品の方でも、KID FRESINOとのコラボやPUNPEEくんとのマッシュアップ企画で「家族の風景」が新たなアプローチでリリースされたり。

KID FRESINO - that place is burning feat. ハナレグミ (Official Music Video)

――今年はコロナ禍が落ち着いて、ライブスケジュールがコロナ禍前の状態に戻ってきましたが、久しぶりのスケジュールに戸惑われたのか、それよりも喜びの方が大きかったのかで言うと、どちらでしたか?

永積:喜びの方が大きいかな。今年最初に出演した春フェス『OTODAMA'23~音泉魂~』(5月に大阪で開催)でオーディエンスの雰囲気が元に戻ったと感じて。まだ春頃はコロナを気にしていた場所もあったけど、でも東京や大阪は徐々に普通に戻ってきていて、夏になっていくにつれて、ようやく(全国的に)戻ってきたなという印象だった。まぁ、お客さんの雰囲気を見て、以前の感じに戻ってきている状況に順応できている人も順応できていない人も両方いると思ったから、気になりつつだったかな。でも、だいぶ5月で変わったよね。『CIRCLE '23』(5月に福岡で開催)は元々持っているリラクシンな感じの中で、コロナへのガードが下がってきたのを感じられた。ほとんどのお客さんがマスクを外していたし、元々が好きなように聴いていられるフェスだからね。

――先ほど、中村佳穂さん、GEZANという名前も出ましたが、年下のミュージシャンと共演することも多くなっている中で、そういう世代感って意識されたりしますか?

永積:関係なくあれたらいいなと思うし、そこまで気にならないけど、佳穂ちゃんやGEZANを見てると、音楽に対する距離感とか視点とか、彼らならではの“今の時代”みたいなものを吸い上げている感じはする。でも、彼らを追いかけて近づくのは違うかなと。作品の音の作り方もどんなふうに作っているのか興味深いし、ステージングを見ていても、リハがないフェスのステージ上での再現性はすごいなって。ニュアンスも細かいし、オーディエンスの聴き方もすごく良くてね。新しい音、新しいライブの関係性が生まれていて刺激になるよね。

――向井秀徳さん、岸田繁さんといった同世代との共演も去年〜今年にかけて多かったなと思うのですが、同世代との関係性は、どのように感じられていますか?

永積:彼らは彼らで、かっこいい。くるりの新譜は毎回聴いているしね。ちゃんと自分の時間をまっすぐ音楽にかけている二人だから。まぁ、同世代とかあまり意識して考えてはいないけど、じゃあ俺もどういう風にやろうかなって思うし、このまま変わらずどんどん音楽を作っていってほしいなって。去年の『OTODAMA』で、自分の出番のすぐ前だったNUMBER GIRLを外聴きしていたけど、一音目から極まっていて。終わった後、本人にも伝えたけど、再結成バンドで、あんなに極まった音を出せるなんて、この人すごいなと。どこまでバンドを追い込んでいるのか……彼と一緒にやると本気にならざるを得ない、そういう風に持っていっているんだろうし。やるなぁ~、かっこいいなって。全然ぬるくなくて、ずっと長年NUMBER GIRLをやっていたのかと思うほどだった。

――年上世代で言うと、先ほどスカパラのお名前も出ましたが、どのように感じられていますか?

永積:自分はソロだから、バンドサウンドじゃないと歌えない歌があって、スカパラとのステージじゃないと動かない筋肉がある。単純に引き上げられるんだよね。スカパラの音が進化していて拓いた音になってるなとずっと思っていたんだけど、その理由がメキシコに行ってわかった。大概の人は、海外に行くと、海外向けなライブに変えたりするんだけど、スカパラは全く一緒で。GAMOさんが「どこが盛り上がってんだ!?」と日本でオーディエンスを煽っているのと同じことをスペイン語でもやっていて、それで熱狂する。オーディエンス全員を置いていかないんだよね。単純にそう思っているメンバーが集まっていて、力技でも、技術だけというわけでもなくて、ハートで作っているなと。メキシコでもオーディエンスがハートフルで、彼らの愛情がステージ上のスカパラに捧げられていたし、オーディエンスが感動しすぎて客席で知らない歌をチャントみたいな感じで歌っていたりして。曲がバーンと終わった時そうなっていたから、次の曲どのタイミングで始めるんだろう? みたいな(笑)。オーディエンスが「スカパラ最高!」となっていたし、これにスカパラも撃ち抜かれたんだろうな……。時間がある限り、俺らの持っている全てを捧げたいという音を出していて、すごく感動的だったし、この心意気を日本に持ち帰っているのが最高だなって。やっぱり世界を見れるうちに見ないといけないし、変わるチャンスは世界にあるなと思ったね。

「どんな人の音でもハナレグミとして成立する強度」

――今の話を聞いていて思い出したのは、9月に大阪の服部緑地野外音楽堂で開催されたハナレグミの弾き語りライブだったんですね。コンパクトなサイズの野音だし、基本は弾き語りなのに観客が熱狂的に盛り上がっていて。メキシコのスカパラじゃないですけど、ハナレグミでも、そういう現象が起きているなと思いました。

永積:人数の多さとかじゃないと思うし、服部はお客さんとの一体感が生まれて自分にはすごく良い会場だった。大阪の人たちの心意気は多分にあったと思うけど。今年は弾き語りツアーをやって、お客さんからもらうものがたくさんあったし、気持ち的に生き返るように感じることが多かった。まだ色々と制限がある時期に弾き語りツアーを始めたんだけど、お客さんは声を出せない分、体を動かして聴いてくれたり拍手とかでこっちにアピールしてくれていた。そういうのを見て、胸が熱くなったんだよね。ひとりでやってるんじゃない、一緒にライブを作っているんだなと。特に自分のライブに来てるお客さんは、そういうことをわかって、自分のタイミングで楽しんでくれているし。SNSを見ても、「ひとりで行ったけど、周りの常連客の人たちにウェルカムしてもらって、コロナ禍だったけど行って良かった!」みたいなコメントも多くて。弾き語りツアーは距離が近いし、素敵なお客さんが関わってくれていたね。

――ライブ会場限定で「ビッグスマイルズ」という新曲のCDを買えたのも、お客さんは嬉しかったと思います。今の段階ではCDでしか聴けない曲ですから。

永積:お客さんがライブに来て記念にCDを買って帰るというのは、甲子園の砂を持ち帰るような気分なのかな(笑)。こっちも気合いが入るというか楽しいですよ、新曲を会場限定で売って持ち帰ってもらえるのは。SNSが普通の今だから、急な告知も届けやすいしスピード感が出ているよね。色んな可能性を秘めているし、遊び心を足せるし、こういうことは今後もやっていきたいなと思ってます。

――また、『RISING SUN ROCK FESTIVAL 2023 in EZO』(8月に北海道で開催)をはじめとして、夏から秋にかけては年下から年上まで、幅広い世代のバンドメンバーと一緒に演奏されていましたよね。

永積:バンドってひとりメンバーが変わると音楽の表情も変わるんですよ。だから、昔やっていた曲も新しい命を授かって生き返るということを痛感した。ドラムの伊吹文裕くんという年下の世代の子が入るだけで煌めきが加わる。音楽の面白さって、たくさんのパッションとか表情を全て栄養に変えられることだし、そういう音楽をやりたくてハナレグミをやっているから。来年3月のライブはギターの西田修大くんやキーボードの宮川純くんという年下の人たちにも参加してもらうけど、また煌めきが足されるよね。気合い入れて臨んでくれてるだろうし。あと今年はベースの高桑圭さん(Curly Giraffe)ともやったけど、あの人はルードでパンクな人だから骨太ないかつさもあって佇まいもかっこいいし、コーラスも最高でね。その感じが他のメンバーにも伝播していって、これぞ音楽だなと。ハナレグミは楽曲がシンプルな分、一人ひとりのモチベーションにかかっていて。「慣れてくれるな」と思っているし、その都度その都度で反応して表現することを求めるからね。

 例えばノラ・ジョーンズって時代によって色々なミュージシャンをバンドに入れるけど、オーセンティックなルーツを持っているから歌は変わらない。ハナレグミも同じで、どんな人の音でもハナレグミとして成立するシンプルさを持てているから、今年は音楽の強度を改めて実感できた年だなって思う。アバンギャルドな人とももっとやりたいし、それでも音楽の強度を保てる自信があるから。大好きなミュージシャンばかり増えるから、もっともっと体が増えたら良いのにね(笑)。自分はいつも旅人で、ひとつのところに留まるのではなくて、色んなミュージシャンと出会って別れていくのがハナレグミだなと思ってる。

――あと、今年を振り返る上では、5月の『OTODAMA』、そして11月には東名阪ツアーも開催されたフィッシュマンズのライブでのボーカル参加も忘れられないです。

永積:最高にかっこいいバンドだからね。佐藤(伸治)さんの歌詞、やっぱすごいよね。あの言葉と、レゲエが持っているフリーフォームな型に縛られない歌。譜面に起こせる歌ではないし、むしろ譜面に起こすと意味がないから。自然な身体運動というか、あのビート、あの言葉がきたら身を委ねるだけ。ああいう形の音楽は他にないかな。オーバーグラウンドでたくさんのオーディエンスを集めた上で支持されている。ああいう音楽を奏でられるのはすごいことだよ。

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