ハナレグミ、オーディエンスに寄り添う優しい眼差し 抜群のグルーヴで場内を揺らした『ツアー発光帯』

ハナレグミ、オーディエンスに寄り添う眼差し

 3月31日に3年半ぶりのアルバム『発光帯』をリリースしたハナレグミが、5月18日にZepp Tokyoにて全国ツアー『ツアー発光帯』の東京公演を行った。

 昨年2月には東京・大阪で、東京スカパラダイスオーケストラをバックに従えた『THE MOMENT 〜HORN NIGHT〜』、鈴木正人率いるバンドと美央ストリングスを迎えた『THE MOMENT 〜STRINGS NIGHT〜』という特別な趣向のワンマンライブを開催。そこで初披露した新曲「独自のLIFE」のCDを会場限定リリースし、その後予定していたライブでもさらなる新曲の発表・リリースを行いながら、新作アルバム完成に向かっていく構想だったが、新型コロナウイルス感染拡大によるライブの中止でそれらは頓挫し、未曾有の状況を経験しながらアルバム『発光帯』を完成させた。そんなハナレグミにとって、今回は久しぶりとなる東京のステージである。

 新型コロナウイルス感染拡大予防ガイドラインに則り、万全の体制が敷かれたZepp Tokyoのスタンディングフロアには椅子が並べられ、いつもとは違う風景にどこか張り詰めたムード。

「ちょっと隣に座っている方を見てみてください」

 開演時間となり、ステージに立った永積崇が落ち着いた言葉で語りかけると、ざわつきながら顔を見合わせる観客たち。オーディエンスと一体となった場を何より大切にしてきた彼の言葉が、場内の緊張感を解きほぐした。

「途中で気持ちが窮屈になってきたら、遠慮せずに外に出てくださいね。喚起のために扉も開けてあるから、扉を開ける音を気にしなくてもいいんで」

 その言葉に象徴されるように、聴き手の日常に寄り添う歌を届けてきたハナレグミは、名手・石井マサユキ(Gt)とのデュオ形態で遠く離れた相手に想いを馳せるオープニングナンバー「on & on」を演奏すると、内省的な前作アルバム『SHINJITERU』からその眼差しを再び外に向けた『発光帯』の世界へ歩みを進めていく。鈴木正人(Ba)、坂田学(Dr)、ハタヤテツヤ(Key)が合流したフルバンド編成で、新作から「モーニング・ニュース」「賑やかな日々」、奥田民生との共作曲「僕のBUDDY!!」を披露。その心地良い響きは、現在のハナレグミが志向する伸びやかさを印象付けた。

 コロナ禍においてアルバムの制作を行いながら、身の周りの景色をフィルムカメラで撮影するようになったという永積。「長年、父が通勤で行き来する実家近くの道を撮影したことをきっかけに、好きなことをやって生きている父の背中にものすごく励まされたというか、その存在が光り輝いているようにも見えた」という想いをタイトルに込めた「発光帯」から「家族の風景」、そして「ハンキーパンキー」へ。言葉を噛みしめ、味わうように歌うエモーショナルなパフォーマンスは、この日訪れた最初のピークタイムだ。

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