ハナレグミが『THE MOMENT』に求めたもの 東京スカパラダイスオーケストラと分かち合った感動の瞬間

ハナレグミが『THE MOMENT』に求めたもの 東京スカパラダイスオーケストラと分かち合った感動の瞬間

 ハナレグミが、2020年2月7日、NHKホールでツアー『THE MOMENT』の東京公演を行った。ワンマンツアーとしては『2018 ツアー ど真ん中』以来、約1年半ぶりとなるこのツアーは、東京が2月7、8日にNHKホール、大阪が2月23日にオリックス劇場の全3公演。2月7日は“HORN NIGHT”と題し、東京スカパラダイスオーケストラをバンドにフィーチャー。そして、2月8日、23日は“STRINGS NIGHT”と題し、LITTLE CREATURESの鈴木正人率いるバンドに美央ストリングスを迎えた特別編成をフィーチャー。どちらも通常のワンマンライブとは趣向が大きく異なるものだ。

 ただし、ハナレグミのスピンアウトは今回に限らず、特定の形態にとらわれない自由な活動は以前から続いている。特に2015年のアルバム『What are you looking for』前後の時期からボーカリストとしての表現を自覚的に極め始めた彼は、2016年からシリーズセッションとして続いている近藤良平(コンドルズ)との『great journey』において、トークや即興を交えた音楽とダンスの融合を通じ、歌の身体性を追求。さらにフジファブリックとのユニット、ハナレフジとして行った2018年のツアーでは、バンドに触発された歌の衝動性に立ち返り、2018年から2019年にかけて断続的に行われたタブラ奏者のU-zhaanとのライブ『タカシタブラタカシ』では、即興的なリズムと共に躍動する歌の自由度の高さを謳歌するなど、歌の可能性を多角的に追求してきた。

 そのうえで、今回のツアー『THE MOMENT』のテーマは、音の厚みやレンジにそれぞれ特性をもつホーン、ストリングスと歌の新たな関係性を探る試みにあるようだ。しかも、それはスコアに起こしたホーンやストリングスのアレンジをその通りに演奏したものではなく、その場、その瞬間に応じて、変化や表現の幅が求められるフリーフォームなもの。それゆえに東京スカパラダイスオーケストラやLITTLE CREATURESの鈴木正人、美央ストリングスという親交が深いミュージシャンが集結したツアーとなった。

 そして、2020年2月7日のNHKホール公演初日『THE MOMENT 〜HORN NIGHT〜』は、最初に登場した東京スカパラダイスオーケストラの「Paradise Has No Border」でスタート。ラテンやロックを横断する文字通りボーダレスな演奏は、サックス奏者のGAMOによるアジテーションと共にJBばりのファンキーな16ビートに移行し、そこに登場した永積崇がスチャダラパー「今夜はブギー・バック」を引用しながらラップを披露。予測がつかないライブが唐突に幕開けた。そして、1曲目は1stアルバム『音タイム』収録のブッカー・T.ジョーンズ「Jamaica Song」のカバー。ソウルオルガン奏者のメロウなフォークソングをスカのアレンジで演奏すると、畠山美由紀に提供し、後にセルフカバーした「愛にメロディ」をギター、オルガン、トロンボーンとソロを回しながら解き放ち、早くもオーディエンスと一体化。ライブ巧者2組の手腕に終始圧倒される夜となった。

 また、今回の『THE MOMENT』は、過去にも披露、作品化されているカバー曲がふんだんに盛り込まれていた。歌謡スカにリアレンジされた西岡恭蔵のフォークソングの名曲「プカプカ」やオリジナル以上に壮麗なソウルナンバーに仕立てあげられたORIGINAL LOVE「接吻」、ファストなスカのリズムと共にエモーショナルな歌声を際立たせた杏里「オリビアを聴きながら」など、ハナレグミの広範なルーツの一端を披露。さらにスカパラがハナレグミをゲストボーカルにフィーチャーした過去の共演曲「太陽と心臓」、「追憶のライラック」やスカパラ単独の「Moments In Heaven」を要所要所に挟みつつ、この日はスカパラの通常形態さえ解体、再構築された。ギターの加藤隆志、ドラムの茂木欣一、パーカションの大森はじめの3人をバックに、マイケル・ジャクソン「Human Nature」をミニマルなファンクマナーで演奏したかと思えば、フィッシュマンズのドラマーでもある茂木にボーカルを委ねる瞬間もあったフィッシュマンズ「いかれたBaby」など、枠組みを越えた先にスリルや感動があった。

 永積が自身の人生においてその時々に「音楽からもらった感動の瞬間」を思い起こし、実際のライブでオーディエンスとその瞬間を分かち合あうべく名付けられたツアータイトル『THE MOMENT』。その瞬間をステージから客席へ一方的に提示するのではなく、演者ですら想像がつかない高まりをオーディエンスと同じ目線で共有するということ。ボブ・マーリー「Waiting In Vain」のカバーには、そんな音楽のミラクルが凝縮されていた。永積がその曲と出会った高校時代のエピソードを交えたMCから歌詞の内容を意訳したシアトリカルな歌い語りへ。歌とロックステディのリズムを刻む演奏は自然な流れのなかでインプロバイズされ、エモーショナルなピークへと辿り着いた。

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