英米チャートでロック需要はなぜ異なるのか The Rolling Stones新作の動向から歴史的背景を考える

 ロックは死んだのか? という問いに対して、英米の音楽チャートを見ると異なる答えが返ってくるかもしれない。この難しい問いに示唆を与えてくれるのは、The Rolling Stonesによる18年ぶりの新アルバム『ハックニー・ダイアモンズ』のチャート動向である。1960年代から現在まで半世紀以上、メンバーの変更はあれど一度も解散することなく第一線で活躍を続けるロックの代名詞的バンド The Rolling Stones。彼らの新アルバムは、レディー・ガガ、スティーヴィー・ワンダー、ポール・マッカートニー、エルトン・ジョン、そして元メンバーのビル・ワイマンまで参加する話題性の高さも相まって、地元イギリスの全英チャートだけでなく、全米チャートにおいても初登場1位を獲得するのではないかと大きく注目されていた。

 しかしながら、蓋を開けてみるとどうだろう。全英チャートでは首位を獲得したものの、全米チャートでは、アメリカのポップパンクバンド Blink-182の『ワン・モア・タイム』、ドレイクの『フォー・オール・ザ・ドッグス』に次ぐ3位となったのだ。この象徴的なチャート動向から、イギリスとアメリカのチャートでのロックアルバムの受け入れられ方の差が垣間見えてくる。

 2023年の全英チャートを振り返るとU2やBlur、リアム・ギャラガー、Foo Fightersのような大御所ロックバンド/アーティストから、Royal BloodやNothing But Thievesといったオルタナバンド、イギリスを中心に人気を集めるポップロック系バンドであるThe Lottery WinnersやBustedなど、さまざまなロックアルバムが首位を獲得している。合わせてチャート全体を見渡してみると、ロックの名盤と言われるような旧作の再発盤やロックバンドのベスト盤も再び登場しているようだ。これらの動向から、イギリスではロックが根強い人気と支持を得ており、新旧問わず多様なロックアーティストがチャートを賑わせていることが分かる。

The Rolling Stones - Angry (Official Music Video)
Liam Gallagher - Champagne Supernova (Live From Knebworth 22)

 対して全米チャートでは、2023年に入ってからのロックアルバムの首位獲得は、Blink-182『ワン・モア・タイム』のみ。ヒップホップやR&Bアルバムが圧倒的なマジョリティである。2020年以降に視野を広げてみても、ロックアルバムの全米チャート首位獲得は、2020年のマシン・ガン・ケリー『ティケッツ・トゥ・マイ・ダウンフォール』、AC/DC『パワーアップ』、2022年のRed Hot Chili Peppers『Unlimited Love』、マシン・ガン・ケリー『メインストリーム・セルアウト』と数えるほどである。

Machine Gun Kelly ft. blackbear - my ex's best friend (Official Music Video)
blink-182 - ONE MORE TIME (Official Video)

 なぜ英米のチャートにはこんなにもロックアルバムの受容に違いがあるのだろうか? その理由を探るためには、ロックの歴史的背景を考える必要がある。

 ロックは、もともとアメリカで生まれた音楽ジャンルであるが、1960年代にThe BeatlesやThe Rolling Stonesをはじめとするイギリスのロックバンドがアメリカに進出し、ブリティッシュ・インヴェイジョンと呼ばれる現象を起こした。この時期、英米のロックは互いに影響を与え合い、世界的なブームを巻き起こすことになる。しかし、1970年代以降、ロックは多様化し、パンクやヘヴィメタル、ニューウェーブやオルタナティブなどのサブジャンルが生まれた。この時期を境に、英米のロックは乖離し、異なる方向性を持つようになったのだ。イギリスではロックが社会的なメッセージや反抗精神を持ち、若者のアイデンティティやカルチャーを形成する重要な役割を果たした。一方、アメリカではロックが商業的な成功やエンターテインメント性を重視し、大衆の娯楽や消費の対象となる動きが強まっていった。内省やアート性をロックに求めるイギリスのリスナーの姿勢に対して、80年代のハードロックやスタジアムロックの多くがアメリカのバンドだったように、パワフルなロックを好むアメリカのリスナーの姿勢が商業的なコマーシャライゼーションに結びついたのかもしれない。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「音楽シーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる