英米チャートでロック需要はなぜ異なるのか The Rolling Stones新作の動向から歴史的背景を考える

 そして、ヒップホップの台頭も大きなファクターである。シーンの移り変わりが非常に激しいヒップホップは、トレンドと不可分な音楽ジャンルとも言えるだろう。アメリカが直面している社会問題に対するメッセージをラップにしたN.W.A.やPublic Enemy、近年ではケンドリック・ラマーらが強い支持を集めたように、次第にロックに取って代わってヒップホップが社会的なメッセージや若者のアイデンティティを担うようになったアメリカでは、目まぐるしく更新されるヒップホップシーンと連動するように、トレンド重視型のチャート動向となっているのかもしれない。

Kendrick Lamar - N95

 ヒップホップの台頭はロックの進化とも不可分ではなく、両者が混ざり合うことで、今も全米チャートで圧倒的な影響力を持つRed Hot Chili Peppersのようなミクスチャーロックのシーンも誕生した。また、現行のシーンでいえば、もともとラッパーとしてデビューしたマシン・ガン・ケリーや、彼の作品に参加し、ヒップホップへの造詣の深さでも知られるトラヴィス・バーカーがドラマーを務めるBlink-182が、ロックアルバムながらも、ヒップホップ優勢の全米チャートで首位を獲得できたのもうなずける。

Red Hot Chili Peppers - Black Summer (Official Music Video)

 このように、英米のロックは歴史的にも文化的にも異なる発展を遂げてきたことが、現在のチャートの違いにも影響を与えていると考えられる。もちろん、これは一般化した見方であり、チャートの傾向は時代や社会の変化によっても変わりうる。しかし、少なくとも2020年以降の英米のチャートを見ると、ロック音楽の受容には明らかな違いがあることがわかってくる。ロックは死んだのか? という問いに対して、全英チャートからの回答は「ノー」、全米チャートからの回答は「メイビー、イエス」といったところだろうか。

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