『BARAKAN CINEMA DIARY』
ピーター・バラカンが考える、ザ・ローリング・ストーンズにおけるチャーリー・ワッツの存在感
リアルサウンド映画部のオリジナルPodcast番組『BARAKAN CINEMA DIARY』が配信中だ。ホストにNHKやTOKYO FM、InterFM897など多くのラジオ放送局でレギュラー番組を持つディスクジョッキー、ピーター・バラカン、聞き手役にライターの黒田隆憲を迎え、作品にまつわる文化的 ・政治的背景、作品で使用されている音楽などについてのトークを展開している。
第7回で取り上げたのは、2008年に日本で公開された映画『ザ・ローリング・ストーンズ シャイン・ア・ライト』。2006年秋にニューヨークのビーコン・シアターで行われたThe Rolling Stonesのライブを、マーティン・スコセッシ監督が撮影した本作について、先日逝去したドラマー、 チャーリー・ワッツへの追悼の思いも込め、The Rolling Stonesと作品の魅力についてたっぷりと語っている。今回はその対談の模様の一部を書き起こし。続きはpodcastで楽しんでほしい。(編集部)
ストーンズにおけるチャーリーの存在感
ピーター・バラカン(以下、バラカン):『シャイン・ア・ライト』は2006年に開催されたThe Rolling Stones(以下、ストーンズ)のコンサートを収めた音楽ドキュメンタリーです。マーティン・スコーセシが監督し、2008年に映画が公開されました。会場となったビーコン・シアターのキャパシティはそんなに大きくはなく、3000人弱なので、ストーンズが公演する場所としては異例です。そこに居合わせることができた人はとても幸せだったでしょう。
スコーセシは撮影のため、「リハーサルをしてほしい、セットリストも事前に渡してほしい」と頼んでいたそうですが、ストーンズはことごとく無視していたようです。1曲目は特に、始まる直前に曲名を知らされているので、撮影は大慌てでピリピリしていて、映画の冒頭には、「セットリストはいつくるんだ、1曲目はなんだ」とスコーセシがイライラしている様子が映されているのが面白いです。
僕が最初に観た時は、「この映画の主演はチャーリー・ウォッツだ」と強く感じました。映像自体はミック・ジャガーとキース・リチャーズがメインで、チャーリーが映っているシーンが多いわけではないんです。なのに、最初に見た時から、チャーリーが主演だという印象を受けました。
黒田隆憲(以下、黒田):それは、チャーリーが演奏面で目立っていたということですか?
バラカン:というより、存在感です。チャーリーのドラミングは決して派手ではないし、手数も多くはない。でも、すごくグルーヴがあるんです。ストーンズは昔から「世界一のロック・バンド」と呼ばれますが、その理由はグルーヴだと思います。キースも、改めて映像を見ると、そこまでギターがうまくはないんです。映画の中で「ロニー・ウッドとキース、どっちのギターが上手い?」と質問する場面があるんですが、キースは「2人とも上手くないけど組み合わさると、自分達より上手いギタリストよりもいい演奏になる」と答えるんです。チャーリーがよく「ストーンズの心臓部」と言われるのは、ドライヴしているからです。だから、ストーンズのどこがいいかと聞かれたら、チャーリーの存在だと思いますね。
チャーリーとストーンズのルーツ
バラカン:1941年生まれのチャーリーは、50年代初頭、まだモダン・ジャズがあまり一般的でない時からジャズを聴き始めました。14歳の時には、チャーリーは地元のジャズクラブでドラムを叩いています。ずっとジャズが好きで、そのリズム感が身についていたのでしょう。60年代初頭になり、チャーリーはアレクシス・コーナーのバンドがやっていたブルーズ・クラブで、レギュラーのドラマーになりました。そのクラブに、ミックやキースも集まっていたんです。バンドにいいドラマーを求めていた彼らは、どうしてもチャーリーに入って欲しかった。ただ、当時チャーリーはすでに、広告代理店でグラフィック・デザイナーとして働いていました。その上、アレクシスのバンド以外にもいくつかのバンドを掛け持ちしていて、それぞれからギャラをもらっていた状況です。
一方ストーンズはデビューすらしていないので、収入はゼロです。それでもなんとかチャーリーへのギャラを捻出するため、自分たちの食べるものもケチっていました。本当かどうかわかりませんが、食べ物を万引きしたこともあるとキースが話しています。とにかく、ストーンズはそこまでしてもチャーリーをメンバーにしたかった。その理由は、彼のグルーヴがいいからなんです。
黒田:チャーリーはストーンズに入る時も「どうせ1、2年くらいしかもたないだろう」と思っていたという逸話があります。
バラカン:チャーリーは職人的なところがあるので、ロック・スターであることには全く興味がない。そういう、常にクールなところがあります。『シャイン・ア・ライト』の「All Down The Line」だったかな? 演奏が終わってチャーリーの横顔のアップが写ったときに、ふう、ってため息をついて、「疲れるよな」みたいな顔をしてみせるんです。すごくユーモアがありますよね。