『いちばんすきな花』音楽演出を考える 藤井 風「花」、カラオケシーン……『silent』チームの手腕が光るポイント

 そのほかの音楽の使い方としては、第1話でのカラオケシーンが印象深い。ゆくえが親友の赤田(仲野太賀)から結婚報告を受けた場面で即座に「安室ちゃんと木村カエラ、どっちがいい?」と尋ねたあとにコブクロの「永遠にともに」をデュエットするのだが、このやりとりだけで2人が構築してきた関係性が浮かび上がってくる。その数日後、ゆくえは赤田から「結婚するからもう会えない」と友人関係の終結を告げられるのだが、ひとり残った部屋で涙ぐみながら歌う木村カエラ「Butterfly」の苦味はこのドラマの命題をこれ以上なく象徴していた。

 実在のアーティストや店名など、生活に根差した固有名詞を用いることによってドラマの登場人物の存在を身近に感じられるし、我々の世界の延長上にこの作品があることを実感させてくれる。『silent』でも多くの実在アーティストのCDが用いられていたように、『いちばんすきな花』で、今後も固有名詞に心揺さぶられる演出がきっとあるはずだ。

 『silent』で支持を得た手法を異なるアプローチも交えて昇華させた『いちばんすきな花』の音楽演出。物語が進むにつれて、また新たな要素も加わっていくことだろう。そういった面でも見逃せないドラマである。

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