藤井 風、ドラマ『いちばんすきな花』主題歌に表れた最新モード 聴き心地のよさを増幅させる“脱力”によるグルーヴ

 10月12日より放送が始まったテレビドラマ『いちばんすきな花』(フジテレビ系)の主題歌として藤井 風が書き下ろした新曲「花」が配信リリースされた。一聴してパワーやテクニックに頼っていない、良い意味で肩の力が抜けたこの曲は、昨年あたりから本人がインタビューなどで度々口にしている“脱力”というテーマが非常によく表れた楽曲だ。(※1)

 穏やかなメロディ、聴き手を優しく包み込むようなボーカル、一歩ずつ着実に歩みを進めていくリズム、深みのあるピアノの手触り。情報量の多い現代のポップソングの方向性とは真逆のため、場合によっては物足りなさを感じるリスナーもいるかもしれない。ただその分、さっぱりとした中にも核心を突く言葉があり、淡々とした中にも人への温かな愛がある。品のあるサウンドによって歌本来の魅力が引き出され、歌詞がじんわりと心に沁み渡るような、詩的な美しさのある作品だ。

 ある意味でJ-POP的でもあり、ある意味で非J-POP的でもあるこの曲。それは全セクションをグラミー受賞経験者で固めた前作「Workin' Hard」と異なり、制作陣に海外と日本のクリエイターが並列している点にも表れている。マスタリングとミックスはこれまでの2枚のアルバム制作にも携わっていた山崎翼と小森雅仁。対して、ドラムは初参加のRyan McDiarmid。とりわけイギリスのA. G. Cookをプロデューサーに迎えたことは、サウンド面を語る上で見逃せない。

 A. G. Cookは、近年注目を集める気鋭のプロデューサーで、日本の音楽リスナーにとっては宇多田ヒカルの諸作が馴染み深いだろう。2021年にリリースされた「One Last Kiss」や、最近では今年7月にリリースされた「Gold ~また逢う日まで~」でも共同プロデュースで制作に参加し、他のJ-POP作品とは一線を画すサウンドを構築していた。音を重ねて豪華さを演出するというよりは、音そのものの響きを大切にしたシンプルかつ緻密なサウンドメイクが特徴で、例えばピアノの音色ひとつ取っても、重さや硬さのある響きとリバーブを効かせたエアリーな処理の使い分け、あるいはひずみの加え方などが絶妙だと感じる。

 本曲では、トッド・ラングレンの名曲「I Saw the Light(邦題:瞳の中の愛)」を彷彿とさせるピアノのフレーズにゆったりとした生活感〜日常感が滲み出ているが、一方でサビでの音作りには幻想的な雰囲気もあり、全体としては浮遊感もありつつ、そのなかでしっかりと現実も見つめているというようなバランスの音作りが見事。その繊細なプロダクションが、藤井のボーカルを引き立たせている。

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