世界的なK-POP人気の背景で指摘される韓国の大規模会場不足　“K-POP観光”を見込んだ新施設建設も進む

　それでも2020年代に入ってから、大規模な室内公演場の計画はいくつか進行しているようだ。最も直近で完成する可能性があるのが、仁川国際空港の近くに建設中のモヒガン インスパイアエンターテインメントリゾートだろう。空港から直接バスで行くことが可能な5つ星ホテル・外国人専用カジノ・多目的公演場・コンベンションセンター・ショッピングモール・室内ウォーターパークで構成された複合エンターテインメントリゾートで、「韓国版ラスベガス」を目指しているという。

　多彩な施設とコンテンツを備えた超大型複合リゾートで、サッカー場64カ所分の大きさの巨大な規模を誇る。 アメリカのカジノ・リゾート運営業者であるモヒガン（Mohegan Integrated Entertainment Resort）が親会社で、同社にとって初の海外施設となる。2016年から建設予定が立ち上がっており、当初は国内大手・KCCとの共同事業だったが途中でKCCが離脱したり、コロナ禍の影響で工事が遅れており、2023年10月に第1段階の施設がオープン予定だ。公演場であるインスパイア・アリーナは最大1万5,000席規模の国内初の多目的公演場で、アメリカで「今年のアリーナ」賞を7回受賞したモヒガンサンアリーナの技術と運営ノウハウを導入し、世界最高水準のサウンドシステムを搭載するという（※2）。

　もうひとつは、ソウル市とKakaoがソウル市道峰区倉洞駅周辺に建設を開始しているソウルアリーナだ。約2万席規模の音楽に特化した大型公演場の他、2,000席規模の中型公演場や映画館、K-POP特別展示館などの大衆音楽支援施設、販売・業務施設などが建設される予定。2018年から計画があったものが2022年6月から着工し、2025年完成予定だ（※3）。

　Mnetを有するCJ ENMも、同様の計画を進行中だ。CJライブシティは、京畿道高陽市一山東区の長項洞一帯で計画されており、K-POP公演専門のアリーナを含め、様々なコンテンツを経験できる施設、ホテル、観光施設や公園などをふくめた「Kコンテンツの聖地」を目指しているという。

　CJライブシティアリーナは約8000坪の土地に室内2万席の室内公演場と、4万人以上収容可能な野外空間が隣接しており、音楽専用公演場の中で韓国最大規模となる予定だ。アリーナはCJとアメリカのエンターテインメント企業・AEG（Anschutz Entertainment Group）が共同で運営する。AEGはアメリカのクリプトドットコム・アリーナ（旧ステイプルズ・センター）、イギリスのO2アリーナ、ドイツのメルセデスベンツ・アリーナなど、世界300以上の主要な会場を運営・保有しており、子会社では『Coachella Valley Music and Arts Festival』などの大型フェス開催やテイラー・スウィフト、ジャスティン・ビーバーなどの大型ツアーを企画しているアメリカの巨大エンターテインメント企業だ。無事完成すれば、今まで海外開催の方が多かったMnet主催の授賞式『MAMA』もここで開催されるかもしれない。

　CJライブシティ構想は2016年から計画されていたが、政権交代による再認可要請などの計画遅延を経て2021年から着工開始。アリーナ公演場に関しては2024年内の完成予定だったが、2023年4月にロシア・ウクライナ戦争、不動産／建設景気低迷などで建設原価など金融費用が急激に上昇したために工事が中断してしまっている。ちなみに、今年3月までの工程進行率は17%程度とのことだ（※4）。

　これらの計画は単独の公演場建設ではなく、いずれもホテルや宿泊・商業施設などを一体化した複合施設計画の一部であり、いずれも「K-POP観光」とも言うべき、K-POPアーティストの公演を目当てに来韓する海外や地方からのファンの利用を当て込んでいるのが特徴と言えるだろう。日本では近年、アメリカやイギリスの転売フリーな状況下でチケットの流通価格が膨大な金額になっている人気アーティストの大規模公演が予定されており、実際に東京ドーム4daysを行うテイラー・スウィフトの場合は海外ファン向けのチケット販売も行われている。このようなライブを含む“オタ活”とインバウンドを合体させて国内外からの新たな需要を目指すような計画を韓国ではK-POPを軸に推進しようとしているようだ。この計画が実際に進んでいけば、国内での公演のために来韓するという“オタ活”が今よりももっと一般的になっていくかもしれない。

※1：https://s.japanese.joins.com/JArticle/290518
※2：https://inspireer.com/
https://www.news1.kr/articles/?4882641
※3：https://n.news.naver.com/mnews/article/018/0005181323?sid=105
http://www.enbnews.org/news/articleView.html?idxno=17386
※4：http://www.srtimes.kr/news/articleView.html?idxno=131784
https://m.yna.co.kr/view/AKR20230518131900060?section=search