「上を向いて歩こう」作曲家・中村八大が残した稀代のジャズアルバム 現代に繋がる『メモリーズ・オブ・リリアン』の先進性
天才作曲家は天才ジャズピアニストでもあった。
2022年3月、星野源がホストを務める『星野源のおんがくこうろん』(NHK Eテレ)で、「上を向いて歩こう」「明日があるさ」「こんにちは赤ちゃん」「遠くへ行きたい」など、時代を超え愛される数々のヒット曲を世に送り出した稀代のメロディメーカーと言える作曲家・中村八大の特集「日本のスタンダード・ソングを作った天才ジャズピアニスト 中村八大」が放送され、話題を集めた。
現在、日本のジャズシーンは、多彩な才能を持った若きジャズミュージシャンが百花繚乱。ユニークな作風でシーンを更新し続けている。当然、現在活躍しているミュージシャンは、生まれた時からフュージョンやロック、テクノ、ヒップホップが存在し、そんな音楽に包まれながらジャズを志し、ジャズに根差しながらも軽々とジャンルを横断する才能を持ち合わせている。60年以上前の日本のジャズシーンにも、進取の気性に富む天才ジャズピアニスト 中村八大がいた。
日本の大衆音楽史における最重要人物の一人である中村八大は、1950年に早稲田大学に入学し、渡辺晋、松本英彦らとジャズバンド「シックス・ジョーズ」を結成、早くも頭角を現す。1953年には松本、ジョージ川口、小野満と「ビッグ・フォア」を結成し、その人気を確固たるものにした。その後主戦場を作曲活動に移し、1959年に水原弘に提供した「黒い花びら」(作詞 永六輔)が同年の「第1回日本レコード大賞」を受賞した。そんな中村が1960年3月から5月まで北米とヨーロッパへ音楽修行に出かけ、様々な場所で様々な音楽に触れる中、ニューヨークで聴いたモダンジャズに、ジャズミュージシャンとしての魂が大いに刺激され、その衝動を形にしたのがアルバム『メモリーズ・オブ・リリアン』(1961年録音/発売)に収録されている8曲だ。
その『メモリーズ・オブ・リリアン(Remastered 2023)』が、魅惑かつ魔力的な和ジャズをオリジナル盤仕様アートワーク+高音質盤で楽しむ企画「Wa-Jazz Original Masterworks Collection」の第二弾として、6月28日に重量盤アナログLPで発売され注目を集めている。この作品は国内レーベル発売盤最古のピアノトリオ作品でもあり、稀代の作曲家のジャズピアニストとしての卓越した才能、当時の日本のジャズのクオリティを伝える貴重な音源だ。
『メモリーズ・オブ・リリアン』では、中村と栗田八郎(Ba)、ジミー竹内(Dr)がトリオを結成。同アルバムのライナーノーツ(久保田二郎氏)によると、栗田は「白木秀雄クインテットのベース奏者として、日本でも最もモダン感覚にあふれたベースマンとして定評のある人」で、ジミー竹内は「その正確なテクニックと、趣味のよいドラミングをうたわれる人で、渡辺晋のシックス・ジョーンズの一員として知られている」という、1960年代初頭の日本ジャズシーンの中で最も先進的なミュージシャンで録音された作品だ。