連載『lit!』第58回:NORIKIYO、Sadajyo & Jeff Loik、Pitch Odd Mansion……独自の美学で主張する国内ヒップホップ5作
Sound’s Deli『OUT NOW』
ヒップホップクルー Sound’DeliのEPも爽快な作品である。それぞれの個性を活かしつつ、コンパクトで楽しい音楽であることに妥協せず、何よりもマイクリレーの魅力に溢れながら、MET as MTHA2やPuckafallによる遊び心のあるサウンドも作品を引き立てる。クルーの再出発を掲げる作品ということではあるが、3曲目「LOWKEY LIKE」の〈Rocky and Rihanna〉というユーモラスで口ずさみたくなるラインなど、クルーの特色であるポップさも失わず、彼らの現在地点と前向きな姿勢を綴っている。“らしさ”を失わない各楽曲の中でも、特に4曲目「Blaze Up」は、新たな彼らのアンセムにもなりそうな良曲ではないだろうか。
Mall Boyz『Mall Tape 2』
あの『Mall Tape』の続編、といえばそれなりの期待がかかるわけだが、それに応える作品である。Mall Boyzによる待望の新作は、彼らの独特で浮遊感のあるサウンドとフロウ、夏らしいチャラさも健在の、全編頭にこびりついて離れない俗っぽさと自由度に満ちたアルバムである。相変わらず快楽的で刹那的なアンセムに溢れた作品であるが、前作にあったストリートへの意識とは遠く離れ、彼らは別の場所でバケーションを謳歌しているように見える。目まぐるしく世界の景色や状況が変わった2023年に、彼らが逃避的なライフスタイルをより強固に提示したことで、そこから何か屈託のない美学のようなものを感じてしまうことは否定できない。久しぶりの再会を果たした彼らと我々にできた距離を埋めさせるような水飛沫と甘美さは、『Mall Tape 2』にしかない、特別なものであることを信じている。
連載『lit!』第52回:Billy Woods & Kenny Segal、Kaytranada & Aminé、IDK……“移動”や“旅”をモチーフにしたヒップホップ5作
8月に開催を控える『SUMMER SONIC 2023』に出演するケンドリック・ラマーをはじめ、海外アーティストの来日公演が続々…
連載「lit!」第41回:hyunis1000 & caroline、Candee、DJ RYOW……独自の美学で時間や空間を捉えたヒップホップ作品
多様な現代のヒップホップシーンにおいて、溢れていくものを掬い取る作業には苦労があるが、逆に言えばジャンルは開かれている。その中で…