連載「lit!」第34回:KANDYTOWN、PUNPEE、MonyHorse……ユーモアやモチーフの奥にメッセージを刻む国内ヒップホップ
前回、ヒップホップ/ラップアルバムの年間ベストをこの場を借りて発表したわけだが(※1)、当然取りこぼしは多い。特に、海外の作品と国内の作品を混合し語ることによる意味は大きかったが、それにより国内の作品について、いくつか拾いきれなかったのが心残りではある。
簡単に振り返るのであれば、ある種のウェルメイドに振った作品も目立つ一方で、ベテランから若手まで、高いラップスキルの先導と、それを際立たせるような音で魅せるラップアルバムが、シーンの隆盛を高めていた印象がある。そんな国内シーンの動きにおいて、2022年は真にヒップホップの豊作年だったと言えるだろう。今回の「lit!」では、そんな昨年の終盤にリリースされた国内の作品を、年を跨いで5枚ほど紹介したい。
KANDYTOWN『LAST ALBUM』
今年の3月をもってその活動を終幕するヒップホップグループ KANDYTOWNによる“ラストアルバム”。その点において当然重みのある作品ではあるが、彼らの持ち味である洗練されたメロディ、その都市性と、それぞれのラップを際立たせる低音など、音を良くすることに何よりも忠実かつ誠実に接した、彼らのベストワークと言いたい作品である。同時に、「Curtain Call」というタイトルの曲から始まる本作は、「終わりについてのアルバム」であるとも言える。裏のモチーフとして「映画」についての言及が全編を貫いているのも、それがエンドロールという終わりが待つ時間芸術だからだろう。全てが終わりに向かって進み、そこにあったものが、いた人が消えていくこと。彼らの終わりへの意識は、リリックや野太く鳴り響くスネアドラムの瞬間的な所作に細かく刻まれ、儚くも濃厚なこのアルバムの美学を形成する。
Watson『SPILL THE BEANS』
2022年の上半期にミックステープ『FR FR』をリリースし、その独特のライムと、リリックに刻まれるレトリックが高く評価され、昨年のシーンの顔となった徳島県出身のラッパー Watson。そんな彼が、昨年11月末にリリースした本作は、そのラップスタイルと作品全体の流れにおいて、もはや成熟をも見せつける出来である。1年を通して各々も良作を放っていたPedro The GodSon、Choppa Capone、T-STONE、RK Bene Babyら客演陣を迎え、より一層の厚みと詩情を兼ね備える。その特性上どうしても単曲のリリックにおいて語られることの多いWatsonだが、『FR FR』と同様、硬質で情緒溢れるトラックやムードの統一も美しく、評価に値するだろう。とは言いつつも、やはり3曲目「OTAKARA」における〈お金〉〈おかげ〉〈お酒〉や〈お金〉〈カーテン〉〈シャーペン〉〈100円〉と、〈お金〉を軸に怒涛のように韻を踏んでいく様や、7曲目「Hood Star(T-STONE & RK Bene Baby)」のメロディアスを極めた作劇はとりわけ耳を引く。
PUNPEE『Return of The Sofakingdom』
2020年にリリースしたEP『The Sofakingdom』の続編的位置づけということになるだろうPUNPEEによるEP。ユーモアと切なさを携えながらも、予測不能な言葉遊びや引用も飛び出す玩具箱のようなPUNPEEのラップを中心として、漢 a.k.a. GAMIやGAPPERといった客演を招き、そのスタイルにおいてオリジナリティを何よりも醸す。全編遊び心に溢れた作品だが、ビートスイッチでモチーフであるマルチバース(多元宇宙)を演出するMC漢が参加した3曲目「Messiah Complex feat. 漢 a.k.a. GAMI」や、盟友GAPPERが参加したエモーショナルな最終曲「BIG GUY feat. GAPPER」は、配置においても、前作におけるKREVAや5lackの参加曲と呼応するような連続性を持ち、世界観を一つにつなげる。ざらついた音像から幕を開ける本作は、一貫してモダンでありながらも、歴史の先にいることを我々に忘れさせないように、クラシカルな仕掛けや出立をも感じさせているのが特筆すべき点と言えるだろう。別の宇宙の存在を儚げに描写しながら、PUNPEEはどこかで隣り合っている世界同士をつなげようとしているのではないだろうか。