連載『lit!』第58回:NORIKIYO、Sadajyo & Jeff Loik、Pitch Odd Mansion……独自の美学で主張する国内ヒップホップ5作

 早くも上半期が過ぎた2023年。幕張メッセで開催された『POP YOURS』やABEMAで放送されていた『ラップスタア誕生』など、国内シーンの盛り上がりを象徴するようなイベントが印象的だった一方で、優れた音源作品も多数ドロップされている。今回の『lit!』では、そんな上半期の終わりにリリースされた国内ヒップホップ作品を5作紹介しよう。

NORIKIYO『犯行声明』

 昨年、事実とは異なる大麻売買の容疑をかけられ、勾留されたラッパー NORIKIYOは当時の違和感と怒りと呆れを、獄中にて歌詞に落とし込んだ。キャリアとしては10枚目のアルバムとなる本作、その名も『犯行声明』は、滑稽なこの国の現実と、フェイクニュースや偏見に溢れるこの時代に一石を投じるドラマを湛えたアルバムである。当事者として言葉を尽くしたNORIKIYOのラップはヘヴィなものでもあるが、皮肉混じりのユーモアとラップアルバムとしての風通しの良さをも携える構成は、あくまで音楽作品としての色を兼ね備えていると言えるだろう。BACHLOGICのビートも全編冴え渡り、終盤の感傷的な展開まで、豊かな音楽作品としての強度を担保する。理不尽な社会にとって、必要な物語と声を掲げる、今年のシーンを象徴する1枚になるだろう。

【MV】NORIKIYO / オレナラココ feat.STICKY

Sadajyo & Jeff Loik『Golden Virginia』

 『ラップスタア誕生』での活躍も記憶に新しいラッパー Sadajyoと、プロデューサーのJeff Loik。ヒップホップコレクティブ Musashi Villageのメンバーとしても活躍する2人のタッグ作。フレッシュな魅力を携えながら、タイトなSadajyoのラップと、ファンキーな味わいがあるJeff Loikのビートの相性がクセになる良作である。ビートなしでラップスキルを披露する1曲目「Intro」から全編に渡って、徹底してスマートにラップを魅せることに力を注ぎ、複雑さとは真逆の、まさに贅肉を削ぎ落としたような、気持ちよくまとまったクールな作品に仕上がっている。シンプルさが美点の作品でありつつ、前向きな美学を綴るタイトル曲「Golden Virginia」のソウルフルなビートなどにも耳が惹かれる。

Sadajyo x Jeff Loik - Zoomer (Official Music Video)

Pitch Odd Mansion『THE MANSION』

 ヒップホップクルー Pitch Odd Mansionの1stアルバムは、極めて心地いい作品である。Sweet Williamによる豊穣なビートに乗って、ラッパーやシンガーが各々の個性を活かし、たちまち登場し退場していく。自由なフロウとクルーの多彩さ、グルーヴを、身軽さを忘れずにパッケージするアルバムである。時折入る生活や日常に対する眼差しも忘れがたく、憂鬱な感情に光を当てるようなリリックも魅力的。最終曲「5 Carat」における〈光輝くCity/ライトに粗大ゴミ/金持ちが履いた山積みのゲロの下にはゲットー/君の手を/引いてあの大空へと〉(筆者聴き取り)という、流れるような描写は、汚さと美しさが溢れる日常の情景の巧みなスケッチと言えるだろう。

Pitch Odd Mansion - Panic Run / 252052

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