きくお×クリプトン佐々木渉『VRUSH UP!』シリーズ対談 多方面なカルチャーと有機的に結びついてきたボカロシーンの変遷
きくお、プロデューサーとなって企画を動かす可能性も
――海外での支持の広がりで言うと、例えばこの10年における海外でのボカロ音楽の受容のされ方の変化も関わりがあるように思うのですが、佐々木さんはどのように見ていますか?
佐々木:海外と日本の区別というよりも、インターネットがこれだけ発達したなか、ボカロに限らずDTMツールを活用する若い作り手たちがすごく増加していて、各地で個性的な音楽が生まれている流れが世界的に起こっていると思うんですね。例えば、僕は南アフリカ地域の若いミュージシャンたちが作るポリリズミックなポップスが好きでよく聴くのですが、そういったニュージェネレーションの音楽の一つとして、ボカロがネットのなかで他の流れとも融けていけばおもしろいと思いますし、実際に自分はそういう風に好きな音楽が増えている予感があって、音楽を漁るのが楽しいです。その意味できくおさんの楽曲も再発見されているのかもしれないですし、海外からも「日本でおもしろい音楽といえばこの辺だよね」みたいな形でフォーカスされているんだろうなと思います。やはりいい時代になったと思いますね。
――そのように技術がさらに進歩して音楽自体が今までにない広がりを見せるなか、きくおさんはご自身の活動の広がりについてどんな可能性を感じていますか?
きくお:結局、未来のことは誰にもわからないので、変に予測すると外して痛い目を見ると思うんですよ。なので、今の自分に何ができるかということに落とし込んで考えると、すべてに可能性があるのでいろんなことを全部試すしかない。それだけが作り手にできることだと思うんですよね。だから最近初めてのアナログレコード(『Kikuo』)を出してみたりしていて。そういうのって意外なことに繋がったりするんですよ。
以前、『きくおミク0』という昔の楽曲を詰め合わせたアルバムをコミケ(コミックマーケット)の会場限定で頒布したんですけど、そのなかに入っていた「溺れる宇宙猫」という楽曲が、YouTubeに無断でアップされていて、その再生数が1,000万回を超えていたりするんですよ。そんな結果になるなんて誰も予測できないじゃないですか。それこそ「愛して愛して愛して」も10年前に作った曲なのに急に海外で聴かれるようになって。なので今後の広がりということに関しては「わからない」が正解ですね。
佐々木:そういった不可解な体験の中心にいる、きくおさんのようなプロデューサーのビジョンやコンセプトが、もう少し企画として世に出る形になると、また不可解なことが起こっておもしろいのかなと思いますね。例えば、れるりりさんが企画されていた『地獄型人間動物園』のようなプロデューサー目線のアプローチはおもしろいことが多い。少しマイノリティだけどおもしろい世界観を持った人たちのコンピレーションを、きくおさんの目線で企画するとおもしろいでしょうし、これだけボカロの作り手が増えているので、打ち出し方によってはいろんな可能性があると思うんですね。
きくお:自分も1人でここまで来ているので、音楽業界の方のバックアップがあればもっとすごいことになるんじゃないかという発想はあるんですけど、なかなか話がまとまらなくて。「きくおさんには声をかけづらい」という話もちょいちょい聞いていて(苦笑)。たしかに楽曲制作の依頼は基本断っているので、その意味では自分はちょっと気難しい人なのかなって思うところもあるんですけど(笑)。
佐々木:こういう条件なら引き受けたいと思うお仕事、あるいはこういう制限があると受けるのがしんどいと思うことはありますか?
きくお:クライアント側とのやり取りや締め切りとかいろいろあるのですが、断る場合は基本、こちらに非があることの方が多いんですよね。おもしろいお仕事だったら多少のことは許容できるので……例えば僕はVTuberが大好きなので、VTuberの歌の案件であればコロッと引き受けちゃいそうな気がします(笑)。
――せっかくの機会なので、逆にきくおさんから佐々木さんに聞いてみたいことはありますか?
きくお:初音ミクのキャラクターに関する宣伝は、佐々木さんやクリプトンで何か動いているんですか? というのも、初音ミクの灯火がずっと消えていないことがすごいなと思っていて。
佐々木:会社全体としては、外部からおもしろそうなお話をいただいたときに「やってみよう」となることが多くて、新しい試みに結構ポジティブなんだと思います。そのなかで自分の動きとしては、「初音ミク -Project DIVA-」にせよ「プロセカ(プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク)」にせよ、新しい企画の立ち上げ時に企画実現の障害を取り払うバランス調整役として関わることがほとんどで、今も情報解禁前の大きなプロジェクトの調整で大変な思いをしています(苦笑)。ただ、そういった難しい案件や初音ミクを通して、自分も業界や世間と向き合って勉強させていただいているところがありますね。
きくお:やっぱりクリプトンがそういう調整を一つひとつされているからこそ、自分みたいな人間が支えられている感じはすごくありますよ。本当にありがたいです。
佐々木:いやいや、我々の方がありがたいと思っているんですよ。やはり初音ミクはクリエイターの人たちの創造性に支えてもらって、歌わせてもらっているので。そのような初音ミクを使わせてもらってビジネスを行うなかでは、葛藤も多いですが、そこに戦い続けることが我々だし、可能性を模索できる立場でもあるし、自分たちが向き合い続けるべきものだということを、きくおさんとお話しして改めて感じました。我々ももっと経験を積んで、きくおさんのようなクリエイターの方に有意義な企画をお願いできるようになりたいです。
きくお:ぜひぜひですよ。今後もよろしくお願いします!
■リリース情報
『VRUSH UP!』シリーズ詳細
https://lit.link/vrushup
<音源リンク>
きくお Tribute
https://lnk.to/VRUSHUP_kikuo
DECO*27 Tribute
https://lnk.to/VRUSHUP_DECO27
kous Tribute
https://lnk.to/VRUSHUP_kous
millstones Tribute
https://lnk.to/VRUSHUP_millstones
whoo Tribute
https://lnk.to/VRUSHUP_whoo
椎名もた Tribute
https://lnk.to/VRUSHUP_siinamota
40mP Tribute
https://lnk.to/VRUSHUP_40mP