2023.06.28 20:00

女王蜂、異端な存在のまま拡大し続けるスケール　『チェンソーマン』『【推しの子】』……物語との呼応で深まっていく真髄

文＝松本侃士

　各映像作品に真っ向勝負を挑む女王蜂に対してタイアップのオファーが相次いでいるのは、このバンドが様々なクリエイターから信頼とリスペクトを集め続けているからだろう。この約半年間を振り返っても、昨年12月には、「バイオレンス」がアニメ『チェンソーマン』（テレビ東京系）第11話のエンディングテーマに起用された。『チェンソーマン』の物語が内包する残酷さ、グロテスクさ、悲痛さ。そうしたいくつかの要素を貫く本質的なワードとして「バイオレンス」という曲名を掲げたアヴちゃんの批評性の高さに驚かされたし、何より、本能のままに獰猛なダンスビートを轟かせる同曲は、クライマックスへと突入したデンジたちの物語と見事に呼応していた。

女王蜂『バイオレンス(VIOLENCE)』Official MV

　そして、この数カ月間、日本のエンターテインメントシーンにおいて台風の目として猛威を振るっているアニメ『【推しの子】』（TOKYO MXほか）のエンディングテーマに、「メフィスト」が起用されたことも記憶に新しい。華々しい芸能界の光と影、人間の生々しい本性、アイドルという虚構の存在を巡る嘘。『【推しの子】』の物語に散りばめられた数々の要素は、シビアに現実を見据えながら、あらゆる負のエネルギーを音楽に昇華し続けてきた女王蜂のスタイルと非常に相性がよいものであることが、「メフィスト」を聴くとよく分かる。きっとこの曲も、人気アニメとのコラボレーションという文脈を超えて、女王蜂の新たな代表曲の一つとして存在感を放ち続けていくはずだ。

女王蜂『メフィスト(Mephisto)』Official MV

　また、「メフィスト」を聴いて驚かされたのは、ストリングスをフィーチャーしたサウンドが誇る圧倒的なスケールだ。筆者はこの曲を聴いて、日本武道館や東京ガーデンシアターよりもさらに大きなライブ会場を掌握するビジョンをはっきりとイメージした。『十二次元』に次ぐ新章は、これまで以上のスケール感を持った壮大な物語になっていくことだろう。