女王蜂のライブはあらゆる境界線を越えていくーーノンストップのエンターテインメント『夜天下無双』を観て

女王蜂『夜天下無双』を観て

 全国のZeppをまわる女王蜂のツアー『夜天下無双』、Zepp Tokyo公演1日目。ステージの幕が開くと、背を向けていたやしちゃん(Ba)、ルリちゃん(Dr)、ひばりくん(Gt)、サポートキーボーディストのみーちゃんが振り返り、こちらを向いてポーズをキメた。視線を合わせながら音を鳴らし始める4人。少し経つと、のぼり旗を持ったアヴちゃん(Vo)がお立ち台の上に登場。衣装から伸びる脚はため息が出るほど美しい。アヴちゃんが立つのは、ステージ中央後方にあるお立ち台。上手側上空には、シングル『夜天』のアートワークにある赤い月が浮かんでいる。

 そうして始まったのは、約1時間半にわたるノンストップのエンターテインメントだった。MCはほとんどなく、このツアーで初披露の新曲をやった時でさえも「新曲!」と一言添えたのみ。ライブの折り返し地点ではメンバーが衣装チェンジしたものの、その間、バンドがセッションし、アヴちゃんがアカペラで「虻と蜂」や「雛市」、「十」を一繋ぎにして歌い……と、ライブの構成・進行に淀みはなし。演者・観客双方の集中力・注意力を欠く要素の一切を廃したステージ。そのストイックさは並大抵ではない。

 それにしても、音にひたすら殴られているような感覚だ(殴られたものに救われることになるのがライブの面白さなのだが。後述)。ある時は漆黒一色、ある時は極彩色で空間全てを塗りつぶすようなバンドサウンドは鮮烈かつ強烈。音源ではサラッと聴けてしまうキメにしても、その一つひとつがあまりに分厚く、毎回毎回凝りもせずに驚かされた。それを従えるは、1オクターブ以上の跳躍も平然と行えてしまう、驚異の声帯の持ち主・アヴちゃんの歌。特に「火炎」を筆頭としたドロップを効果的に用いた曲が、肉体的なサウンドで鳴らされた時の気持ちよさは尋常ではなく、席ありのライブハウスは瞬く間にディスコへと様変わりしていく。

 さらに、女王蜂はライブアレンジも激しい。ライブのオープニングを飾る1曲目が、ショートサイズかつ原曲よりも暗いトーンの「夜天」だった――つまり、音源では聴けないバージョンだったことも象徴的だろう。また、「あややこやや」の最中に「催眠術」の一節を歌うなど、マッシュアップのように、他曲のフレーズを挿入することも頻繁にある。そういったある種DJ的な楽曲編集センスと、“衝動を鳴らす”、“今この場所で生き様を曝け出す”といったバンド的なアティチュードが合わさることによって、ライブはますます予定調和とは無縁のものになっていった。

 そして触れないわけにはいかないのが、アヴちゃんの身のこなし、それに呼応した舞台演出による演劇・ミュージカルのようなパフォーマンスだ。特に「折り鶴」、「先生」、「あややこやや」などを演奏したライブ中盤では、マイクを床に落としたときに鳴る「ゴツン」という音、階段を上るときに鳴る「カツッ…カツッ…」というヒールの音なども演出の一部として機能。楽曲自体が持つ世界観をさらに際立たせつつ、観客の目を引きつけた。特に「先生」で〈灯油でぐるっと輪を描いてマッチを〉と口ずさんだ通りの動作をしたあと、ステージ全体が赤色の照明に染まったシーンは、まるで辺り一面が火の海になったようで鳥肌もの。肌を重ねると同時に心も重ねるはおろか、むしろ傷つけ合ってしまうのが、人間の愚かさであり、悲しさであり、絶望である――という現実が観る者に突きつけられていく。

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