由薫、EP『Alone Together』はそっと差し出すような1枚に 「星月夜」のヒットで新たな気づきも

由薫「星月夜」のヒットで新たな気づき

「今の私はこんなに世界が開けてる。音楽って楽しいな」と改めて思った

由薫

――ここまでに触れた4曲は、僕の中でEPのタイトルに紐づけることができたんですけど、「June, I love you」はどういう思いで収録曲に入れられたんですか?

由薫:曲を書いてから時が経てば経つほど考えるのは、メロディの立ち方とか歌詞の聴こえ方とか「どんな人がどこに刺さってくれるかな」ということなんです。「June, I love you」はメロディや歌詞が立つことよりも、むしろ周りを流れてくれたらいいなというか。

――流れてくれたらいい?

由薫:私の中では“緩やかな川”のイメージなんです。まるで包み込まれるような、純粋な優しさを表現できたらいいなと思って作りました。「June, I love you」はタイトルの通り、6月について歌っているのと同時に、ジュンという名前の犬に歌っているんです。

――あ、そんな裏テーマがあったんですね!

由薫:私も犬を飼っているんですけど、飼い主と犬の関係性ってすごくピュアなんですよね。ただまっすぐに愛をくれる。そういう包み込む感じは、雨もそうだと思うんです。雨が降ると「天気が悪い」と言いますけど、時と場合によって雨が降ってることで、すごく安心できて包まれる気持ちになる瞬間ってあるじゃないですか。そんな気持ちになってもらいたいなと思って作った曲で。中でも、最後に何回も繰り返している歌詞があって。

――〈Summerʼs close and Iʼm singing〉ですね。

由薫:うまく説明できないですけど、この歌詞がすごくお気に入りで。自分の無意識の中から出てきた言葉だったんです。それこそ「ワンマンするなら、こんなのをやりたいな」って気持ちで作った曲ですし、『Alone Together』にもすごくフィットしてるんじゃないかなと思って入れました。

――「Swimmy」以外の4曲は、以前書かれていた楽曲ということで。過去に書いた曲や、その時の自分と対峙してどんなことを感じましたか。

由薫:まず、顕著に思ったのは「欲」ですね。歌詞を見るたびに尖ってるな、と笑っちゃうんですけど(笑)。10代の時の私だなって思うのと同時に、カッコいいなと思って。やっぱり昔の尖ってる自分って、ちょっとダサくてちょっとカッコいいんですよ。それが楽曲として残ってるのが、すごく面白いし「そうだったよな、自分」と思います。何より歌詞で言ってることは、今の私にもちゃんと伝わる。レコーディングしている時は“負けん気が強くて、向上心しかない私”を思い出しながら歌いましたね。

――「欲」は当時の尖っている様も感じるし、それを今このタイミングに出すこと自体も尖っているし。

由薫:(笑)。

――しかもボサノバアレンジにこの歌詞というのもめちゃくちゃ尖っていて。

由薫:そうですね(笑)。すごくナチュラルな仮面を被って、実は結構尖ってる。他で言うと「ミッドナイトダンス」は、世界観の変化を自分でも楽しみながら歌いました。溶けるような歌い方をしたんですけど、レコーディングでは、初めてブルガリアンコーラスを使ったんですよ。それがブリッジのところにある、ちょっと違和感があって不協和音が入ってる箇所。あとはアレンジャーの高慶"CO-K"卓史さんは私と音楽の趣味が近くて、曖昧な言葉でもすぐに理解してくださって。とにかく、この曲は夢か現実か分からない世界観と、ふわふわした感じを表現した楽曲になりました。「June, I love you」はサウンドプロデュースとアレンジを、マイキーさん(Michael Kaneko)にお願いしたんですけど、嬉しかったのがこの曲にマイキーさんの声も入ってるんですよ。

――コーラスのところですね。

由薫:そうです! ボーカルレコーディングでは、ブースの前に立って手紙を書く気持ちで歌ったのが結果的によかったなと思います。「ヘッドホン」はサポートの方が楽器を弾いているのを見て、目の前で自分の声を入れる感じで、ライブ感がありましたね。それぞれの楽器が、それぞれの役割を果たしていて、それが一つの音楽になるのが素敵だなって。曲を作った時は一人ぼっちだったけど、たくさんの人が関わってくれて姿を変えていくのを目の当たりして、「今の私はこんなに世界が開けてる。音楽って楽しいな」と改めて思いました。

由薫

――これまで出されてきた作品の中で、『Alone Together』はどんな位置付けの1枚になりましたか?

由薫:去年2月に初めてEP(『Reveal』)を出して、その後から単発のリリースが増えていって。メジャーデビュー曲「lullaby」とか「No Stars」とか、ONE OK ROCKのToruさんと作ったパワーを感じる曲が続いて。そこから「gold」の後に「星月夜」があって「Blueberry Pie」でまた楽しい曲をリリースした。たくさんの人に届けて、力いっぱい込めて投げていった曲たちの中で、今回はそっと差し出すような1枚になったのかなって思います。ちなみに、今回のEPはデジタルEPなんですが、ライブ会場限定で特別にCDとしても販売をすることになったんです。

――まさに、手渡しのように差し出していく感じですね。

由薫:はい。私から誰かへ、個人的にお渡しするパーソナルな雰囲気のEPにしたいなと思って。ジャケット写真に関しては、普段だったら写真に映らない表情だと思ってるんです。そもそも写真を撮るつもりで撮ったものじゃなくて。本当になんとなくで撮った1枚なんですけど、それがすごく良くて。そういう狙ったものというより「私の好きなもの・大切にしてきたものはこれです。あなたにも見せたい」という気持ちでリリースしようと思っていたので、そういう立ち位置の1枚になったと思います。

――「星月夜」でいろんな方に知られたタイミングで、こういう作品を出すのは珍しいアプローチですよね。

由薫:そこはスタッフの方々にもすごく感謝していて。インディーズ時代の曲をこのタイミングで出すというのは、なかなかないケースだと思うんです。だけど一人のアーティストとしても、これがすごく正しい気がして。これから進んでいくためにも、ここでこの子たちを残していきたいってすごく思ったんです。本当にいいと思えるタイミングで、作品たちを出すことができて嬉しいです。曲をリリースする時って、皆さんはどんな風に受け取ってくれるんだろう? って楽しみと若干のそわそわ感があるんですけど、今回もどんな反応が返ってくるか楽しみだなと思っています。

――先ほども話題に出ましたが、5月28日からは初めてのワンマンツアーが始まります。どんなステージにしようと考えていますか。

由薫:『Alone Together』という言葉を掲げてライブをしたいと思ってるんですけど、ワンマンをやるのは、音楽をする人としてずっとやりたかったことで。長年の夢が実際に叶う瞬間でもあるし、私の音楽の旅みたいなものーーメジャーデビューして1年が経とうとしてますけど、まだまだ始まったばかりなのでこれからも聴き続けたいと思ってもらえるような、期待してもらえるような、そんな第一歩となるライブにしたいと思います。何より、その場にお客さんが来てくれることが、私にとってどれだけ特別なことか。それもタイトルの言葉に込めてるので、普段聴いてくれたりとか、初めてライブに来てくれる人達の顔を見て、心から音楽を届けたいです。『Alone Together』の世界観を、どうやって皆さんに最高の形をお届けしようかな? って、ちょっと企んでるところです。

――最後は抽象的な質問になりますけど、最近何か新たな気づきや発見したことはありますか?

由薫:それこそ「星月夜」のおかげで、テレビで歌唱する機会が増えて。改めて自分で自分をコントロールすることが、すごく大事だなって思いました。あとは、どんどん自分が変わっていくことで、聴いている曲も作る曲も変化をしていて。とはいえ、自分の感情と向き合った時に、どうしても拭いきれないネガティブな気持ちが私の中にはある。それを払拭するんじゃなくて、ちゃんと向き合って音楽にすることが、自分にとって一番いいことだなと。だから最近は自分と向き合う作業を意識的に増やして、新しい音楽を作っていきたいですね。あとは一歩引いた目で見た時に、音楽に対しての発見があって。

――と言いますと?

由薫:音楽って3分とか5分の曲を作るために、膨大な時間がかかっていて、たくさんの人の力を借りている。「すごいな、これが音楽を仕事にするってことか」と改めて感じるんですよ。音の1分1秒にどれだけの思いをこめられるかの戦い。そう考えるようになったことで、1つ次のステップに進めてるのかなと思うんです。まだまだ試行錯誤してる途中ですけど、もっと皆さんにいい音楽を届けていきたいです。

――僕は文章を読んでいて「この1ページ、いや1行の文章を書くために、この人は多くの時間と心血を注いだんだろうな」ってよく思うんですけど、音楽もそうで。由薫さんの言った、1分1秒にどれだけの思いをこめたのかは、良くも悪くも相手に伝わる気がしますよね。

由薫:それは本当に思います。作品を作ることって自分が日頃から吸収しているものだったり、その時の価値観や気分だったり、そういうものがすべてを反映されると思っていて。そう考えたら、本当に生活の全部が“音楽のため”になっているというか。音楽に関係ないことって、1つもないんだなと思って。それを凝縮したものが歌詞やメロディになるなと、最近改めて思います。私もいい音楽を作りたいので、自分の目指すところにたどり着くために、ステップアップしていきたいですね。

由薫 デジタルEP『Alone Together』
由薫 デジタルEP『Alone Together』

■リリース情報
由薫 デジタルEP『Alone Together』
2023年5月26日(金)Release
<収録曲>
M1. ミッドナイトダンス
M2. June, I love you
M3. 欲
M4. Swimmy
M5. ヘッドホン

■ツアー情報
由薫『1st TOUR 2023“Alone Together”』
5月28日(日)ワンマン@大阪 南堀江Knave(16:30開場/17:00開演)SOLD OUT
6月3日(土)ワンマン@東京 Spotify 0-WEST(17:30開場/18:00開演)SOLD OUT
6月11日(日)ワンマン@名古屋 SPADE BOX(16:30開場/17:00開演)残りわずか
プレイガイド ※各地共通URL
ぴあ:https://w.pia.jp/t/yu-ka-2023/
ローソン:https://l-tike.com/yu-ka/
イープラス:https://eplus.jp/yu-ka/

■由薫 関連サイト
オフィシャルサイト:https://yu-ka.jp/
YouTube:https://www.youtube.com/c/yukaYTchannel
Instagram: https://www.instagram.com/yukayu_ka79/
Twitter: https://twitter.com/yukayu_ka79
TikTok:https://www.tiktok.com/@yuuka_0709

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる