日食なつこの爽快なる現在地 多数のゲストと変幻自在のアンサンブルでみせた『蒐集大行脚 -extra-』

日食なつこ『蒐集大行脚 -extra-』レポ

 日食なつこの全6カ所7公演を回るツアー『蒐集大行脚』の追加公演、『蒐集大行脚 -extra-』が4月1日に行われた。場所はヒューリックホール東京。セットリストのほとんどがコロナ禍以降に発表された楽曲で、『アンチ・フリーズ』(2021年)、『ミメーシス』(2022年)を中心に、『永久凍土』(2019年)から3曲ほどフックアップした構成である。

 そもそも本ツアーは昨年春に行われた『蒐集行脚』で得た手応えから、「1度きりで終わらせるにはもったいない」という思いのもと、「2周目」と銘打ち始まったものだ。そこで前回よりも少しだけ大きな会場を選び、演者の顔ぶれも一層豪華に揃えてツアーに出たのである。

 ライブ後半のMCでは、「いつ歩みを止めてもおかしくなかった。『アンチ・フリーズ』と『ミメーシス』の2枚に感謝しなくちゃいけないと思った」と語っており、そうした意識もこのライブの動機になったという。いわばこの3年間で培ったものを、一挙に解放するようなツアーなのである。この日から観客の声出しが解禁されたこともあり、ここ数年彼女のライブに来ていたリスナーにとっても、溜め込んでいたものを放出するような一夜になったのではないだろうか。

 蠱惑的な響きを持った鍵盤に惹かれる「シリアル」でライブがスタート。早くも突き抜けるような歓声が上がる。2曲目の「hunch_A」を終えると、日食と共にこの行脚の先頭を行くメンバーたち、沼能友樹(Gt)、仲俣和宏(Ba)、komaki(Dr)の3人が紹介された。いわば彼らが本公演の軸となるバンドメンバーである。だが、このツアーの本質は、多数のゲストを招くことで楽曲の魅力を引き出していく、その変幻自在のアンサンブルである。

 ギターレスの3人編成で聴かせた「クロソイド曲線」は、太くしなやかな低音でドライブしていくベースがカッコよく、ダイナミックなドラムも迫力満点。一方「ワールドマーチ」では軽やかなタッチで曲の表情を変えるなど、楽曲のテンションを操るドラミングが頼もしい。「お役御免」からは日食以外のメンバーが一旦下がり、ケルト/ブルースバンドのHARMONICA CREAMSと田中佑司を招いた5人編成へ。異国情緒漂うフィドルやハーモニカの音色が心地よく、空想の中で世界を旅するような夢見心地を味わえた。懐の深さを感じる豊かな響きの演奏は、詩の中の物語性を一層引き立てていたように思う。

 中盤は日食なつこのピアノ弾き語りである。暗闇の中で流れ星を見つけるような美しさを感じる「夜間飛行便」、詩美を感じる音色で魅了する「峰」、天から光が差すようなスポットライトの下で、水が流れるような音と共に演奏された「meridian」。彼女の声とピアノには、心の深いところに染み込んでくるような魅力がある。続く「white frost」での伊藤彩カルテットの演奏も忘れ難い。バイオリン、ビオラ、チェロのアンサンブルは非常にドラマチックで、この曲の伴奏は間違いなくこの日のハイライトだろう。

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