藤田麻衣子、シンガーソングライターとしての殻を破った新機軸 wacci 橋口洋平、SUNNY BOYら旧友から得た刺激も
「wacci 橋口くんの曲がすごすぎて“天才ですか!?”と叫びました」
ーーさて、橋口洋平(wacci)さんとは共作が2曲あります。まず、そもそもの出会いについて聞かせてください。
藤田:橋口くんともSUNNY BOYさんと同じく、インディーズ時代からずっと交流があって、最近また、「橋口くんの曲いいな。歌もすごいな」と思っていたところでした。前述したように、曲は誰かにお任せして歌詞は自分で書きたいのが基本だったんですけど、一方で、誰かの書いた歌詞を歌ってみたいという気持ちもあったんです。ただ、よっぽど共感しないとそれはできない。もらった手前、歌わなきゃいけないっていうのが一番嫌ですから。
ーー橋口さんなら望みを叶えてくれそうだと?
藤田:これまでの交流の中でいろいろ話しているので、私のこだわりとかも知っていてくれて。「他の人の歌詞はなかなか歌う気になれないけど、橋口くんの歌詞なら共感できそうだから書いてもらえる?」とお願いしました。
ーーその2曲「美女と野獣」「鏡よ鏡」は、奇しくもディズニー映画がモチーフ。前者はタイトル通りで、後者は『白雪姫』がモチーフですよね。
藤田:「テーマを一緒に決めたい」とのことで一度打ち合わせをしたときに、開口一番に私が、Hey! Say! JUMPに橋口くんが提供した「ナイモノネダリ」のことを話したんです。「ナイモノネダリ」は、『ピーターパン』を題材にした恋の歌なんですけど、物語の持っていき方も比喩も天才的。「よくこんなの書けるね。私は絶対書けないよ」と褒めちぎりました(笑)。橋口くんもその制作プロセスを話してくれたりして。そうこうするうちに、「ディズニー、いいな」って思ったんです。
ーーディズニー好きの藤田さんらしい展開ですね。
藤田:「私、子供の頃から一番好きなのが『美女と野獣』なんだ。それで何か書けるかな?」なんて話したら、橋口くんが「どんな話?」と興味を向けてくれたので、そこから『美女と野獣』について15分くらい熱弁しました(笑)。橋口くんはすぐに浮かんだアイデアを話してくれて、さらに「予備でもう一個ちょうだい」と言うので、今度は『白雪姫』と『眠れる森の美女』の話もしました。どちらも15秒くらいで(笑)。そしたら「『白雪姫』なら共感できそう」という反応で。
ーーワクワクする打ち合わせですね。
藤田:『忘れられない人』で『リトル・マーメイド』を題材にした「人魚姫」を作りましたけど、実は『白雪姫』でも歌詞を書きたいと思っていたんです。ただ、トライしても書けなかった。そんな話もしたら、「じゃあ、僕が『白雪姫』で書いてみてもいい?」と言ってくれて、ディズニー路線が繋がりました。で、先に上がってきたのが「鏡よ鏡」。〈最後のキスをしてよ/それであなたも 目を覚ましてよ〉というくだり、すごすぎて「天才ですか!?」と叫びました。あんまりいいので、急遽推し曲にしてもらって、MVも作ったんです。
ーー藤田さんのことをよく理解しているからこそのドンピシャの楽曲という気がしました。橋口さんの力量をどう感じましたか?
藤田:地道に積み上げてきたから、こうしてお互い長くやってこれてると思うんですけど、だからこそ、ここにきて橋口くんがまたさらにいい曲を生み出してるのがすごい! と思います。過去の曲をガンガン超えてきてる。きっと、何か掴んだんでしょうね。
ーー「美女と野獣」の歌詞は共作となっていますが。
藤田:橋口くんが「これ、完成でも未完でもいいんだけど、僕としてはもうちょっとよくなる気がしてるんだよな」という段階で歌詞を受け取って、〈あぁ すべての魔法が解けて/王子の姿になって〉のあたりを加えさせてもらいました。
特別な出会いから生まれた「ありがとう」
ーー「タンポポ」は作曲がサイレンジ!さんで、作詞は藤田さん。〈誰かに植えられたんじゃなく/舞い降りた この場所で/咲こうと決めた花〉という歌詞が刺さりました。
藤田:『Color』というアルバムタイトルを決めてから作ったので、タンポポの黄色をはじめ「色」を意識して歌詞を書きました。
ーーアルバムタイトルを『Color』にしたのは?
藤田:「漆黒」を書いたときに「色」が出てきたということがまずありました。その後、タイトルをどうしようかなと思いながらアルバムのジャケットやブックレットやカレンダーなどの撮影をして、その色とりどりの写真を見たときに、『Color』という言葉が浮かんできたんです。このアルバムで期せずしてやっていたことが、全部そのタイトルで繋がっていきました。
ーー確かに。いろんな色を持つ人たちとのコラボで完成したアルバムですもんね。「足音」は作曲がHaru.Robinsonさんで作詞が藤田さん。低めのAメロが新鮮です。
藤田:橋口くんも然りで、やっぱり男性の書く曲って音域が広いんですかね。「足音」もキー決めを随分迷いました。たぶん5年くらい前だったら、こんなに低い声は出なかったですね。自分でも新鮮。ただ、この歌詞も時間がかかりました。一度は書いた恋の歌も「なんか違うなぁ」と。なんでもいいから早く文字を埋めて仮歌を録りたいと思う日々が続きました。
ーー最終的に何がきっかけで浮かんだんですか?
藤田:とにかく聴くという時間を過ごしてるうちに、「なんか温かいな。家族が見えてくるな」と思って、そこからですね。自分が思うテーマじゃなく、曲がくれたイメージから歌詞を発想するっていうのも、たぶん初体験でした。
ーー「ありがとう」は作曲と編曲が藤田さんで、作詞は柳田はるかさん。柳田さんの歌詞を歌いたいと思ったのは?
藤田:2017年、24時間テレビの『はじめてのおつかい』(日本テレビ系)で、視覚障害者であるはるかちゃんと娘さんが出演して、そのとき初めて、私の「素敵なことがあなたを待っている」があの番組の挿入歌として使われたんです。その後、はるかちゃんご一家が私の名古屋のライブを観にきてくださって交流が始まりました。
ーー同じ愛知県出身ですもんね。
藤田:2021年には、「あれから何年」みたいなシリーズで、はるかちゃんと娘さんのその後を伝える場面があって、そこで、アコースティックギターを始めたはるかちゃんが、「素敵なことがあなたを待っている」をご家族に向けて歌ってくださってた。その姿にすごく感動したので、私の名古屋のライブにゲスト出演していただきました。その頃からはるかちゃんは自作曲も作り始めていて、今ではシンガーソングライター同士みたいな感じで、よく電話とかで話しています。なんか波長が合うのか、面白くてすぐ1、2時間経っちゃう(笑)。曲作りの話などもするうちに、「じゃ、何か一緒に作ってみる?」となっていきました。
ーー具体的にどんなやり取りから「ありがとう」が生まれたんですか?
藤田:彼女と話していると、「それ、めっちゃいい話だよ」ということがけっこうあるんですね。「ありがとう」のエピソードもそのひとつ。すぐさま、「それ、歌詞にしてくれない?」と言いました。はるかちゃんは「ただの私の自己紹介になっちゃいますよ」と言ってたんですけど、「それがいいの!」と言って書いてもらい、曲をつけました。はるかちゃんも何かイベントで呼ばれるたびに、この曲を「自己紹介」として歌ってくれていて、ちょうど彼女の自主制作のCDも出たところなんですよ。
ーーいい出会いですね。
藤田:『Color』がちょうどいろんな人とコラボするアルバムとなったので、違和感のない形で藤田麻衣子バージョンの「ありがとう」を入れることができました。大好きな曲で、歌うたびに泣いちゃうんです。それで声が変わっちゃうので、2回歌って2回目をOKテイクにしました。失っていくものがあることへの不安も確かに書かれているんですけど、最終的にすごく希望に満ちていると思える。心だったり、体だったり、環境だったり、ハンデって形は違えど誰もが抱えていますよね。だから、きっと多くの人に共感してもらえるはずと思って歌いました。
ーー音楽から離れた時期を経て、アルバムを作り終えた今、どんなことを思ってますか?
藤田:今まで自分で書くことにこだわってきたけど、作る人も、もしかしたら歌う人も、自分でも自分じゃなくてもいいんだなと思うようになりました。誰かのいい歌を聴いてるだけで私は幸せだし、満たされる。つまり、私は歌というもので感動したいし、感動を届けたいだけなんだなと。
ーーまさにシンプルなところに行きついたんですね。
藤田:もちろん職業だから、藤田麻衣子のアルバムで歌うのは私だけど、曲や詞は自分でも、自分じゃない誰かでもよくて、とにかく、大事なのはいいものができるかどうか。そこだけを考えて作れたアルバムです。久しぶりに「さぁ動くぞ!」という気持ちで、フリーライブや『Color』を携えてのライブにも臨むつもりですので、ぜひ楽しみに待っていてください。
※1:https://realsound.jp/2021/10/post-889684.html
■リリース情報
藤田麻衣子
メジャー7thオリジナルアルバム『Color』
2023年5月24日(水)発売
・初回限定盤(CD+カレンダー、10インチサイズ仕様):¥4,950(税込)
※封入特典:Color オリジナル壁掛けカレンダー(2023.6~2024.3)
・通常盤(CD):¥3,300(税込)
<収録曲>
1. 漆黒(作詞・作曲:藤田麻衣子 編曲:大野宏明 ※女性向け恋愛ゲーム『イケメンヴィラン 闇夜にひらく悪の恋』主題歌)
2. タンポポ(作詞:藤田麻衣子 作曲:サイレンジ! 編曲:久下真音)
3. 戻りたい、もう戻れない(作詞:藤田麻衣子 作曲・編曲: MONJOE・SUNNY BOY)
4. 鏡よ鏡(作詞・作曲:橋口洋平 編曲:山本清香)
5. できるなら…(作詞・作曲:藤田麻衣子 編曲:大野宏明 ※まなみのりさへの提供楽曲のセルフカバー)
6. always(作詞・作曲:藤田麻衣子 編曲:山本清香 ※THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLSへの提供楽曲のセルフカバー)
7. 足音(作詞:藤田麻衣子 作曲:Haru.Robinson 編曲:大野裕一)
8. 美女と野獣(作詞:橋口洋平・藤田麻衣子 作曲:橋口洋平 編曲:山本清香)
9. ありがとう(作詞:柳田はるか 作曲・編曲:藤田麻衣子 ※柳田はるかへの提供楽曲のセルフカバー)
10. シンプル(作詞:藤田麻衣子 作曲・編曲:SUNNY BOY ※2022年8月リリース配信シングル)