藤田麻衣子、葛藤の果てに噛み締めた15周年の喜び 支え合ってきた様々な人とのストーリーを振り返る

藤田麻衣子、支え合ってきた人とのストーリー

 藤田麻衣子のBlu-ray作品『Maiko Fujita 15th Anniversary Special Live』が3月23日にリリースされる。2021年9月8日に東京・Bunkamuraオーチャードホールで行われた15周年締め括りのライブを映像化したものだ。折しも世の中では、東京オリンピック後の爆発的な感染拡大が毎日のように報道されていた。せっかくの記念ライブの、しかも、この日だけの特別なセットなのに、中止という最悪の可能性も頭の隅で捉えつつ、それでもやると覚悟を決めて臨まなければならなかったはず。ギリギリの状況下で行われたからこそ、藤田本人にとっても、またリスクと引き換えに目撃することを選んだファンにとっても、忘れられないライブとなったのかもしれない。

 思えば、藤田麻衣子の15周年は、2020年に出版された初めてのエッセイ『一つ言葉にすれば 一つ何かが変わる 願いが叶っていく58の気づき』の執筆時から始まっていた。そこには、「オーケストラで歌いたい」という夢を持って上京してから、その夢を叶えるまでの小さな行動の積み重ね、さまざまな出会い、挫折などが、心から願うことの大切さを軸に率直に綴られていた。“藤田麻衣子”が生まれる上で重要な何人かのキーパーソンも登場する。デビュー前からの時代を共有するピアノの山本清香、バイオリンの沖増菜摘、チェロの島津由美、2006年に『恋に落ちて』でCDデビューするきっかけを作った伝説の初代マネージャー「近藤さん」、インディーズでどこか諦めに似た気持ちで活動しているときにメジャーへの奮起を促し、藤田がさらに輝く手助けをしたプロデューサー・Ikomanといった面々だ。

 藤田麻衣子というアーティストは、自分の野望を着々と形にするリアリスト。べタベタとしたウェットな感情に溺れるタイプではない。ただ、すべての曲を詞先で作っていることからもわかるように、藤田は自分の気持ちを言葉で伝える人。歌詞にすることも、エッセイを書くことも、MCで話すことも同一線上にある。そして、それらの言葉たちはどれも、藤田のなかで削ぎ落とされ、吟味され、凝縮されているから、普遍的なエッセンスとして受け手の心に沁み込む。もちろん、藤田の本分である歌は歌で、作り手の個人的な想いなど知らずとも沁みるものは沁みる。でも、藤田麻衣子というアーティストを鑑賞するとき、誰かに対する個人的な想いを知ることが、楽曲のストーリーをさらに深く味わうガイドとなってくれる。ここ数年、藤田の活動を見てきたが、それは間違いない。つまり、藤田麻衣子の歌は彼女自身のドキュメンタリー作品でもあるのだ。そこが魅力なのだと今回も強く思った。

 初のオーチャードホールで、デビュー前からつかず離れず共に成長してきたサポートメンバーの3人と、15周年という特別な時間を丁寧に刻んだ藤田麻衣子。その歌に、そして、MCを含めた表情の一つひとつに、彼女が大切に育ててきた真実のストーリーが見えてくるはずだ。(藤井美保)

藤田麻衣子 Live Blu-ray 『Maiko Fujita 15th Anniversary Special Live』 ダイジェスト映像

「メンバーに対する直感的な信頼が最初からあった」

ーーデビュー前からの活動スタイルであった4人だけでオーチャードホールに立つというアイデアは、いつ頃浮かんだものですか?

藤田麻衣子(以下、藤田):「15周年ライブをオーチャードホールでできたら素敵だなと思う」と私が挙げたのは、開催日の1年以上前だったと思うんですね。実際それが可能だとわかって、「じゃあ、どういう編成でやる?」となったときに、ふと、原点に戻って4人でできたらいい15周年になりそうだなと思いました。もちろん、それ以前から、15周年イヤーでやりたいことをもろもろ準備はしていたんですけど、コロナ禍に入ってしまったので、2021年にはきっと10周年のときみたいに47都道府県を回ることはできないだろうなとも思っていて。

ーーそこは大きなファクターだったんですね。

藤田:はい。やりたいこと、できることを考えて、結局15周年のツアーは、ピアノとギターという小編成のアコースティックスタイルで10カ所ほど回りました。ファイナルは、オーチャードホールに4人だけで立つことにして。

ーー奇しくも原点を見つめる形になったんですね。

藤田:15周年を見据えて、2020年に『一つ言葉にすれば 一つ何かが変わる 願いが叶っていく58の気づき』というエッセイを出したことも大きかったです。4人について結構書いてますから。とにかく、ずっとそばにいてくれた必要不可欠なメンバーなので、何か振り返ろうとすると必ずその姿がある。特に出会ってすぐの、小さなライブハウスで対バンをやっていた頃のこととかは、やっぱり忘れられないです。

ーーそもそも歌のサポートが、ピアノとチェロとバイオリンって珍しいですもんね。

藤田:そうなんですよ。当時は激しいバンドとの対バンもあって、お客さんは立って頭を振ったりしているのに、私のときだけはみんな床に体育座りして静かに聴くっていう(笑)。そういう時代を共有してきたし、何より彼女たちの演奏が好きだったので、絶対一緒にもっと素敵なホールでやるんだと夢見ていました。15周年で、オーチャードホールでそれが実現したのが、本当に嬉しかったです。

ーー同じメンバーと、いい距離感でここまで長くやれている理由って何だと思いますか?

藤田:活動を始めた20代前半の頃っていうのは、めちゃくちゃいろんな人に出会うわけです。でも、冷静で現実的で野心もあった私は、自分がどんどんステップアップしていくのなら、「今、仲良くしている人たちとずっと一緒にはいられない」と、超ドライに考えていました。なんか、言葉にすると可愛くないんですけど(苦笑)。もちろん、清香、なっちゃん(沖増)、由美ちゃんも例外じゃなかった。別に4人でバンドを組んでいるわけじゃないから、それぞれが別々の場所で成長していくんだろうなと当然のように思っていたんです。ただ、そうやって10年経ったとしても、この3人だけはきっとさよならするわけではなく、一緒に演奏しているんだろうなと。そういう直感的な信頼感みたいなものが、自分の活動の行方すらまったく見えていなかった頃からありました。

ーー例えば「君が手を伸ばす先に」で、一旦演奏がブレイクして、藤田さんのブレスで再度始まる場面がありますよね。その息の合わせ方ひとつとっても、一朝一夕にできるものではないなと。

藤田:ブレスのパターンはいろいろで、一拍前で吸うこともあれば、半拍前のときもある。サポートする側にとって、私ってすごく合わせにくい人だと思うんですね。でも、3人はいつでも「了解です!」みたいな感じでいてくれます。

ーー「きみのあした」の曲中の「♪ドンドンパン」の場面では、沖増さんがハイヒールで足踏みし、いつも冷静な感じの山本さんが大きな身振りで手拍子し、島津さんが観音様のような笑顔で見守ってる。そのファミリー感が素敵だなと。

藤田:それぞれ性格が出ていますよね(笑)。清香は、一番年下だけどしっかりまとめてくれる長女のような存在。なっちゃんは華やかでキャラの立った暴れん坊。由美ちゃんは、そんななっちゃんにもうまくツッコミを入れられる柔らかな中和剤。

ーー初回限定盤に入っているオリジナルパンフレットには、4人でのガールズトーク炸裂の対談も収録されています。

藤田:あはは。本やMCなど、私からの話では散々3人が出てきているんですけど、3人が何かを話す場面ってなかなかないので、改めての紹介も兼ねて対談しました。誰と話すより素の自分が出るんじゃないかなとも思って。

ーーライブハウスでやっている頃、急に藤田さんがステージからいなくなって、サポート陣がインストでつないだっていうエピソードも面白かったです。

藤田:ああ、途中で気持ちが負けたやつですね(苦笑)。

ーーちゃんと戻ったんですか?

藤田:舞台監督さんが「大丈夫ですか?」と青い顔して楽屋に迎えに来て、しばらくして「うん。行きます」と戻ったと思います。あんまり覚えてはいないんですけど(笑)。

ーー大切な仲間との想いをシェアするライブであり、映像作品なんだなと思いました。弾き語りで歌った「カーテン」では、伝説の初代マネージャー「近藤さん」の話も出てきましたね。

藤田:ファンクラブやブログでたまに名前を出したことはあったと思いますが、あそこまでちゃんとMCでお話したのは初めてです。15年を振り返るときに、メンバー3人と同じく近藤さんも欠かせない存在。だからこそエッセイにも書いたんですけど、今回はその近藤さん本人に、私の成長した姿を見てほしいという気持ちも強かった。なので、感謝の気持ちも込めて話しました。

ーー最初に声をかけてくれた音楽関係者に「君とはもう一緒にはできない」と言われた日にできたのが「カーテン」。15周年の弾き語りアルバムでようやく作品化されました。そして、その同じ日に、藤田さんに可能性を感じた人物が近藤さん。まさに捨てる神あれば拾う神ありで。

藤田:時間が経ったからこそ触れられたところはありますね。と同時に、時間が経つにつれて私の初期の頃のことを知っている人もどんどん少なくなっているので、15周年を機に原点のひとつとしてちゃんとお話して、新しいファンの方たちにも藤田麻衣子のストーリーを楽しんでもらえたらなとも思いました。近藤さんとは3年ほどしか一緒にいなかったけど、ずっと残しておきたいような言葉をいっぱいくれる人なんですよ。今思えば、マネージャーでも、ディレクターでも、プロデューサーでもない。とりあえず拾ってくれた人っていう感じなんですけど(笑)。清香もなっちゃんも由美ちゃんも、「近藤さんの言葉、いまだに覚えてるよ」ってよく笑いながら話していますね。テキトーな冗談もいっぱい言う人だったんで、冗談がまったく通じない私は、それをずっと真に受けたままだったりしていたんですけど(苦笑)。

ーーパンフレットではその近藤さんとの対談も掲載されていますね。先ほど「藤田麻衣子のストーリー」という言葉が出ましたが、つまり、個人的な想いを大切に持ち、それを聴き手にも分けてくれる、それが藤田麻衣子というアーティストなんだなと、今回つくづく思いました。

藤田:伝えたいことを言葉にして、歌にして残しておきたいと思ったのが始まりだったので、私にとってはたぶん、歌詞もエッセイもMCも同じなんですよ。SNSなどで気安く言葉にするのは、今はちょっと違うなとも思うので、だからこそ、ちゃんと言葉を整えてMCの場で伝えたいというのはありますね。

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