YOASOBI「アイドル」がTikTokなど多数チャート席巻 実験性&らしさで『【推しの子】』の物語を彩る新基軸

 そんなモンスター級のヒットを飛ばしている「アイドル」は、これまでのYOASOBIとは一線を画す、挑戦的な楽曲に仕上がっており、ギアがセカンドに入ったいわば「YOASOBIのネクストステージの幕開け」であるように感じる。規則的なコード進行や転調を用いた景色の展開などJ-POP的なアプローチを多用してきたYOASOBIだが、「アイドル」ではビートスイッチの手法を取り入れ、ヒップホップのビートメイクからの影響を感じさせる斬新なアプローチに挑戦している。節回しが特徴的なトラップビート風のラップパートや、アイドルソングオマージュの合いの手パート、歌メロが際立つピアノパート、エレクトロサウンドのサビパートなど複数のパートが目まぐるしく移り変わる同曲。複雑なパート構成にも関わらず約3分半の楽曲全編を通して求心力が失われることがないのは、YOASOBIのシグネチャーともいえる爽やかで疾走感のあるキラキラしたサウンドが通底しているためだろう。「アイドル」は、非常に実験的でありながら、同時にYOASOBIらしいサウンドであることを諦めることなく両立させた、絶妙なバランスの楽曲である。

YOASOBI「アイドル」 Official Music Video

 そして、「小説を音楽にするユニットをやりたい」というAyaseの想いから始まったYOASOBIだけあって、「アイドル」の歌詞においても『【推しの子】』および原作者・赤坂アカ書き下ろし小説 『45510』へリンクする内容となっている。〈無敵の笑顔で荒らすメディア/知りたいその秘密ミステリアス〉や〈弱いとこなんて見せちゃダメダメ/知りたくないとこは見せずに/唯一無二じゃなくちゃイヤイヤ/それこそ本物のアイ〉といった小泉今日子の「なんてったってアイドル」にも通じるアイドルをメタ的に捉えたラインは、『【推しの子】』の世界観を存分に生かした作詞だ。

 「アイドル」旋風は日本国内にとどまることなく、4月29日付のBillboard Global Excl.U.S.チャート(アメリカを除いたグローバルチャート)でもトップ10入りを果たすなど、海外へも派生し始めている。昨年末には、海外の音楽フェスへの出演も果たし、海外での活躍も視野に入ってきたYOASOBI。この「アイドル」旋風をさらなるグローバル進出の足がかりにできるだろうか。今後のYOASOBIの動きから目を離すことができない。

※1:https://www.billboard-japan.com/charts/detail?a=tiktok&year=2023&month=05&day=22

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