連載「lit!」第48回:ロラパルーザ、コーチェラ……活気づく世界の音楽フェス 開催地やラインナップで進む非英語圏へのアプローチ
『コーチェラ』では、ヘッドライナー3組のうち2組はプエルトリコのバッド・バニーと韓国のBLACKPINKで、ロザリアも準ヘッドライナーとして名を連ねており、非英語圏の躍進が表れたラインナップとなった。また、『ロラパルーザ』では、第42回の「lit!」でも紹介したカロル・Gが初の女性ラテンアーティストとしてヘッドライナーを務める。ストリーミングを席巻するスペイン語圏の音楽の躍進がフェスの現場でも決定的になったのが2023年であると言えるかもしれない。また、アジア圏へ進出する米国発フェスの動きにも注目したい。『ロラパルーザ』は1月にインドのムンバイで、『ローリング・ラウド』は4月にタイのパタヤで開催された。いずれもアジア圏での開催が実現したのは今年が初めてだ。米国のフェスのアジア進出と非欧米圏のアーティストの躍進は、北米のメインストリームのプレゼンスが相対化されていく2020年代の大きな流れと連動しているとみることもできそうだ。
そこでやはり、スペイン語圏のアーティスト初のヘッドライナーとして『コーチェラ』のステージに立ったバッド・バニーには触れなければならないだろう。ラテン音楽の歴史を一身に背負って伝えるような鬼気迫る圧巻のパフォーマンスは、間違いなく歴史的な達成だ。同じく『コーチェラ』に出演したプエルトリコにルーツを持つ米国のラッパー、エラディオ・カリオンの新作アルバム『3MEN2 KBRN』では、リル・ウェインやフューチャーといったUSラップ界の大物と並んでバッド・バニーが「Coco Chanel」という曲で参加しており、しかもその曲が他の収録曲と比べてもかなりの大差でヒットしていることがストリーミングの再生数から見て取れる。彼がMC中に「英語とスペイン語どっちで喋って欲しい?」と問い、オーディエンスが「エスパニョール!」と答えた場面は、確かにスペイン語圏の躍進を象徴するような瞬間だったのだろう。
コロンビア出身のカリ・ウチスは、新作アルバム『Red Moon In Venus』をリリースした。インディーロックやベッドルームポップの要素も取り入れてきたアーティストで、今作もその方向性は感じられるが、全体的により濃密で色気のある作品となっている。中でもスペイン語と英語を織り交ぜた「Moonlight」は一際ドリーミーでセクシーなR&Bだ。カリは年内にラテンポップ調のアルバムをリリースすることを以前から予告しており、『コーチェラ』のステージではレゲトンが取り入れられた収録予定曲を披露していた。2020年にもスペイン語がメインのアルバム『Sin Miedo』を発表しているが、今年は以前に増してシーンが追い風となってくれるだろう。
Spotifyのバイラルチャートを眺めていると、フェイドというアーティストが頻繁に目につく。彼はコロンビア出身のラッパーで、1992年生まれの現在30歳、近年急成長しているレゲトンスターである。YouTubeでの楽曲の再生回数は2億回を超えるものもあり、「Classy 101 (feat.Young Miko)」は5月7日現在で5000万回近い。客演のプエルトリコ出身のヤング・ミコは南米での『ロラパルーザ』に出演しており、現在ワールドツアー中の人気ラッパーだ。ビートのリズム自体は一定だが、上モノの展開が多く単調な印象は受けない。そこに2人のスペイン語による流れるようなフロウが重なり、むしろ中毒性の高い楽曲となっている。
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