いきものがかりが明かす、2人体制になっても変わらないもの 新曲「STAR」を生んだ『銀河鉄道の父』との運命的な出会い

いきものがかり、2人体制でも変わらないもの

 いきものがかりから新曲「STAR」が届けられた。

 水野良樹、吉岡聖恵の2人体制になって初の楽曲「STAR」は、映画『銀河鉄道の父』主題歌として制作。家族愛をテーマにした歌詞、温かさと力強さを併せ持ったメロディが心に残るミディアムバラードに仕上がっている。

 リリース日の5月3日には、地元の神奈川県・海老名でフリーライブイベント『2人体制で”STAR” トしまSHOW!!』を開催。新たなスタートを切った2人に、いきものがかりの“今”と“これから”について聞いた。(森朋之)

2人体制になっても、曲を作り始めたらこれまで通り

――2021年の夏に2人体制になり、9月に「THE FIRST TAKE」に出演。その後、いきものがかりとしてはどんな動きがあったんでしょうか?

いきものがかり - 気まぐれロマンティック / THE FIRST TAKE

水野良樹(以下、水野):制作は続いていたんですよね。「STAR」に限らず、まだ発表していない曲も含めていろいろとレコーディングもやっていて。

吉岡聖恵(以下、吉岡):うん。私のことで言えば、「THE FIRST TAKE」の後、12月にソロ作品を出させてもらって。リーダー(水野)もずっと何かやってたもんね。

水野:ずっと何かやってました(笑)。

――主宰プロジェクト「HIROBA」もそうだし、“清志まれ”名義の作家活動もあって。

吉岡:そのなかで「いきものがかり、どうする?」という話は常にしていたし、2022年にはデモ音源を作り始めて。私の出産時期も考慮してもらって、少しずつ作業していた感じです。

水野:もちろん吉岡の身体を最優先に考えて、それまでに録れるものは録っておこうと。

――水野さんのなかには、“2人体制のいきものがかり”の音楽的なビジョンはあったんですか?

水野良樹
水野良樹

水野:ステージ上の2人を想像して、「変わっていくのかな」と思っていたんだけど、案外そうでもなかったんですよね。いざ作り始めると、これまで通りというか。2人体制になったということよりも、自分が40代になって、吉岡も来年40歳になるという時間の感覚みたいなものが影響している気がしますね。アップテンポで明るいというより、今の等身大の自分たちというか、肩の力が抜けた雰囲気が反映された曲が多いのかなと。柔らかくて穏やかな感じのバラードだったり。特に何かを意識しているわけではなくて、自然なんですけどね。……(吉岡に向かって)頷いてるね(笑)。

吉岡:(笑)。リーダーが曲を作っている最中の姿は見たことがないんですけど、ガチガチに力を入れて「何かを変えてやろう」というより、自然な流れでできた曲が多いのかなって。ポジティブな曲であっても、「アゲていくぞ!」ではなく、肯定してくれる感じがあったり。「STAR」のデモが送られてきたときも、すぐに「いいな」と思いました。

映画『銀河鉄道の父』との運命的な出会い

――2人体制になって最初の楽曲「STAR」は、宮沢賢治の父・宮沢政次郎と賢治の生涯を軸にした映画『銀河鉄道の父』の主題歌。家族愛をテーマにしたミディアムバラードですが、制作はどのように行われたんでしょうか?

いきものがかり「STAR」Music Video

水野:以前から原型になるアイデアがあったんですよね。その後に映画の主題歌のお話をいただいて、原作を読んだり、ラッシュ状態の映画を観させてもらったんですけど、テーマがドンピシャだったんです。自分にも息子がいるし、吉岡も出産前で、これから親になるという時期で。そのタイミングで親子をテーマにした作品に出会えるって、運命的だなと。

吉岡:「そろそろ出産に向けて、ゆっくりしたほうがいいね」という時期だったんですよね、ちょうど。スタッフのみんなも「やりたいね」という感じだったし、それは私も同じで。すごく素敵な作品だと思ったし、子供を授かった時期にこのお話をいただけたのもすごいことだなって思いました。

水野:そこから歌詞を書いていったんですけど、できるべくしてできたというか、自然な流れでしたね。

吉岡:また“自然”だね。前は「“自然”なんて信じられない」って言ってたこともあったけど(笑)。

水野:そうだね(笑)。

吉岡:たぶんですけど、リーダー自身と近いテーマだからこそ、リンクしすぎないようにしてた気がして。そのバランスを取るのが大変だったんじゃないかなって。

水野:どうしても「わかる! 俺も俺も!」みたいな感じになる映画なんですよ。でも、この映画をご覧になる方はたくさんいて、作品を通して、ご自分の家庭のことや大切な人のことを思うわけじゃないですか。そのタイミングにしっかりつながっていくような歌にしたいなとは思ってましたね。

吉岡:うん。これも個人的な話になっちゃうんですけど、子供が生まれてから「STAR」を聴いたら、感じ方が変わっていたんです。いきものがかりの曲はいつもそうなんですけど、歌詞で描かれている物語を想像したり、自分と照らし合わせたりしながら、距離を測るように歌うんです。「STAR」もそうやってレコーディングしたんですけど、出産後に聴くと、さらにリアルに感じられて。〈誰かを愛せば 弱くなるけれど/それがきっと 幸せだと 僕は知ってしまった〉もそうだけど、染みるなあって。あとは冒頭の部分ですね。〈たとえ君が 悪者でも/抱きしめるのさ 笑われてもいい〉という歌詞なんですけど、チームのなかで「もうちょっとマイルドな表現があるんじゃないか」という意見もあって。でも、水野くんは変えなかったんですよね。

吉岡聖恵
吉岡聖恵

――“悪者”は確かにインパクトがあるし、強い言葉ですよね。

水野:あえて強い言葉を使ったわけではないんですけどね。何て言うか……自分の判断で誰かを好きだと言ったり、賛同することが、なかなかしづらい状況があるなと思うんですよ。どうしても周りの声に影響されるし、声の大きい人が「この人は悪者だ」と言えば、多くの人がそっちに流れてしまうこともあって。「じつは裏側にこんなことあるんですよ」みたいなことも多いし、「目の前にいるこの人、本当に信じられるのかな?」という状態が日常的にあるんじゃないかなと。家族でさえ、その人のすべてを100%見ることはできないですからね。でも「STAR」の歌詞に関しては、「今、目の前にいる人に対して、自分の判断でちゃんと好きだと思っている」というシンプルな気持ちを肯定したかったんです。

――周囲から押しつけられる“良い、悪い”ではなく、その人自身の感情を肯定する。

水野:そうですね。たとえばSNSにも、いろんな言葉があるじゃないですか。ネガティブな言葉が目に入るのはもちろん辛いし、ポジティブな言葉もそれはそれで辛いというか。“笑え”とか“上を向いていこう”とか、疲れちゃうときもあるので。「STAR」を作っていたときは“笑わなくていい”“ダメでいい”みたいなことをキレイに言えたらいいなというのも考えてましたね。いきものがかりは、素朴な倫理観みたいなものを求められるというか、そういうイメージもあると思うんですよ。

ーー“がんばろう”とか“ありがとう”とか。

水野:そこだけに準ずるんじゃなくて、何かを変えていくことも大事なのかなと。そのことによって、自分たちの倫理観が変化したり、今よりも少し優しくなっていけばいいなって。ちょっとおこがましいですけど、そんなことも思ってましたね。

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