「もうBiSHの衣装も作れる気がしない」 デザイナー 外林健太が振り返る、人生を削って縫い続けた彼女たちとの8年間
BiSH解散当日は「けっこうハッピーなのかな」
ーー渡辺さんから、気に入っている衣装だと言われたものはありますか?
外林:意外だなって思ったのは『KiLLER BiSH』。もしかしたら「オーケストラ」があの人の中でも最高で、そのときに着てた衣装が良かったから「いい」って言ってる可能性もあるんです。服だけがいいとか、ちっちゃいところで褒めないんで。
ーーでも、普通は褒められたいですよね。
外林:僕は調子に乗ったり余裕を持ったりするとダメになるので、「そのぐらいで大丈夫です」と思ってます。それで次に仕事が来れば「この間ミスってなかったな」と思えるんで。仕事がなくならない限り、褒められてるとは思ってます。
ーーその結果として、これだけ衣装を作ると、経済的には余裕ができたんじゃないですか?
外林:今、社員をふたり雇っていて、アトリエも借りているんですけど、生地も含めてケチな作り方はしてないんで、衣装の儲けだけじゃ回らないんです。僕はデザインやグラフィック、写真の仕事もしてるけど、それがないと余裕はないですね。衣装を作りたい人に対して、「儲からない仕事だよ」と伝えたいなと思ってるんです(笑)。僕も子供が生まれたりして、2018年ぐらいまで、酒屋でバイトをしてましたから。朝4時から朝8時ぐらいまで、樽をトラックに積むだけなんですけど。
ーーそれでも、衣装を作っていて良かったと思いますか?
外林:全然思ってます。後悔はまったくないし。衣装だけは一生やりたかったんで、いまだに赤字でもいいからやりたいとしか思ってない。
ーーそうやって作ってきた衣装が『BiSH COSTUME BOOK 2015-2023』にまとまったわけですね。
外林:「集大成」と思っちゃいましたね。僕が人生を賭けてやってきたことをまとめてくれたと思って。BiSHだけではあるんですけど、仕事がこんな形でまとまることってないので、「お墓に入れたいな」って感じですよね(笑)。もう40歳なんですけど、ここまで人生を削ったものを作るのは、この先は無理なので、ここで一回節目なのかなって。
ーーそうなると、BiSHの解散当日、どんな気持ちになると思いますか?
外林:けっこうハッピーなのかなと思っています。僕も渡辺さんも現場も、「ズルズルやっていいことではないな」ともう切り替えられているので。寂しいとは思いますけど、別にみんな離れ離れになるわけでもないので、嫌な思いは一切ないです。もっと言うと、もうBiSHの衣装も作れる気がしないので、終わって「ありがとうございます」って感じはあります。作り尽くしたんで(笑)。作りきったなと思ってるんです。終わるのを聞いてからのダッシュもあったので、出しきったのかもしれないです。
ーー解散を聞いてから変わった部分はありますか?
外林:今、自分のデザイナーとしての衣装で見られる可能性が一番高いグループはやっぱりBiSHなので、「自分ができる限りの衣装を作っとかないとな、やりきらないとな」と思ってやってましたね。
ーー逆に今は晴れ晴れした感じなんですか?
外林:晴れ晴れしてますね。でも、『BiSH COSTUME BOOK 2015-2023』ができてなかったら、晴れ晴れしてないと思います。衣装を倉庫を埋め尽くすほど置いていてもしょうがないので、こうやって本で見られるだけで僕は嬉しいんです。BiSHの仕事がなくなる不安はめちゃくちゃありますけど、その分、新しいことをやる時間もできるので。
ーーそれは何か見えてきましたか?
外林:見えてないですね。この8年ぐらい衣装を作ってきて、外部から衣装のオファーが来たことがないんですよ。知り合いの繋がりで「BiSHみたいな衣装を作ってくれ」とオファーが来ることはあって、それは断ってるんです。「外林の衣装」というより「WACKの衣装」になってるのが、ちょっと苦労してるところなんで。どうにかしないとなっていう感じはあります。
ーーそうなると、新しい仕事についての問い合わせは外林さんまで連絡を、ということですね。
外林 そうですね(笑)。
■書籍情報
『BiSH COSTUME BOOK 2015-2023』
発売日:4月15日(土)
価格:¥4,400(税込)
仕様:ソフトカバー
サイズ:A4判(ヨコ) 210㎜×297㎜
ページ数:オールカラー 276ページ