斉藤和義、アコースティックで目指したロックなグルーヴ 30周年を迎えてさらに高まる“もの作りへの意欲”も語る

斉藤和義が語る“アコギで奏でるロック”

 今年デビュー30周年を迎える斉藤和義から、4月12日にニューアルバム『PINEAPPLE』が届けられた。

 前作『55 STONES』以来、約2年ぶりのオリジナルアルバムとなる本作には、「朝焼け」(映画『リクはよわくない』主題歌)、「寝ぼけた街に」(UTグループの企業理念ムービーテーマ曲)、「俺たちのサーカス」(ENEOS春のEneKeyキャンペーンテーマ曲)といった配信シングルのほか、「THE FIRST TAKE」で公開した「明日大好きなロックンロールバンドがこの街にやってくるんだ」にホーンアレンジを施した新バージョン、弾き語りツアー『十二月〜2022』で披露された「泣いてたまるか」、藤原さくらが参加した「Pineapple (I’m always on your side) feat. 藤原さくら」、俳優の大森南朋がコーラスで参加した「BUN BUN DAN DAN」などを収録。ルーツミュージックと斬新なサウンドアプローチが混ざり合った音楽性、そして、人生の機微や喜怒哀楽が反映された歌をたっぷり堪能できる作品に仕上がっている。(森朋之)

新しい機材の導入が新曲へのアイデアに

――ニューアルバム『PINEAPPLE』がリリースされました。前作『55 STONES』以降、斉藤さん自身のツアーのほか、カーリングシトーンズ、MANNISH BOYSのツアーもあり、配信シングルも続々とリリースされるなど、まったく止まらずに活動を続けていて。

斉藤和義(以下、斉藤):確かにそうですね。あんまり覚えてないけど(笑)、なんだかんだ色々やってました。

――曲作りも日常的にやっていたんでしょうか?

斉藤:そうですね。曲としてまとめるのはレコーディングのちょっと前から始めるんですけど、普段は作業場みたいなところにちょこちょこと行っては、「何かできないかな」みたいな感じでやってます。その作業場ができてからは、マイクを買ってみたり、プリアンプを試してみたり、「どんな音がするのかな?」みたいなことも増えて。楽器もセッティングしっぱなしで、それなりの音で録れるような状況にしたので。なんとなく「ドラムを録ってみようかな」「ピアノを弾いてみようかな」って一応録音しておいて、「そのうち曲になるかもな」みたいな感じです。

――新しい機材を取り入れること自体も曲作りのきっかけになると。

斉藤:うん、そういうこともありますね。たとえばリボンマイクっていうのがあって。「マイク1本でもすごくいい音で録れるらしい」って聞いて、なんとなく歌ってるうちに「これ、曲になりそうだな」とか。機材もそう。ドラムマシンとかは、使いこなす前が面白いんですよ。適当にいじってるうちに変なリズムパターンができて、そこから曲になることも結構あるので。

――マニュアルを見ないで触ってみる、と。それも新鮮さをキープするための工夫なのかもしれないですね。

斉藤:そうやって機材が増えていっちゃうんですけどね。なかなかこう処分もできないし、「何かで使うかも」って増えていく一方です。

――前作はプライベートスタジオですべて録音したそうですが、今回はどうだったんですか?

斉藤:えーっと、プライベートスタジオで録ってる曲もあるし、バンドで録ってる曲も数曲ありますね。配信してる曲はバンドが多いのかな。「この曲は特別に難しいテクニックも要らないし、アレンジも大体できてるから、一人でやっちゃおう」とか「これはバンドでやらないと勢いが出ないだろうな」とか。それぞれの曲に呼ばれる感覚でやってますね。

――では、アルバムの収録曲について聞かせてください。1曲目の「BUN BUN DAN DAN」は、ビートの効いたアッパーチューン。ドラムの音が素晴らしいですが、ドラム自体も上手くなってるのでは?

斉藤:ちょっとは上達したかもしれないですね。この曲もそうなんですけど、自分でドラムを叩いてる曲は「これくらいなら叩けるだろう」ということもあるし、何より歌いやすいんですよ。リズムがヨレたり走ったりするのも含めて全部が自分のタイム感だし、不思議とギターやベースも同じところでヨレたり走ったりするので。あと、ドラムに関してはあまり上手くなりたいとは思ってなくて。

――え、そうなんですか?

斉藤:はい。たとえば「こういうフィルが叩きたいけど、できない」ってときは、プロの人に任せたほうがいいと思うので。複雑なフィルとか必要のない曲も多々あるし、「これは自分で叩いたほうがいいな」と思えば叩いてるだけなんですよ。まあ、基本的なことはやれるようになりたいですけど、それ以上のテクニックを身につけたいとは思ってないです。

――なるほど。ギターはどうですか?

斉藤:ギターはもうちょっと本業に近いし、ドラムよりは上手くなりたいという感じもありますけどね。アドリブができるくらいはコードのこともわかっておきたいし。と言いつつ理屈とかさっぱりわからないし、楽譜も読めないんですけどね。いつか勉強しようと思いつつ、やってない感じです(笑)。

30年前のメロディが今、曲になった理由

――「BUN BUN DAN DAN」は大森南朋さんがコーラスで参加しています。もともと交流があったんでしょうか?

斉藤:そうですね、友達なので。以前もこういう“雄叫び系”のコーラスをしてもらったことがあるんですけど、こういう曲で一人でコーラスを重ねても上手く広がらなくて、「南朋くんにやってほしいな」と。スタジオに来てもらって、その場で曲を聴かせて歌ってもらいました。「マーシーさん(真島昌利/ザ・クロマニヨンズ)みたいな感じで」って言ったんだけど(笑)、役者だからか、ミュージシャンもやってるからか、呑み込みが早いんですよね。

――2曲目「問わず語りの子守唄」のドラムは打ち込みですね。

斉藤:ドラムマシンで手打ちしました。全曲ドラムマシンで作った『Toys Blood Music』(2018年)と同じ時期にこの曲もあったんですけど、ずっと歌詞がつかなくて。今回のレコーディングの後半になって急に歌詞がドバッと出てきて完成したという感じですね。

――今の社会に対する思いを率直に書いています。

斉藤:そうなんだけど、別に政治的に物申すつもりはなくて、暮らしてるなかで引っかかっちゃうことが出てきた感じだったんですかね。文句ばっかり言ってるのもイヤだけど、黙ってばかりもいられないというか。かといって解決策なんて知らないし、それはやるべき人がやってよって話じゃないですか。ただ、自分が感じていることやモヤモヤしたことは歌にしなきゃなとは思ってますね。

――歌にするときはハッキリと言葉にする、と。

斉藤:うん。もちろんそれぞれのやり方があっていいとは思うんだけど、遠回しに言って「なんのこっちゃ」ってなってもしょうがないので。以前、スティングがハッとするようなことを言ってて。「シンガーソングライターと言われる人、自作自演でやっている人は、心にあることは歌にしなきゃいけない」と言い切ってて。まあ、そうだよねって思ったんですよね、そのとき。

――そして全編英語詞の「Pineapple (I’m always on your side) feat. 藤原さくら」には藤原さくらさんが参加していますね。

斉藤:この曲の出だしのメロディは30年近く前、それこそデビューした頃からあって。その時からなんとなく「英語がいいな」という気持ちもあったんですけど、ここまで“ド”フォークというか、カントリーっぽい曲をやる気にはならなかったんですよ。で、コロナ禍になってライブができない時期に、ギターを自分で作ったりし始めたんですけど、その最中に昔のカセットテープを引っ張り出して聴いたりしてたら、Crosby, Stills, Nash & Young(以下、CSN&Y)のライブ盤のテープが出てきて、それをずっとループしてたんです。4人だけでアコギでやってるライブで、それがすごくよかったんですよ。「こういうのもやってみたいな」と思ったときに、「あ、そういえば、あの曲があったな」と思い出して、完成させようと。

――30年前のメロディとつながったんですね。

斉藤:そうそう。特に録音してるわけじゃないけれど、「いつか曲にしたいな」というメロディがいくつかあって。曲を作ってるときに、「あれをサビにすればいいか」って急にくっつくことがあるんですよ。『PINEAPPLE』みたいに何十年越しに形になることもあって、そういうときは「この曲のためのメロディだったんだな」と思ったりしますね。

――なるほど。英語詞もそのまま活かして。

斉藤:英語はほとんどできないんですけど、自分で書いてみて、英語ができる友達に文法的に合ってるかチェックしてもらって。コーラスを録ってるときに自分の声だけじゃ広がらないなと思って、女性の声が入るといいなと。さくらちゃんは以前にも参加してもらったことがあって(アルバム『Toys Blood Music』収録曲「Good Luck Baby」「問題ない」)、英語を話せる人ってことでお願いしました。

――藤原さんのスモーキーな声、この曲にピッタリですよね。ちなみに先ほどおっしゃってたCSN&Yのカセットテープって、ライブアルバムをダビングしたものなんですか?

斉藤:いや、それがよくわかんなくて。カセットのインデックスは当時のバイト先の先輩の字なんだけど(笑)、それが何のアルバムなのか、調べても出てこないんですよ。もしかしたらわりとレアなやつかもしれないです。

――斉藤さんの作業部屋にはほかにもレアなカセットがあるのかも(笑)。

斉藤:3つか4つくらい、カセットテープを入れた段ボールがあるんですよ。1990年代のレコーディングでチェック用に録ったものから中学の頃のものまで、なんでも放り込んであって。自分でもまったく把握してないんですけどね(笑)。

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