millennium parade×椎名林檎『地獄楽』、YOASOBI・女王蜂『【推しの子】』……4月期アニメで期待できる作品と楽曲の共鳴

フィクションを元に曲を書き上げる力と、アーティストと作品の共鳴

TVアニメ『【推しの子】』本予告【2023年4月より放送開始】

 YOASOBIと女王蜂がテーマソングを書き下ろす『【推しの子】』は、主人公が生前に推していたアイドルの子供に生まれ変わるという作品。一見特殊な設定ではあるが、主題歌を担当する両者にとってはうってつけの題材とも言えそうだ。

YOASOBI「怪物」Official Music Video (YOASOBI - Monster)
YOASOBI「優しい彗星」Official Music Video (YOASOBI - Comet)

 例えば、YOASOBIは以前にも肉食獣と草食獣が共存する世界を舞台としたテレビアニメ『BEASTARS ビースターズ』第2期に「怪物」と「優しい彗星」の2曲を書き下ろしている。同作は非現実的な設定ながらも、現代社会を投影したようなストーリー展開が魅力で、それを今を生きるリスナーでも投影できるような楽曲へと見事に昇華していた。そもそもYOASOBIは基本的に小説を音楽にするユニットである。フィクションを元に楽曲を書き上げる力には長けているため、今作でもその作曲力が存分に発揮されるに違いない。

女王蜂 『HALF』Official MV
女王蜂『バイオレンス(VIOLENCE)』Official MV

 対して、女王蜂はバンド自体が唯一無二の世界観を持っており、このバンドと作品とがひとたび通じ合えばそのコラボレーションは強力なパワーを発揮する。女王蜂がこれまでに実現してきた化学反応は見事なものだった。『東京喰種:re』のエンディングテーマ「HALF」、映画『東京喰種 トーキョーグール【S】』の主題歌「Introduction」、『どろろ』のオープニングテーマ「火炎」、『チェンソーマン』第11話エンディングテーマ「バイオレンス」などが例に挙がる。どれも不気味だがどこか神々しく、女王蜂の持つ独特の魅力が遺憾なく発揮されていた。

 『【推しの子】』は、アイドルという存在の美しさの裏にある嘘や、煌びやかに見える芸能界のシビアさ、人間の本性などが描かれる。それはまさに女王蜂の楽曲のスタイルとも通じる点だ。世の中に存在する光と影、そのどちらにもスポットを当てる本作と、女王蜂の作品は確実に化学反応を生むだろう。

TVアニメ『【推しの子】』本予告2【2023年4月12日より放送開始】

重要なのは作品への愛の深さ

 近年のアニメ主題歌は、その形もその聴かれ方も、大きな変化が訪れているように思う。というのも、すでに確固たるアーティスト性を築き上げたミュージシャンが、タイアップするにあたって原作の世界観や要素を楽曲の中に取り入れつつ、それでも自身の作家性を崩さないという絶妙なバランスを保ったアニメ主題歌が存在感を増している印象があるのだ。

星野源 – ドラえもん (Official Video)
米津玄師 Kenshi Yonezu - KICKBACK

 星野源「ドラえもん」(映画『ドラえもん のび太の宝島』主題歌およびTVシリーズ『ドラえもん』オープニングテーマ)、米津玄師「KICK BACK」(『チェンソーマン』オープニングテーマ)、Official髭男dism「ミックスナッツ」(テレビアニメ『SPY×FAMILY』オープニング主題歌)などがそのいい例だ。これらの楽曲は、原作の要素をどのように盛り込んだのかという点で、リスナーや原作ファン以外にも大きな広がりを見せた。

Official髭男dism - ミックスナッツ [Official Video]

 タイアップはアーティストと作品とが共鳴しなければいけない。アーティストが曲を書き下ろしたいと思える作品であること、そして原作側が曲を書いてもらいたいと思えるアーティストであること、その双方のリスペクトがあってこそ成立する。

 どれだけ作品への愛が深いかが問われる時代。その傾向は以前より強まっているように感じる。もちろん作品に寄り掛かり過ぎればそのアーティストが歌う必要がなくなる。逆に作品から遠ざかればタイアップの意味がない。その繊細なポジショニングがいまのアーティストには求められているのではないだろうか。今期のアニメタイアップ曲からはどんな名曲が生まれるのか、アニメ作品そのものへの期待とともに注目しておきたい。

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