Lucky Kilimanjaro 熊木幸丸、自問自答の末に辿り着いた“踊ること”の本質 ダンスミュージックを通して表現する心の流動性
今の日本の音楽に足りないのはダンスミュージック
ーー11曲目の「闇明かし」は、アルバムの中でも特に、熊木さんのパーソナルな部分が明け透けに描かれている曲という印象を受けました。歌詞の〈僕の中にあなた/あなたの中に僕が〉というラインや、〈お互いの闇 置いておける/違う場所を見つけた〉というラインからは、人と人との「間」にあるものに、何かを見出している姿が浮かびます。
熊木:この曲は、実体験がもとになっているんです。自分のパーソナリティや心の状態がすごく出た曲で、その分、思い入れがある曲なんですよね。僕は、制作の時はいつも孤独な世界で踊っている感じになるんですけど、時に、踊り方が全然わからない状態になることがあって。それは制作だけではなく、人生全体でも起こることなんですけど。部屋が換気されないみたいに、心が換気されなくなる状態というか。それが去年、アルバム制作中に起こってしまって。アレンジも見つからないし、言葉も見つからないし、「もう限界」という感じになっちゃって、何もできなくなってしまったことがあったんです。
そのことを妻に相談したタイミングがあったんですけど、その時、自分の心を別の人に置くことができたからこそ、新しく見えたものがあったような気がしたんです。自分の不完全さを人に話したり、自分の弱いところを置いておける場所を作ることで、見つかる未来があるんだということを感じて。その経験は、自分の中で衝撃だったんです。今って、コロナ禍ということもあって、周りとのコミュニケーション量が減って、僕のように自分の弱さや自分のネガティブな側面を外に出す機会が少なくなってしまった人って、たくさんいると思うんですよ。
ーーそうですよね。僕自身も感じますけど、社会全体が変化していく中で、いつの間にか追い詰められてしまっているというか。言葉や態度には出していないけど、「実はものすごく不安だし、しんどい」という状態になっている部分はあるように感じます。それは、自分自身にも、出会う人にも感じますね。
熊木:それまでは大丈夫だったしきい値を超えちゃうというか、「ちょっと、マジでキツい」みたいな状態になっちゃうというか。でも、周りを見るとみんなキツそうで、相談もできない。そもそも人に会えないし。そういうことがあって、物理的にも精神的にも、気軽に自分の弱い部分を置いておける場所がなかったりして。僕自身がそういう経験をしたからこそ、こうやって歌詞にすることで、この曲が刺さる人、この曲で踊れる人がきっといるんじゃないかと思うんですよね。自分としては辛い経験でもありましたけど、書けてよかった曲だなと思います。この曲は、歌詞もあまり難しい言葉やわかりにくい比喩は使っていないんですよね。なので、直接心に伝わるようなものを書けたんじゃないかと思います。
ーーこの「闇明かし」に象徴されるような、「自分と同じような感覚の人がいるんじゃないか」という視点を持ったうえで曲を作ることって、熊木さんとしては自然なことなのか、それともチャレンジングなことなのか、どうですかね?
熊木:そうですね……今回の作品は、今までよりも、より曖昧な部分に踏み込もうとした感じだと思います。今までは、人の弱い部分に踏み込む時、自分の中で答えを持ったうえで踏み込んでいたと思うんです。でも、このアルバムは、「流動性」のある状態……答えを見つけてはなくなり、見つけてはなくなりを繰り返しながら動き続けることを提案しているアルバムだと思うんです。これって、日本の文化とは反対を行くようなことだと思うんですよね。アイデンティティを固定するのではなく、むしろ、固定されたアイデンティティから外れることを提案しようとしているので。そういう部分では「より難しいアプローチを選んだな」と思いましたし、昔よりも「わかってくれるかな?」という思いもあります。
ーー本作の最後は「Kimochy (outro)」という1分に満たないトラックで締めくくられますが、アルバムの終わらせ方に関してはどのように決めたんですか?
熊木:最初は、その前の13曲目「山粧う」で終わらせる予定だったんですけど、ジャストアイデアレベルでこのアウトロを録ってみたら、「こっちを最後に入れた方が、『Kimochy Season』っぽいな」と思ったんですよね。理由はよくわからないんですけど、アルバムが雑に終わる感じがいいなと思って(笑)。「山粧う」で終わると、終わり方がきっちりしすぎていると思うんですよね。もっと雑味が欲しいと思ったのかもしれないです。自分でもよく理解できない感覚を表現することが、「ファジーサマー」以降続けてきた自分のテーマでもあるので。
ーーこの「Kimochy (outro)」の音源って、どのように録られたものなんですか?
熊木:確か、今年の1月くらいにライブ前にiPhoneのボイスメモで録ったんです。メンバーを集めて円陣になって、「これを歌ってほしい」と言って。アルバムの最後のミックスが迫っていて、1週間後にはマスタリングもあるという状態で、「あと1ピース、必要なものがあるような気がする」と思って録ったんですよね。今でも、この曲の存在意義はよくわからないです(笑)。「入れてよかったな」と思っていますし、「別にいらなかったかも」とも思っています(笑)。
ーー(笑)。……でも改めて伺うと、先ほどの「闇明かし」の話にあったような、制作中に行き詰って限界を感じてしまった時に、「ダンスミュージックというアプローチ以外で音楽を作ってみよう」ということには、熊木さんはならないんですね。
熊木:……ねぇ?(笑)。
ーー(笑)。
熊木:僕が一番面白いと思っているのはずっとダンスミュージックですし、今の日本の音楽に足りないのもダンスミュージックだと思っています。とてもそこから離れる気にはならなかったですね。別の方向に行こうという意識すらなかったです。「どうやってダンスミュージックとして表現するか?」ということばかり考えていました。(ダンスミュージックが)好きなんでしょうね。「好きなことはやめないっしょ!」っていう感じです(笑)。
ーー(笑)。
熊木:僕は、音楽に関しては好きなことしかやりたくないんで(笑)。自分がワクワクするようなことしかやりたくない。『TOUGH PLAY』もそういうアルバムでしたけど、また違ったモードで、『Kimochy Season』ではそれができたなと思います。
ーー本作は、ジャケットの写真も素晴らしいですね。
熊木:いいですよね。心が動いている瞬間の写真だと思っていて。この瞬間って、ものすごくいろいろなものが流動している瞬間だと思うんです。気持ちよさも感じるし、同時に、めっちゃ血も流れているでしょうし。止まっているように見える画ですけど、心の流動性をすごく感じる写真だなと思います。
ーー5月からはツアー『Lucky Kilimanjaro presents. TOUR “Kimochy Season”』も始まります。どのようなツアーにしたいですか?
熊木:去年のツアーは、結果的に「まだ自分はダンスミュージックの楽しさを伝えきれていないな」という実感があって、楽しい部分も悔しい部分もあったツアーでした。それ以降のアルバムでありツアーなので、「いかに踊らせるか?」しか考えていないと言えば、考えていないですけど(笑)。
ーー(笑)。
熊木:ダンスの一番いいところは、心をそのまま取り出せることだと思うんですよね。心をさばくのではなくて、心をぴちぴちの魚みたいな状態で持ちながら踊れることだと思います。理由で踊らなくてもいいというか。ダンスのそういう側面をしっかりと引き出せるツアーをしたいです。それに、今回のアルバムは過去の曲との接続もできる作りになっているんです。例えば、「千鳥足で行け」は「エモめの夏」の歌詞の一説を使っていて、BPMも同じ113だったりします。そういうところで、今回のアルバムは1枚のアルバム単体で楽しめるのと同時に、Lucky Kilimanjaroという大きな概念の新しいパーツとして入れ込むことができるようにデザインしていて。なので、僕の中でこのアルバムはまだ「作り終えていない」とも言えるんです。ライブでやって、ようやく腑に落ちるんじゃないかと思います。そういうところも含めて、Lucky Kilimanjaroのライブを、より開放できる場所、よりカタルシスを得ることができる場所にできるよう、楽しんでいきたいです。
ーー今の「千鳥足でゆけ」と「エモめの夏」の話もそうですし、神保町の話もそうですけど、Lucky Kilimanjaroというバンドの歴史や、その中で続いてきたこと……そういうものも深く刻まれているになっているアルバムなのかなと思いました、この『Kimochy Season』は。
熊木:「踊り続ける」という意味でもそうですし、歴史という意味でも、持続性って、やっぱり僕にとってはすごく大事なことで。そもそも、人生ってそういうものだと思うんです。みんな、ある刹那的な瞬間に生きているわけではなくて、持続しているものの中で生きていますし、それはつまり、まだ持続する先があるということなんですよね。まだ踊り続ける余白があるぞ、ということ。そういうふうに未来を感じていたいですよね。
■ライブ情報
『Lucky Kilimanjaro presents. TOUR “Kimochy Season”』
5月28日(日)金沢:EIGHT HALL
6月3日(土)札幌:SAPPORO FACTORY HALL
6月19日(土)大阪:Zepp Namba
6月11日(日)名古屋:Zepp Nagoya
6月17日(土)仙台:仙台PIT
6月24日(土)広島:CLUB QUATTRO
6月25日(日)福岡:Zepp Fukuoka
7月1日(土)東京:豊洲PIT
7月2日(日)東京:豊洲PIT
企画制作:dreamusic Artist Management,Inc./VINTAGE ROCK std.
TOTAL INFORMATION:VINTAGE ROCK std.
TEL.03-3770-6900(平日12:00-17:00)/WEB https://vintage-rock.com
■チケット情報
https://luckykilimanjaro.net/
Official HP最終先行
受付期間:4月4日(火)18:00~4月9日(日)23:59
■リリース情報
4月5日(水)
4thフルアルバム
『Kimochy Season』(キモチイシーズン)
MUCD-1513/¥2,970(税込)
<収録曲>
01.一筋差す
02.Kimochy
03.Heat
04.越冬
05.掃除の機運
06.またね
07.咲まう
08.千鳥足でゆけ
09.ファジーサマー
10.地獄の踊り場
11.闇明かし
12.辻
13.山粧う
14.Kimochy(outro)
https://lnk.to/LK_kimochyseason
■イベント出演情報
『GO OUT JAMBOREE 2023』
4月22日(土)
会場:静岡・ふもとっぱらキャンプ場
『JAPAN JAM 2023』
4月30日(日)
会場:千葉市蘇我スポーツ公園
『VIVA LA ROCK 2023』
5月5日(金)
会場:さいたまスーパーアリーナ
『FM802 Rockin’Radio! -OSAKA JO YAON-』
5月7日(日)11:30 開場/12:30 開演
会場:大阪城音楽堂(雨天決行&荒天中止)
『OSAKA METROPOLITAN ROCK FESTIVAL 2023』
5月13日(土)
会場:METROCK 大阪特設会場(大阪府堺市・海とのふれあい広場)
『森、道、市場2023』
5月26日(金)11:00~、27日(土)10:00~、28日(日)10:00~
会場:愛知県蒲郡市ラグーナビーチ(大塚海浜緑地)&遊園地ラグナシア
※出演日は後日発表
『LuckyFes ’23』
7月15日(土)、16日(日)、17日(月)
会場:国営ひたち海浜公園
※出演日は後日発表
■Lucky Kilimanjaro Official Fanclub「LKDC」
https://fc.luckykilimanjaro.net/
オフィシャルサイト:https://luckykilimanjaro.net/