叶、デビューから5年の物語を凝縮したステージ 複数の世界線を横断した1st Concert『午前0時の向こう側』レポート
4人目の叶は、部屋着を着たメガネ姿。ここでは様々な楽曲のカバーが披露された。まずはΔの「青色が怖くなったんだ」。ギターのカッティングで始まる楽曲で、美しく繊細なサウンドが叶の歌声ともマッチ。曲中でエモーショナルなラップも聴かせた。他にも美しい空の映像をバックに歌った「晴天を穿つ」(傘村トータ)、RADWIMPSのカバー「大丈夫」は美しいファルセットを響かせ会場には大きな拍手が送られた。もともとRADWIMPSやBUMP OF CHICKENを好んで聴き、自分が歌うようになったきっかけもRADWIMPSだったという。叶のルーツとメッセージ性を感じさせる選曲の妙によって、配信のコメント欄には「泣いた」「ありがとう」のコメントがずらりと並んだ。
再び2人目の叶が登場すると、ここからは終盤に向けて、ノンストップでダンスチューンを次々と繰り出した。「K/D Dance Hall」では、叶の呼びかけで会場にはクラップが響き、〈Naー NaNaNaー〉というコーラスと共に会場が一体に。思わず真似したくなるようなダンスも披露し、観客はそれを真似して一緒に踊って楽しんだ。昨年の『にじさんじフェス2022 ナイトステージ にじさんじ4th Anniversary LIVE 「FANTASIA」Day2』で初披露された「Jam Jam」も披露した他、和ぬかの「絶頂賛歌」ではお祭りのようなにぎやかなサウンドと共に、ステージには火花が噴き上がる演出。レア曲の連続に興奮が収まらない観客。
自身が作詞を手がけた「惜別」では、スタンドマイクを引き寄せるようにして歌った。時が経てば人は変わるもの。しかしどう変わるかは自分次第であり、変わることに寂しさを感じるのも成長の証である。この「惜別」という曲は、自分自身の可能性をテーマにしたこのライブにおいて、自分自身との対話のきっかけになった曲なのかもしれない。
ライブ本編もそろそろ終わりに近づくと、シーンは冒頭の2人の叶の会話に。「君と僕が出会えたように、些細な運命が歯車を動かすかもしれない」。そんな言葉に続いて歌ったのは、このライブのテーマソングである「針音」。鐘の音が鳴り、再び時計の針が動き始め、可能性の世界から現実に戻ってきたことを観客に気づかせた。そして本編ラストに歌ったのは「声を聴かせて」。ネットの出会いのポジティブな側面を歌った楽曲。CDのレコーディングでは、大丈夫だよとみんなに語りかけるような気持ちで歌ったそう。胸を熱くするメロディとサウンドに、聴く人の背中を押す力強い歌声が会場に響いた。
アンコールを求める手拍子に「ありがとね!」と言ってステージに戻った叶。アンコールでは、テーマを提案して作ってもらったと言う、自主制作オリジナル曲「No.9」と「優しい人にならなければ」。さらに8月30日にリリースする1stシングル『How Much I Love You』に収録曲の「わたしのリンゴ」をいち早く披露。叶のファルセットが心地良い同曲。配信のコメント欄は、りんごの絵文字で埋め尽くされて真っ赤になった。
MCでは、このライブの演出について話した。「自分自身との問いかけ。5年活動してきて、自分の中で、変化や前まではこう思っていたのになということを、物語として表現しました。僕の中にあるいろんな僕、僕を俯瞰して観察している僕、それぞれと対話をしていく形式で物語を展開しました」と説明した叶。「どうでしたか?」と問いかけると、観客は大きな拍手でそれに応えた。
叶は「活動を始めてからの5年間はいろいろあって、間違ったかもと思うこともあったけど、僕のことを好きな人がこんなに集まってくれたのだから、総合的には間違ってなかった、正しく生きられていたんだなと思いました。不安で仕方なくて個人的に通しリハをやったのもあって、自分の中ではよくできたんじゃないかと思います。みんなも同じ気持ちでいてくれたらうれしいです」とコメントした。アンコールのラストにはデビュー曲「ブロードキャストパレード」を、今度は最後まで歌いきった。アーティストデビューに際し、新しいことを始める時のワクワクが詰め込まれた同曲。タイトルの「ブロードキャスト」はYouTubeの配信を意味すると同時に、「種をまく」や「幸せを届ける」という意味もある。〈僕らしく生きるのが 幸せの届け方〉という歌詞の通り、叶らしい演出とメッセージでファンに幸せを届けるライブになった。
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