DUSTCELL、過去と向き合うことで芽生えた心境の変化 バンドサウンドへの接近で拡張した音楽表現

DUSTCELL『ROUND TRIP』インタビュー

「今が楽しくなかったら意味がない」(EMA)

ーーでは3曲目の「透明度」はどんな曲ですか?

Misumi:透明度という言葉はiPhoneの画像加工の項目にある透明度のことで、歌詞は、傷つくことを避けてきた結果、ある種存在感のない透明な人間になりかけてしまった主人公が、傷つくことを恐れず、前を向いてまた色濃く生きていけるように歩き出す、ということを書きました。海沿いに住んでいたことが以前あって、その時に散歩した経験も反映されてます。

ーーこの曲はEMAさんのボーカルがとても美しく響いてると思いました。

EMA:ありがとうございます。海を彷彿とさせる曲だったり、透明感のある曲が大好きなので、デモをもらった段階でマネージャーと2人で大絶賛してたんです。「すごい良い曲だよね」って。それと私はこの曲に、透明色が強かったり、綺麗だったりしたMisumiさんの初期のボカロ曲の雰囲気を感じました。

ーーそれは過去を振り返る今回の『ROUND TRIP』のコンセプトならではのポイントですね。続く「Kick It Down」も過去作と地続きにあるんですよね?

Misumi:これはEMAが作詞した「DERO」の続編を作ろうと最初から決めて作った曲ですね。なので「DERO」に出てきた彫刻刀が歌詞に登場したり、ビルドアップのコード進行も踏襲してます。歌詞は元々、EMAが作詞する予定だったんですけど、この時期にEMAが作れなくなっちゃって。なので大まかなストーリーラインをメモしたものを受け取って、それをもとに僕が書きました。

ーー作れなくなったというのは?

EMA:この「Kick It Down」の作詞を任された時に、どうしても自分のスキルが足りてなかったり、知識が浅かったり、そういう諸々の理由で書けない自分がいて。何を書いても「ああダメだ」みたいなスランプっぽい部分がありました。なんというか完璧主義が治ってなくて、もっと勉強してからじゃなきゃとか、もっとカッコいい歌詞を思いつかなきゃみたいな、そういう自分への縛りが強い時期で。なので、どうしても作詞と向き合える自信がなかったんです。

ーーそのスランプからはもう抜け出せましたか?

EMA:半分半分ですね。なんとなく「SAVEPOINT」を書けたことで、作詞に対してちょっと前向きになれたところはあります。

ーーではその「SAVEPOINT」はどんなことを表現したのでしょうか?

EMA:「TULPA」だったら「CULT」があるように、この曲にも対になってる曲があって、それが初期の「LAZY」という楽曲です。歌詞を書いている途中に何回も「LAZY」を聴き返しながら、セルフオマージュするようにして作りました。私、あんまり自分の歌詞に自信を持って好きと言えるところまでいってなくて。当時も「LAZY」は胸を張って良い歌詞だと言えなくて、リリース直後はあまり聴けなかったんですけど、久しぶりに聴いてみたら「意外と良いこと言ってるじゃん」と思って。過去を美化するのは好きじゃないですけど、誰にでも過去はあるわけですし。当時の自分を思い出すと哀愁に浸ってしまったり、その時にしかなかった魅力みたいなものが懐かしくて切なくもなりつつ、当時の「LAZY」の歌詞の拙さや幼さも含めて、今のDUSTCELLからのアンサーソング的な感じで書きました。

ーーこの曲では、時が経って変わってしまった自分が印象的に描かれますよね。その中で、過去の自分から何かしらの答えのようなものを見出します。

EMA:いろんな音楽に触れてきたり、DUSTCELLとしての活動を重ねていくうちに、変わってしまった部分はどうしてもあって。もちろんメンタル的に成長したり、技術的にも物理的にも声が出るようになったりとかもあるんですけど、やっぱり「LAZY」を聴くと、今よりもっと自由に表現してたというのが感じられて。「そんなに気張らなくてもいいんじゃないの」みたいに過去の自分に元気付けられた面はありますね。「少し肩の力を抜いて音楽と向き合ったらいいんじゃないの」っていうメッセージを過去の自分から感じたというか。

ーー今の自分のことを〈少し心に余裕が出来たひねくれもの〉なんて表現もしてますが、やはり自分に変化を感じていると。

EMA:そうですね。環境も変わったりして、大人になってしまった部分っていうのはあると思います。でもやっぱり、当時「LAZY」を作詞した私も、「SAVEPOINT」を作詞した私も、“今を生きている”っていうのは共通していて。常に今を生きながら活動しています。結局、過去は変わらないからもうどうにもならない。じゃあ未来はどうなのってなった時に、ぶっちゃけ将来のことを今考えても仕方ないんですよね。10年後、20年後を見据えて生きるのも大事ですけど、今が楽しくなかったら意味がない。将来のことで悩んでいたり、自分の未来がどうなってるのか怖いと感じてる人が、若い子でいっぱいいると思うんですけど、今は自分のやりたいことをたくさんやってほしいなって思います。

DUSTCELL LIVE 2022『PREPARATION』

ーーサウンド面でもこの曲は、今作の他の曲と比べて確実に一線を画してますよね。

Misumi:昨年のワンマンライブ『PREPARATION』ではじめて僕ら2人だけじゃなくてギター、ベース、キーボード、ドラムのバンド編成でライブしたんですけど、その時のギターとキーボードの方々にアレンジをお願いしました。特にイントロに顕著だと思うんですけど、ギターとピアノががっつり入ったことで、かなり化けたと思います。元々僕の作ってたオケはもっとシンプルだったのが、ギターとピアノが入ったことで大きな化学反応が起きました。これもある種、外との繋がりがあったからこそ生まれた曲だと思います。

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