原 由子のエバーグリーンな音楽性 13年ぶりソロライブで聴かせたポップミュージックの豊かさ

原 由子、13年ぶりソロライブレポ

 原 由子が3月6日、7日の2日間、神奈川・鎌倉芸術館で『原 由子 スペシャルライブ 2023「婦人の肖像(Portrait of a Lady)」』を開催した。原のソロライブは、2010年7月に同じく鎌倉芸術館で行われた『はらばんライブ Live at鎌倉芸術館 2010.07.04』以来、約13年ぶり。31年ぶりのニューアルバム『婦人の肖像 (Portrait of a Lady)』の収録曲のほか、「恋は、ご多忙申し上げます」「あじさいのうた」「花咲く旅路」などの代表曲を交えながら、朗らかで豊かな“日本のポピュラー音楽の粋”と呼ぶべきステージを繰り広げた。

 桜の花びらをモチーフにした映像、童謡「さくらさくら」の旋律とともにバンドメンバーが登場。続いて原 由子が姿を見せると、満員の客席から割れんばかりの拍手と「原坊!」「原さん!」という声が。イントロが始まった瞬間に大きな歓声が上がったオープニングナンバーは、「鎌倉物語」。サザンオールスターズの名盤『KAMAKURA』(1985年)の収録曲だ。

 「13年ぶりに鎌倉芸術館に戻ってまいりました。みなさんと一緒に楽しいひと時を過ごしたいと思ってます。よろしくおねがいします」という挨拶に続いては、「涙の天使に微笑みを」「少女時代」と90年代の楽曲を披露。ノスタルジックな旋律、70年代の洋楽的なエッセンスを感じさせるサウンド、そして、透明感と穏やかさを併せ持ったボーカルが広がり、オーディエンスを引き付ける。「高齢者になって、『少女時代』を歌うことになるとは、作ったときは思ってませんでした(笑)。またこうして歌えて、幸せです」というMCからも、彼女の人柄が伝わってきた。

 ライブの軸を担っていたのは、アルバム『婦人の肖像 (Portrait of a Lady)』の楽曲だ。アルバムの1曲目に収められた「千の扉〜Thousand Doors」では、壮大なストリングスとタイトなビート、ドラマティックな旋律によって、プログレッシブかつポップな音像を表現。「オモタイキズナ」では、ビリー・アイリッシュに代表される現代のSSWの潮流を感じさせるトラックのなかで、〈千切れた ふたりだけの 腐れ縁(キズナ)が重い〉というラインを放つ。(訳アリの男女に扮したダンサーの演劇的パフォーマンスも見事!)

 “旅”をテーマにした楽曲「花咲く旅路」「旅情」「京都物語」で日本の抒情性をシックに描き出し、モータウン直系のリズムとポップなメロディが響き合う「恋は、ご多忙申し上げます」で盛り上げた後は、再びアルバム『婦人の肖像 (Portrait of a Lady)』の世界へ。Netflixシリーズ『ぐでたま ~母をたずねてどんくらい~』主題歌の「ぐでたま行進曲」でほんわかと可愛いムードを作り出したかと思えば、「ジャジーな夜のムードでお送りしたいと思います」と紹介された「夜の訪問者」ではハンドマイクで官能的な大人の恋愛模様を描く。サイケデリックにしてフォーキーな「ヤバいね愛てえ奴は」、フォークロック調のサウンドのなかで今の社会に対する思いを歌う「Good Times〜あの空は何を語る」では、原がアコギを弾きながら表情豊かなボーカルを響かせた。キャリアを重ねることで生じる円熟味もあるのだが、それよりも変わることのない瑞々しさのほうが印象的だった。

 古き良きポップスの味わいと現代的なサウンドメイクを共存させた『婦人の肖像 (Portrait of a Lady)』の楽曲に息吹を吹き込む、バンドメンバー・斎藤誠(Gt)、小倉博和(Gt)、角田俊介(Ba)、河村“カースケ”智康(Dr)、曽我淳一(Key)、山本拓夫(Sax)、西村浩二(Trumpet)、金原千恵子(Violin)、笠原あやの(Cello)、村石有香(Cho)の演奏も絶品。桑田佳祐、サザンオールスターズの活動にも参加している凄腕ミュージシャンたちによる、抑制と奥深さを感じさせるアンサンブルもまた今回のライブの大きなポイントだったと思う。

 名曲「あじさいのうた」からライブは後半へ。ニューアルバムのなかでも際立ってポップ&グルーヴィーな「鎌倉 On The Beach」、“The Ronettes×歌謡”な「ハートせつなく」、60年代ロックとレジェンドミュージシャンに対するオマージュに溢れた「スローハンドに抱かれて (Oh Love!!)」、そして本編ラストはGS風ロックンロール「じんじん」。マスク着用の上での声出しが解禁となったオーディエンスも大きな声援を送りながら体を揺らして盛り上がっていた。

 アンコールでは、「学生時代の思い出を歌った曲です」という「いちょう並木のセレナーデ」(アルバム『Miss YOKOHAMADULT YUKO HARA 2nd』1983年)、原がはじめてリードボーカルを取った「私はピアノ」(アルバム『タイニイ・バブルス』1980年/サザンオールスターズ)と80年代の楽曲を披露。「最近は大変なことや心配なことが多いですけど、お互い元気にがんばりましょうね」と話しかけると、会場は温かい拍手で包まれた。「思い返すと私の人生、いつも音楽に助けられていたと思います」という言葉から、「初恋のメロディ」(アルバム『婦人の肖像 (Portrait of a Lady)』)へ。音楽に対する愛を切なく歌い上げ、大きな感動へと結びついた。

 ラストナンバーは、「いつでも夢を」。橋幸夫、吉永小百合による1962年のデュエットソングだ。ハンドマイクで楽しそうに歌う原に対し、オーディエンスも心地よい手拍子で応える。〈言っているいる お持ちなさいな〉と歌いながら登場したのは、桑田佳祐! サプライズで実現した夫婦共演に会場全体が拍手喝采だ。少し照れたように小さな花束を手渡し、二人の歌声が重なるシーンはすべての観客の心に深く刻まれたはずだ。

 「ライブの構成もリハーサルもサポートしてくれました」(原)「こんな素敵なところで歌えるなんて、あなた幸せだよ」(桑田)という二人の会話、そして、観客への感謝を伝えてライブは終了した。原 由子のエバーグリーンな音楽性、そして、ポップミュージックの豊かさ、温かさをたっぷりと味わえる、まさに至福の時間だった。

『婦人の肖像(Portrait of a Lady)』特設サイト
https://special.southernallstars.jp/hara2022/

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