『夕暮れに、手をつなぐ』空豆と音の距離感が投影された主題歌 ヨルシカ「アルジャーノン」に詰まった不確実さときらめき

 しかし、それでもPVの空豆は音のいない一人きりの部屋でデザイン画を描き続ける。“才能”が自分と大切な人を引き離してしまおうとも、やはり夢の引力には勝てないし、心沸き立つものに没頭することでしか生きられず、救われないことも本人が一番わかっている。自分を捨てた母親と同じ道に進む自身に戸惑いながらも、溢れ出る創作意欲は抑えきれず抗えない。それが近くにいる人を時に傷つけることになっても。母親の気持ちも、音の気持ちも、わかりたくないのに誰よりも手に取るようにわかってしまうのだろう。

 アップテンポでもなければスローすぎることもなく、もちろん“陽”一色ではないものの、バラードというわけでもない「アルジャーノン」には、本作のタイトルにある「夕暮れ」の不確実さ、不明瞭さ、それゆえのきらめきが詰まっている。日中と夜間の間にグラデーションとして存在し、ここからここまでとはっきり定義できない揺蕩うようなかけがえのない時間帯や、その狭間で揺れ動く空豆や音の気持ち、そして2人の言語化されない特別な関係性がn-bunaによるメロディと歌詞で余韻たっぷりに表現されている。それを歌うsuisのボーカルは切なく儚げなのに、それでいて力強さもある。変わっていく貴方を嘆くでも、手放しで喜ぶでもなく、ただただ羨望と憧れが入り混じった眼差しで、ちょっと目を細めながら見守っているような、そして相手を通して自分を見ているような、そんな絶妙な2人の距離感が投影されているかのようだ。

 第8話冒頭の「春泥棒」はじめ、本作の劇伴としても度々登場するヨルシカの楽曲だが、3月8日には初のn-bunaボーカル曲「451」が配信された。こちらも見逃せない。

■リリース情報
2月6日(月)デジタルリリース
ヨルシカ「アルジャーノン」
※TBS火曜ドラマ『夕暮れに、手をつなぐ』主題歌
https://yorushika.lnk.to/Algernon

3月8日(水)デジタルリリース
ヨルシカ「451」
https://yorushika.lnk.to/451

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