石若駿、プロデューサー/演奏家としての思考 くるりや藤原さくらとの経験で芽生えた新しい感覚

石若駿、プロデューサーとしての思考

 富士山の麓で、穏やかな空気の中に音楽が溶けていく――。そんな唯一無二の時間が流れるキャンプインフェス『FUJI & SUN ’26』が、2026年6月6日・7日に静岡・富士山こどもの国で開催される。

 今年この場所に、「JAZZ NOT ONLY JAZZ in FJSN」として出演するのが石若駿。マーティ・ホロベック、渡辺翔太とのトリオを軸に、大橋トリオ、田島貴男という強烈な個性を迎えて行われる今回のステージは、現代のジャズが持つしなやかな越境性を、このフェスの風景の中で鮮やかに響かせるものになりそうだ。

 くるり、藤原さくら、君島大空ら多くのアーティストと関わりながら、演奏家としてだけでなく、プロデューサー/バンドマスターとしても活動の幅を広げてきた石若に、『FUJI & SUN』という場の魅力と、いま自身が鳴らしたい音について話を聞いた。(黒田隆憲)

田島貴男&大橋トリオを迎えるJAZZ NOT ONLY JAZZの特別感

ーー石若さんにとって、『FUJI & SUN』への出演は今年で3回目になるそうですね。

石若駿(以下、石若):最初が2021年で、その時は君島大空くんとのデュオと、くるりで出演しました。2024年にもくるりで出て、他にFabiano do NascimentoやHIMIくん、KID FRESINOのライブにも関わっていて。自分でも「いつ、誰のライブで出たんだっけ」「今年で何回目だっけ」と分からなくなるくらい(笑)、いろんな形でこのフェスに関わってきた気がします。

ーー改めて振り返ってみて、『FUJI & SUN』はどんなフェスだと思いますか?

石若:ひと言で言うと、すごく穏やかなフェスですね。自然に囲まれている、ということももちろん大きいんですけど、それだけじゃない。演奏する側としても、必要以上に構えなくていいというか。自然体のまま、音を出せる場所だなと思います。

ーー「自然体のまま」ですか。

石若:フェスって、いい意味でも悪い意味でも、どこか「ここで何かを起こしてやろう」とか、「爪痕を残そう」みたいな空気が漂うことがあるじゃないですか。もちろんそれも素晴らしいんですけど、『FUJI & SUN』は、そういう「気負い」みたいなものがあまりない気がするんです。もちろん緊張感はあるし、ちゃんと集中して臨むんですけど、その場の空気に身を任せながら演奏もできる。ほかの出演アーティストも、きっとみんなそういう感覚なんじゃないかな。すごく平和で穏やかな時間の流れの中で、それぞれの音楽がちゃんと鳴っている感じ……それが『FUJI & SUN』ならではの魅力だと思いますね。

ーーこれまでの出演の中で、特に印象に残っている景色や出来事というと?

石若:くるりで初めて出た時のことはよく覚えています。すごく寒かったんですよ。雨も降っていて、みんな急遽上着を着たりしていたんですけど、僕だけ半袖で(笑)。でも演奏が始まると、そんな寒さもあまり気にならなくなりました。あの頃は、くるりに参加してまだそんなに時間が経っていなくて、くるりでフェスに出ること自体もまだ新鮮だったんですよね。そういう意味でも、すごく印象に残っています。

 あと、その日の昼間に君島大空くんとのデュオで出た時、急遽「ばらの花」をやったんです。もともと予定していたわけじゃなくて、「リハもしてないけど、やってみようか」みたいな流れで。野外フェスで、しかも君島くんとのデュオで、くるりの「ばらの花」をやることになる、その流れ自体がすごく面白かったですね。

ーー今年は「JAZZ NOT ONLY JAZZ in FJSN」として出演されます。

石若:もともとJAZZ NOT ONLY JAZZのセプテットのメンバーたちがベースにあって、その中でマーティ・ホロベックが続けている“トリオシリーズ”というプロジェクトがあるんです。いろんな編成のトリオで作品を残していく、彼のライフワークみたいなものなんですけど、その第4弾が、渡辺翔太くんと僕とのピアノトリオ。去年と今年で2枚アルバムも出していて、最近かなりフレッシュに取り組んでいる音楽ですが、意外とライブで演奏する機会は少なかった。だから今回、『FUJI & SUN』でそのトリオとして音を鳴らせるのは、すごくいいタイミングだなと思っています。

 基本的にはマーティのコンポジションが中心で、僕と翔太くんも曲を提供していますし、サウンドの面でもかなり独自の方向性があるトリオですね。マーティはアコースティックベースだけじゃなく、少し変わったアコースティックベースを使ったりもするし、翔太くんもピアノだけでなくシンセでメロディを取ったり、アップライトピアノを録音に使ったりしていて。曲そのものだけじゃなく、音色や質感に対するこだわりも強いんです。

ーーさまざまなミュージシャンと共演してきた石若さんにとって、この3人で奏でることの面白さはどこにありますか?

石若:僕はこれまで、渡辺翔太くんがリーダーのトリオで10年くらい活動してきました。そこでは当然、彼がリーダーとして音楽全体を司っていたのですが、いざマーティのトリオで翔太くんがサイドマンとして入ると、全然違う顔が見えるんですよ。それがすごく面白い。

 自分でコンポジションして、自分のディレクションで演奏する時と、誰かの音楽に入って、その場を底上げする時とでは、やっぱり表情って違ってくるんですよね。このトリオでやってみて、渡辺翔太の“サイドマン”としてのすごさを改めて感じました。まだこんな引き出しを持っていたんだって。

ーー今回はゲストに大橋トリオさんと田島貴男さんを迎えます。

石若:前にJAZZ NOT ONLY JAZZでやった曲をもう一度なぞるというより、そこからもう少し先に行けるようなことをやりたいなと思っています。最近のアルバムの曲も候補に挙がっていますし、また新しい挑戦ができそうなんですよね。田島さんも、前回ご一緒した時に、その場で何が起きるかわからない面白さがあった。同じ曲だったとしても、その日の空気や周りの環境によってエネルギーが全然変わると思うので、それが今からすごく楽しみです。

ーーお二人の共通点と相違点は、それぞれどんなところに感じますか?

石若:お二人とも、音楽に対してすごく厳しくて、その厳しさが的確なんですよ。自分の音楽をしっかり持って活動している強さがある。そういう人たちと一緒にやると、こちら側にも変化が起きるんです。「何が引き出されるんだろう?」「どんな体験になるんだろう?」「その結果どんな空間が生まれるんだろう?」そういう未知のものに出会えるのが、こういう共演のいちばんの楽しみです。

 違いでいうと、田島さんは空間を瞬時に支配する力が尋常じゃない。カリスマという言葉が近いのかもしれないですけど、一緒にやっている側も、その瞬間に一段ギアが上がるんです。「今のままの音じゃダメだ、もっと上げないと」って自然と思わされる。日野皓正さんとやっている時にも似た感覚があるんですけど、その場全体を理想の状態まで持っていく引力があるんですよね。

 一方で大橋さんは、リハの段階ではすごく細かく調整していくタイプです。でも本番になると、その組み立てたものの中にちゃんと自由度がある。こちらがその場でやったことに対しても反応してくれるし、受け入れてくれる大きさがあるんです。緻密なんだけど、その緻密さの中にちゃんと遊ばせてくれる余白があって。そこに大橋さんの魅力を感じています。

ーー今回、お客さんとして気になっている出演者はいますか?

石若:まず梅井美咲ちゃんですね。ソロセットがすごく気になっています。いろんな形で一緒にやってきましたし、僕のリサイタルでもデュオで演奏していて、彼女から生まれてくる音楽って本当に特別なんですよ。君島にも通じるところがあるんですけど、“本当に音楽の人”なんですよね。その人がいるだけでワクワクするというか、「今日はどんな世界に連れていってくれるんだろう」と思わせてくれる。彼女の音楽をフェスで聴けるというのは、その場に居合わせた人にとってかなりラッキーなことなんじゃないかなと思います。

 あとは柴田聡子さんのバンドも観たいですね。岡田拓郎くんがプロデュースした作品もすごく良かったので、それを実際に生で聴きたい。それから優河ちゃん。最近いろんなところから「歌がさらにすごいことになっている」「もう新しい境地に入っている」みたいな話を聞くので、久しぶりに聴けるのが楽しみですね。

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