【ネタバレあり】『ブラッシュアップライフ』劇中曲が暗示する“麻美の運命” 人生に寄り添う平成ソングに込められたヒント
ドラマ、映画を鑑賞する際、視聴者はどういうところに注目するだろうか。もっとも多いのはストーリー展開だろう。俳優たちの芝居を軸に観ることもあるはず。
それらは前提として、筆者が着目するのは「背景」だ。登場人物の部屋に貼ってあるポスター、本棚に並んでいる書籍のタイトル、テレビで流れている番組や映画などは必ずチェックする。とりわけ重要視しているのが、登場人物が口ずさんだり、音楽プレイヤーなどで聴いたりしている曲である。たとえばカラオケのシーンが挿入されていれば、そこでなにが歌われているのか。そういった部分は絶対に聴き逃さない。なぜなら、歌唱曲の内容が、物語の筋や登場人物の気持ちにリンクしていることが多いからだ。
既存曲が単なるムード作りのBGMになっておらず、演出的に物語や登場人物のメンタルに深く関わっているドラマとして、今もっともおもしろいのが『ブラッシュアップライフ』(日本テレビ系)だ。
お笑い芸人のバカリズムが脚本をつとめている同作は、事故で命を落とした33歳・近藤麻美(安藤サクラ)が、死後の世界で「人生はやり直すことができる。そして徳を積めば来世も人間として生まれ変われるかもしれない(ちなみに麻美が来世として当初提示されたのはオオアリクイ、サバなど)」ということを知り、麻美として何度も人生をやり直していくヒューマンコメディ。2周目以降の人生は、生まれた瞬間から33年の経験、知識、そして意識が備わっているので、あまり身動きがとれない赤ん坊の時期はとにかく退屈だったり、子どもらしかぬ特技を見せてしまったり、いろんな出来事が巻き起こっていく。
「炎」「ポケベルが鳴らなくて」などが暗示するものとは?
そんな『ブラッシュアップライフ』には、劇中曲が非常に効果的に使用されている。たとえば第1話では麻美が、小学生時代から仲が良い米川美穂(木南晴夏)の誕生日を親友・門倉夏希(夏帆)と祝ったあと、カラオケへ行く。そこで美穂がまず歌っていたのがLiSAの「炎」(2020年)である。同曲は、映画『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の主題歌としておなじみ。同作は、主人公の少年・竈門炭治郎が、鬼に姿を変えた妹を人間に戻すために奮闘する物語だ。まさに、人間として人生を何度もやり直すことになる麻美のその後や、来世も人間になりたいという願いを暗示しているようである。
そのカラオケで麻美が歌うnobodyknows+の「ココロオドル」(2004年)も、日常のなかで鳴り続け、終わることがない音楽について歌ったものであり、歌詞のなかで〈続ける〉というワードが頻出するところからも、麻美が経験する「やり直しの人生」を表していると推測できる。そうやって考えると、麻美、夏希、美穂が3人で歌い上げるZONEの「secret base~君がくれたもの~」(2001年)は、〈10年後の8月 また出会えるのを信じて〉という内容がとても意味深に感じる。
カラオケの歌唱曲のなかで第1話の主題にかかわるのが、国武万里の「ポケベルが鳴らなくて」(1993年)。3人はこの曲に出てくるコミュニケーション機器、ポケットベルの使い方について「面倒くさっ」「そりゃポケベル鳴らないわ」と口にする。そのあと麻美は事故に遭って1度目の人生を終え、2周目の人生をスタートさせる。そこで、保育園時代の友だちの森山玲奈が引っ越すきっかけとなったのが、玲奈の父親と保育園の先生の不倫であることに気がつく。麻美は、玲奈の父親が先生にポケベルの番号が書かれた紙を手渡しているのを目撃。やりとりさせないために動き出す。麻美による「先生と玲奈の父親のポケベルを鳴らさないため」の作戦実行中、警察に追われるなどいろいろ面倒臭さが生じることから、「ポケベルが鳴らなくて」もかなり暗示的なカラオケ曲となった。