ヨルシカ、ワンマンライブ『前世』は芸術だったーー朗読劇を通じて再認識する楽曲とバンドの真骨頂

ヨルシカ、ワンマンライブ『前世』レポ

 歌というよりは物語。ライブというよりは朗読劇。音楽というよりは芸術――。

 2月8〜9日、日本武道館にてヨルシカがワンマンライブ『ヨルシカ LIVE 2023「前世」』を開催した。この公演は1月より大阪城ホールと日本武道館の2会場でそれぞれ2日間ずつ行われたもので、本稿では8日の日本武道館公演について記述する。ちなみに今回のライブは2021年に無観客で開催された同タイトルの配信ライブ『前世』とは全く内容の異なるもの。全席着座指定によって厳かな雰囲気が充満したこの会場で繰り広げられたのは、ヨルシカという独特の世界観を持ったバンドの真骨頂が表れたものであった。

 小鳥のさえずりが聞こえる会場。そこでコンポーザーのn-bunaが一本の物語を朗読していく。ストーリーは別れた男女の話。その男女の過去はとにかく幸せで、2人とも現在はどこか寂しげに描かれている。だが悲壮感はなく、全体的には爽やかなテイストで、ヨルシカの繊細かつ疾走感のある楽曲のサウンドに即した筆致で語られる。その物語の間に、ストーリーを肉づけするように歌が披露されるという構成でライブは進んでいった。

 物語の前半は、男がよく見るという“前世”の夢の話が繰り返された。例えば鳥だった夢の話の後には「靴の花火」や、花だった夢の話の後には「ブレーメン」と、人間ではない何かだった記憶を辿り、それに関連した楽曲が立て続けに演奏されていく。それまでは単体で成立していたヨルシカの楽曲が、こうして物語の一部として披露されることで、いつもと違った聴こえ方をしてくるのが面白い。まるでこの公演のために書き下ろされたかのように思えてくるのだ。

 会場にはスクリーンに歌詞入りのアニメーションが流され、照明や舞台セットも曲ごとに工夫されている。バックスクリーンの他に白の緞帳幕が降りてそこにプロジェクターで映すこともあり、その使い分けによって没入感を演出していた。ライブのキービジュアルに登場する百日紅の木は、終盤で物語上重要な役割を担ってくる。公演の最初からステージに設置されていたこの木の見せ方も素晴らしかった。映像、美術、演出、特殊効果といったライブにまつわる様々な要素が、一つの物語の世界を彩るために緻密に練り上げられている。

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