2023.02.09 18:00

ASIAN KUNG-FU GENERATION、「宿縁」で上げる新たな未来への狼煙　『サーフブンガクカマクラ』続編の意義も

文・取材＝小川智宏、写真＝林直幸

『サーフブンガクカマクラ』は変名バンドをやっている感じ

――カップリングの「ウェザーリポート」は喜多さんボーカル曲です。1人でのボーカルはかなり久しぶりですよね。「お祭りのあと」以来。

喜多：そうです、「お祭りのあと」以来。

後藤：「お」がついてるの？

喜多：自分がつけたんでしょ（笑）。「祭りのあと」だと名曲があるからって。

後藤：そうだ、桑田（佳祐）さんの曲があるから失礼だ、やめようって言ったんだ（笑）。なんで「お」がついてんだと思っちゃった。

喜多：「お祭りのあと」はコロナ前のツアーでみんなでカラオケで歌ったら一番盛り上がりました。

後藤：いい曲だよね。

喜多：意外とカラオケで盛り上がるので、皆さんもぜひ。

山田：「お祭りのあと」の話じゃない（笑）。

――前作シングル『出町柳パラレルユニバース』に収録された「追浜フィーリンダウン」でツインボーカルをやっていましたけど、ソロボーカルは久しぶり。

喜多：山ちゃんもちょっとブリッジで歌っていますけどね。

後藤：歌わされたんだよな、あれ。自分でも歌えるのに急に山ちゃんのほうがいいとか言い出して。

山田：なんかストーリーみたいなものを感じたのでね。

後藤：2人で気持ち悪いやり取りしてるんですよね。「あのメロディを歌わせてやりたい」みたいな。おぎやはぎみたいなんですよ（笑）。「そう言うなら叶えてあげたい」みたいな。

喜多：ブリッジのメロディが、自分で考えたにしてはちょっと低くて、「なんかない？」って。山ちゃんが歌って僕が上に行くみたいなのがいいかなと思って。

――改めて、後藤さんは他のメンバーが歌うというのはどうなんですか？

後藤：俺は昔から自分で書いた曲は自分で歌ったほうがいいと言ってるんです。ギタリストもベーシストも、自分で作った曲は自分で歌うTeenage Fanclubが理想だと思うんです。そうするといろいろなタイプの曲ができるし、バンドがユニークになっていくんじゃないかなって。喜多くんも最初は「俺が歌うんだ」って言ってバンドを始めて俺を誘ったのに、なんかやめちゃって。

喜多：超初期でしょ、それ（笑）。ボーカルギター志望で軽音部に入ったっていうだけです。

――でももう5、6曲ありますもんね、喜多さんボーカル曲も。

喜多：そうですね、おかげさまで増えてきました。これからもたまに、忘れた頃に歌いたいと思います（笑）。

――そして3曲目が「日坂ダウンヒル」。湘南シリーズといいますか、『サーフブンガクカマクラ』の続編ですね。

後藤：そうですね。「鎌倉高校前」駅の曲です。昔の駅名が「日坂」だったので。

――それこそ2年ぐらい前から「『サーフブンガクカマクラ』の続編を作りたい」みたいな話はされていましたけど、ついに動き出した感じですか？

後藤：ずっと言い続けてたので、やっとレコード会社も軟化したっていう（笑）。最初の頃は聞き流している感じがあったんですけど、最近ようやく本気でやるっぽいっていう空気になって。

――10曲やって、まだ5駅残っているのが気持ち悪いというのもあったんですか？

後藤：気持ち悪さはないけど、パワーポップは楽しいので、作る理由がとにかくほしかったんです。やっぱりこういう音楽が好きなんですよね。シンプルで、私とか僕にもできるかもって思えるようなアレンジで、でもよく聴くとおもしろさが詰まっているっていう。このあいだ再録用に『サーフブンガクカマクラ』の楽譜を作っていたんですけど、やっぱりどの曲にも感動ポイントというか、ここおもしろいわっていう部分があったんです。音楽って誰がやってもいいものじゃないか、みたいな気持ちというか。そういう意味では自分たちの肌身に近い音楽なんですよね。

喜多：『サーフブンガクカマクラ』の曲は本当に必要最低限の4つの音が鳴っているという感じなので、他のレコーディングとは違う楽しさがありますよね。今回も、全員で「せーの」ではないんですけど、リズム隊とかは一発だし、ギターもそんなにテイクを重ねていないので。音が生き生きしている感じがします。

山田：結構オマージュが入っていたりもするんですよね。そういうところも楽しいし、バンドをやっている気持ちよさみたいなのがあります。再録するとなったら曲を思い出すのは大変なんですけど、楽しいです。

伊地知：『サーフブンガクカマクラ』を出したときって、立て続けにアルバム（『ワールドワールドワールド』）、ミニアルバム（『未だ見ぬ明日に』）を作ってたんです。それでめちゃくちゃ疲弊してるときにゴッチが「もう1枚出したい」って言うから、「マジか」って思ったのを覚えてます（笑）。でもレコーディングしているときもなんか元気になるというか、疲れを癒してくれるような制作だったし、作品だったんです。変名バンドをやっている感じっていうか。今回もそのときのイメージが蘇ってきて、切り替わる感覚がありました。

――変名バンドというのはすごく言い得て妙というか、ある種このシリーズであるっていうことがタガを外す免罪符というかスイッチになっている感じがあるんですね。

後藤：気楽にやっていいんだ、みたいなね。当時「もう練習しないで来てくれ」って言いましたからね、メンバーに。フレッシュでやりたいからって。当時は難しいアレンジをしたいっていうモードだったので、みんな本当に疲れてたし、自分の中では「フィジカルを取り戻せ」みたいな感じだったんです。ロックって楽しい、みたいな気持ちを取り戻すための作品で。

――それを今もう一度やろうというのは何か理由があるんですか。

後藤：ずっとやりたかったんですけど、整ったっていう感じですかね。機が熟したというか。ツアーもあったしアルバムもあったし、どうしてもシングルワークが重なってくるとアルバムにまとめてくださいみたいな圧がかかってきたりもするし。25周年も終わってそういうのをちょっとやりきった感もあって、本当にタイミングが合った。逆に今やらないとたぶんできないだろうなっていう感じもします。

――この無邪気さ、青春感って、「宿縁」とはまた違う意味で改めてバンドをやっている感じ、始まっていく感じがあるなと思いました。

後藤：「日坂」を舞台にした漫画作品をフィーチャーした歌詞になっていますからね。

――このシングルを皮切りに始まっていく2023年は、メジャーデビュー20周年という節目でもありますね。

後藤：でも結成25周年をやっちゃったんで、メジャーデビュー20周年はどうしていいかちょっとわからない（笑）。レコード会社のお祭りにしてほしいなと思ってますね。でも周年、周年ってファンから集金するのはよくないよね。

喜多：「周年多いな」って思われるからね。

後藤：だから、20周年で『サーフブンガクカマクラ』をもう1回作れればいいのかなって。誰の財布も傷つけない……財布の問題だけじゃないですけど、すごく幸せな感じ、未来志向
で昔の曲を引っ張り出すような、楽しい1年になればいいなと思っています。