堂村璃羽「自分の曲を聴いて生きたいと思ってくれる人を増やせたら」 1年7カ月ぶりのアルバムで次のステージに
楽曲の魅力に加え、真の意味で寄り添うという言葉がふさわしいファンコミュニケーションが信頼された結果、32万人を超えるYouTubeのチャンネル登録者数を誇る(1月23日現在)シンガーソングライター、堂村璃羽が5thアルバム『夜景』をリリースする。
アルバムのリリースは1年7カ月ぶり。2019年10月から2021年6月まで、立て続けに4枚のアルバムをリリースしてきたことを考えると、1年7カ月というのはかなり久しぶりに感じられるが、それだけ時間が空いたことにはもちろん理由がある。
心地よいリズムとチルなトラックに性、死と表裏一体の生といったポピュラーミュージックの世界ではどちらかと言うと、タブーとされてきたテーマに真正面から向き合ったリリックを乗せ、多くの人達の共感を得てきた堂村。今回の『夜景』では、これまでとはちょっと違う曲作りに挑んでいる。それも含め、2023年は新たなことに挑戦する、彼のキャリアにおいてエポックメイキングな1年にしたいと考えているようだ。その第1歩となる『夜景』の話題を中心に歌詞の書き方からファンとのコミュニケーションついてまで、今回のインタビューでは“堂村璃羽”というアーティストを今一度、掘り下げてみたいと思う。(山口智男)
検討を重ねてメジャーレーベルへ リーチを伸ばすきっかけになれば
――2023年はこれまで以上に精力的に活動していこうと考えている堂村さんにとって、1年7カ月ぶりにリリースする5thアルバム『夜景』が新しい年の突破口になるわけですね?
堂村璃羽(以下堂村):はい。誕生日(1月12日)を迎えるという意味でも、新たな1年のスタートになるこの1月にアルバムをリリースしようということで、ずっと水面下で動いてきました。実は2022年の11月に配信した1つ前のシングル『そばにいる』からメジャーリリースさせてもらっています。それ以前のフリーランスだった時は、曲が完成したらすぐに公開したくて、曲ができた3日後に出すみたいなことをやってきたので、どうしてもシングルでリリースすることが多くて。今回、取材を受けながら、僕自身、1年7カ月もアルバムを出してなかったのかって驚いたんですよ。それこそさっき言ってもらった言葉を借りると、突破口になる1枚が久しぶりのアルバムになったことは、2023年のスタートとしてはかなり大きいと思います。
――以前、PAREDさんとの対談(※1)で、堂村さんはメジャーレーベルに対して、まだそれほどメリットを感じていないとおっしゃっていましたが、『そばにいる』からメジャーリリースしているということは、その後、何かメリットを見出したということですよね?
堂村:そうですね。僕はファンの人が僕のために使ってくれた時間や、グッズのために使ってくれた労力、お金に関しては、そこに介入してきた大人に取られたくないという気持ちが強くて。そこをクリアにできないかぎりメジャーには行かないと言っていたんですけど、何カ月もかけてレーベルの人と話し合いを繰り返しながら、どうしたら僕も気持ちよく活動ができて、レーベルにもメリットがあるかということをいろいろ相談しあってきたんです。その中で、<ワーナーミュージック・ジャパン>さんは僕に対して、試す価値はある、しかも、いつでも僕のほうから引けるという、かなりアーティスト寄りの契約を提案してくれたんです。これまで僕が無理だと思っていた壁を、逆に壊しにきてくれたと思えたので、今回、一緒にやらせていただくことになりました。
――堂村さんにとってメジャーレーベルと組む一番のメリットって何でしょうか?
堂村:音楽活動をビジネス的な観点で見たときに、こうしたほうがいいと動いてくれる制作チームができたことですね。というのは、僕は音楽をビジネスと捉えてなくて、趣味の一環としてやってきたんです。だから、今でも「お仕事は?」と聞かれたら、「歌手です」と答えますけど、仕事なのかな? みたいに感じることもあるんです。傍から見たら、それでご飯を食べてるから仕事だと思われることはもちろん分かるのですが、仕事って思いたくないという気持ちが強かったので、傍から見たらビジネスに思えることも趣味としてやってきた。ただ、その一方でこの何年かは、自分1人の力でできることはもうやりつくしたという気がしていて、自分の歌をもっと多くの人に聴いてもらうためにはビジネスの視点も加えなきゃいけないと感じていたんです。でも、僕としては音楽をビジネスと考えたくない。そうなると、ここからはメジャーレーベルの力も借りないといけないのかなって気持ちは正直ありました。ただ、メリットよりもデメリットのほうが多く感じていたからなかなか踏み出せなかったんですけど、それがさっきお話したとおり、今回やっと解決できたわけなんです。
――ビジネス的なことを任せることで、いろいろな可能性が増えていくんじゃないかという期待があるわけですね?
堂村:そうですね。今回、アルバムをリリースするまでにできた曲をすぐに出さなかったのは、出すまでにしっかりと仕込んで、いろいろな人にリーチを伸ばそうっていう狙いがありました。曲を温めている間に裏で行動して、いろいろなところに発信していくってことを、僕はこれまでやってこなかったんですけど、それこそこういう取材もメジャーリリースするからこそ発信できることなんですよ。たとえば、僕はこれまで曲に込めた思いを自分でツイートしたり、ライブ配信で語ったりしてきましたけど、こういう取材を通して、これまで僕のことを知らなかった人にもリーチが伸びる。それはこれまでの僕にはできなかったことだったので、大きなメリットの1つですよね。
それまでの後悔もぶつけながら、ここからの挽回を見てほしい
――なるほど。『夜景』では、より多くの人にリーチを伸ばそう、と。その『夜景』はいただいた資料にも「チルなラブソングと自身のヒットソングのセルフカバーを詰め込んだ」と書かれていたように、ラブソング集という大きなテーマがあるようですね?
堂村:ラブソングが多めなんですけど、そうじゃない曲も入っていますね。たとえば、「Sorry」はラブソングと言うよりは、僕がファンに対してこれまでの自分のダメだったところを曝け出して、これからの自分を見ていてほしいという気持ちをぶつけた曲。ラブソングも、たとえば同じ失恋をテーマにしていても、できるだけ多くの人に刺さればいいと思って、いろいろなシチュエーションを考えながら作っているんです。
――「Sorry」は確かに、おっしゃるとおりの内容だと思います。堂村さんからのファンに対するラブソングなのかな、と。
堂村:その要素はありますね。ファンへの愛があるからこそ書けた曲なので。「この曲、よく出そうと思ったね」ってチームからは言われましたけどね(笑)。
――(笑)。「Sorry」については、ぜひ聞きたかったんですよ。
堂村:(笑)。でも、何がそんなに驚かれているのかがずっとわからなくて。別に、人間の弱いところを出しただけだし、ステージでかっこよく演じていても実際は同じ人間だっていう部分を曝け出しただけ。ラッパーがリアルを歌うことと変わらないと思うんですよ。僕はラッパーではないけど、リアルを歌いたいから作っただけなんです。「Sorry」を、この『夜景』ってアルバムにぶつけたのは、それこそ2023年にメジャーレーベルからスタートするんだから、それまでの後悔もぶつけながら、ここからの挽回を見てほしいという気持ちがあるからなんですよ。
――今おっしゃった、“ここからの挽回”について聞かせてください。〈ぶっちゃけ運のおかげだった 実際の俺はちっぽけじゃん 口先だけ言い訳は達者 逃げてばかりファンは減っていった〉と「Sorry」の中で繰り返し歌っていますが、実際、そういう風に思ったことがあったんですか?
堂村:そうです。去年の真ん中ぐらいの半年、音楽をまったく作らなくて、やる気もモチベーションもなくて。とりあえず作りたくない時は作りたくないんで、ファンの人達は曲を待ってくれていると分かってはいましたが、ずっと遊んだり、ゲームをしたりしてました。〈期待を暇で隠して〉という歌詞は、まさにその時の気持ちですね。〈口先だけでごまかした歌詞 心地よいだけのメロディたち〉と自分の歌をディスってる部分は、それまでの曲がそうだったということではなくて、作らなきゃいけないからと無理やり作ったところで、そんな曲は誰にも届かないっていう意味です。本当にそう思っていたから、その半年は曲を作らなかったし、作れなかったんです。無理やり作った曲を誰かの心に響かせることは、表面上ではできるかもしれないけど、ライブで真正面から歌える自信はないから、それは違うなと思っていました。
――なぜ、やる気をなくしてしまったんでしょう?
堂村:いろいろあると思うんですけど、音楽以外にプライベートで悩むことがあったりとか、僕は普段1曲、大体2、3時間で作れちゃうんですけど、だからこそ後回しになっちゃうことがあったりとか、その2つが重なったとき、音楽を作ってるよりも今は気を紛らわしたいとなってしまったんだと思います。実際、ファンの人達にも悲しいことがあった時は、友達がいるんだったら友達と過ごす時間を増やして、一人の時間を減らして、考えることをなるべくやめたほうがいいとよくアドバイスしていて。自分もそうしていた時期でしたね。ただ、表面上はただただ遊んでいる奴って映り方はしてたと思います。そのせいで、がっかりさせてしまったファンが一部いたのは事実としてありましたね。
――ここからの挽回を見ていてほしいというのは、離れていったファンに対する気持ちでもある、と?
堂村:そうですね。本当にその気持ちが大きいですね。