DISH//、“立ち止まる”2022年から“楽しむ”2023年へ 山崎まさよし共作曲「五明後日」やアルバム『TRIANGLE』について語り合う
先日、結成11周年を迎えたDISH//。2023年2月1日にはアルバム『TRIANGLE』をリリース、同作を携えたアリーナツアーも予定している。リアルサウンドでは今回、そんな彼らが11月にリリースした山崎まさよしとの共作曲「五明後日」の話題から制作中のアルバムについて、また“立ち止まる”がテーマだったという2022年の振り返りと2023年に向けた意気込みを聞いた。(編集部)【記事最後にプレゼント情報あり】
北村匠海の歌詞に溢れる優しさ
――まず、「五明後日」について聞かせてください。テレビ朝日系木曜ドラマ『ザ・トラベルナース』の主題歌で、DISH//の4人と山崎まさよしさんで共作した曲ですが、なぜ今回山崎まさよしさんとの共作に至ったのでしょうか。
北村匠海(Vo/Gt):僕らの方から山崎まさよしさんにオファーさせていただいて、そこから制作が始まりました。僕は以前『影踏み』という映画でまさよしさんと共演したんですけど、その時に一緒に音楽の話をしたし、『Mステ』(『ミュージックステーション』)や『Augusta Camp 2019』で一緒に歌わせていただいたんですよ。そういった経験があったから、一緒に曲を作れたら嬉しいなと思ったんです。
――矢部さん、橘さん、泉さんは今回の制作で初めて山崎さんに会ったんですよね。
矢部昌暉(Cho/Gt):はい。僕ら3人ははじめましてということで、まずリモートで顔合わせをして、そこで「こういう曲にしましょう」という話もして。そのあと、まさよしさんのご自宅のスタジオに伺いました。僕らとしては「やっぱり実際にお会いして、一緒に喋れたらいいよね」と思っていたんですけど、ご本人のスケジュールもあるので言わずにいたところ、まさよしさんの方から「今度、お酒でも飲みながら話そうよ」と言ってくださって。嬉しかったですし、素敵な方だなと思いましたね。
橘柊生(DJ/Key):やっぱりすごい方なので、ご自宅に伺った時はちょっと緊張しました。だけどいざ会ってみたら、温かい方で、僕らの話も真剣に聞いてくれて。
泉大智(Dr):同じミュージシャンとしてフラットに接してくださるというか。制作に関しても、対等な立場でいてくださったのがすごく嬉しかったです。
――実際に出来上がった「五明後日」は、繊細さと力強さが同居したバラードになりましたね。この形になったのは?
北村:ドラマサイドからバラードをイメージしているという話があったので、まず、各々でバラードを1、2曲ずつ作りました。イメージをすり合わせるためにそれをまさよしさんにも聴いていただいたんですけど、そのあと、まさよしさんがデモを作ってきてくれて。そこに僕らがメロディをつけたり、まさよしさんが元々入れていたメロディを活かしたり……いろいろな流れを経てこの形になりましたね。まさよしさんの曲はどれもコード進行が独特ですけど、「五明後日」もまさに“まさよしさん節”というか、僕らだけでは湧き出てこないものだなと感じています。
橘:難しいコードを使っているわけではないのに、印象としては新しいのがすごいですよね。Aメロのコードが半音ずつ下がっていくところとか、コード進行に沿ったメロディの運び方とか、すごく山崎さんっぽいなと思いました。
――歌詞は“最愛の人に向けた遺書”をイメージして書いたんですよね。
北村:はい。僕は役者の仕事で看護師や医者を演じたことがあって、医療従事者の方ともたくさんお話をさせてもらった経験があるんですけど、『ザ・トラベルナース』の台本を読んだ時、お医者さんは命の道筋を決める役割なんだと改めて思いました。手術して助かる命もあれば、助からない命もある。その岐路に立っているのがお医者さんで、その命に寄り添っているのが看護師さんで……みたいなことを考えていたら、自分が病室のベッドで寝ている風景が何となく浮かんできたので、「そっか、自分の遺書を書けばいいんだ」と思ったんですよね。
――遺書、すんなり書けましたか?
北村:すんなり出てきたところとなかなか出てこなかったところがありました。コロナ禍に入ってから、“明日死ぬかもしれない”というひりついたものが自分の中にずっとあるから、「五明後日」というタイトルと〈今日も/明日も/明後日も/明明後日も/ありがとう、ありがとう/と思う。〉という歌詞は早々に出てきたんですよ。だからそこに向かって書いていったんですけど、最初はちょっとカッコつけて、文学的な歌詞を書こうとしてしまって。彼(曲の主人公)と一緒にああでもないこうでもないと悩んだ結果、「いや、ありがとうって言えたらいいんだよな」「結局好きだって伝えたいんだよな」というシンプルなところに落ち着きました。
橘:匠海の歌詞は優しいんですよね。「頑張れよ」と投げかけるんじゃなくて、「一緒に頑張ろう」と言ってくれる温かさがどの曲にもある。「五明後日」にはそういう温かさが前面に出ている気がします。
泉:あと、やっぱりオリジナリティがあるなと。〈今日も/明日も/明後日も/明明後日も〉と積み重ねているところや、〈風邪気味の命〉という言葉は特に匠海っぽいなと思いました。
――〈風邪気味の命〉は私も気になりました。そのあとに〈窓を開けたよ〉と続くのも。
北村:命が危機に晒されているということを直接的に書きたくなかったんです。もうすぐ命がなくなってしまうことは彼自身分かっているし、それを辛辣に書くことはいくらでもできるんですけど、「こんなの、風邪気味なだけだよ」「手を伸ばしたら窓だって開けられるし」と思っていたかったというか。
――つまり、最期の瞬間まで“どう死にたいか”ではなく“どう生きたいか”という話をしている曲だと。
北村:はい。まさにそんな感じです。
――矢部さん、橘さん、泉さんはこの曲をどう受け取って、どう表現したいと思いましたか?
矢部:やっぱり歌詞が素敵ですよね。AメロやBメロは語尾が「〇〇かな」でちょっと不安な感じも出ているんですけど、サビでは「〇〇したんだ」という断定の言葉に変わっているし、〈今日も/明日も/明後日も/明明後日も〉や〈生きて/生きて/生きて/生けたら。〉のように同じような言葉を連呼しているところからは強さが感じられる。遺書を書く時って不安は絶対にあるし、「遺す人を悲しませたくない」という強がりもあると思うんですけど、そういうものが全部この歌詞に出ているなと思いました。歌詞を読んで僕も熱い気持ちになったので、ギターは熱めに弾いています。特に後半はかなり感情的に弾いていますね。
橘:僕も匠海の感情に乗って、感動しながら弾きました。自分の中から自然と「こうしたい」というイメージが湧き出てきたし、じっくり読み込みたくなる小説のような歌詞なので、そのストーリーに対して自分なりにアプローチしてみましたね。例えばDメロの最後には心肺停止音を模した音を入れています。
泉:遅いテンポのバラードだけど、意外と細かく刻んでいるところもあるし、リズムの取りかたが目まぐるしく変わる曲なんです。今は16分音符を刻んでいるとか、今は8分音符だとか、ビートの変化とダイナミクスによって曲を形作っていくことはかなり意識しました。
――ボーカルのレコーディングはいかがでしたか? 思わずグッと感情が入るような曲ですよね。
北村:過去に「僕らが強く。」と「ありのまんまが愛しい君へ」のレコーディングで涙を流したんですけど、この曲を歌っている時にも涙が流れてきて、「ちょっと歌えないかもしれない」という状態になる瞬間がありました。だけど、例えば人とケンカをしたあとに「なんでこんなに怒ってたんだっけ?」と馬鹿馬鹿しくなることってあるじゃないですか。「五明後日」にはそういうリラックス感が一番ハマると思ったのと、この曲を受け取った人が主人公であってほしいという気持ちがあったので、感情的なテイクではなく、やわらかいテイクを採用しましたね。最後に声が裏返ってしまったんですけど、それもそのまま採用しています。曲のストーリー上、僕の中ではOKだという判断になったので。
――「五明後日」のようにシンプルな言葉をまっすぐに歌う曲が、今のDISH//にはよく似合っているなと感じました。
北村:年齢を重ねるほど、自分のことを言語化できるようになるけど、「ありがとう」のようなシンプルな想いは意外と言いづらくなるし、何かをまっすぐに見ることがだんだんできなくなっていくと実感していて。でも、バンドをやっていると、音楽の中ではそれができるんですよ。僕自身「ありがとう」や「ごめんね」を伝えるのが苦手な方なんですけど、歌だからこそ腹の底から湧き出てくるものを止められなくなるんだろうし、音楽の中だからこそ、自分に対して許している部分もあるんだろうし。それはボーカルとしてすごく感じていますね。