THE COLLECTORSがリリースを続ける理由 35周年、25枚目のアルバムに込められたバンドとしての信条
エレキギターとエレキベースとドラムと歌という、シンプルな手法で作る音楽ならではの魅力。60年代のブリティッシュビートやサイケデリックロックを「モッズ」というフィルターを通して表現する、ルーツミュージックとしてのロックの輝き(今作はややサイケ方面強め、入っている音・使っている楽器のバラエティも広め)。そんなサウンドに美しいメロディをつけ、日本語を乗せる手際の見事さ。今自分が生きているこの世の中で起きていることに向き合う歌詞ーー。
前作から2年ぶり・25作目となるニューアルバム『ジューシーマーマレード』は、以上のようなTHE COLLECTORSの強さが全面に出た作品に仕上がった。今も続くロシアのウクライナ侵攻がテーマの「GOD SPOIL」や、日本で起きた要人暗殺事件が創作動機になったと思われる「長い影の男」など、加藤ひさし(Vo)しか歌わない、THE COLLECTORSしか鳴らさない楽曲が、特に強く耳を引く。「裸のランチ」と「ヒマラヤ」は、すでに共にライブにおけるピークポイントになっているが、ボックスセット等に提供したのでオリジナルアルバムには未収録だった。その2曲が入っているのもうれしい。
2022年3月13日の二度目の日本武道館ワンマンから、このアルバムを完成させるまでについて、そしてこのアルバムに込めたものについて、加藤ひさしに聞いた。(兵庫慎司)
ハッとさせられることを歌う音楽がロックンロールだってずっと信じてた
ーーインタビューするたびに、一作ごとに作るのが大変になっていく、っておっしゃるじゃないですか。今回も楽ではなかった?加藤ひさし(以下、加藤):まったく楽ではなかったですね。コロナがなければ、準備期間をもっとたくさん設けられたと思うんですけど。具体的に言うと、コロナ禍って人に会えないじゃないですか。僕がいくら曲を書いても、バンドが集まれないからデモも作れないし、リハーサルもできない。しかも、3月13日には、二度目の日本武道館が予定されていて。うちみたいな個人事務所は、武道館をキャンセルしたら、キャンセル代でもう事務所がなくなっちゃうんですよね。だからあれが終わるまでは、絶対にコロナに罹っちゃいけない。そうなると、集まって新曲の準備ができないんですよ。必要最低限、武道館のリハーサルをやるのが精一杯で。それで、武道館が終わって、ようやくみんなで集まってデモを作っていくんですけど、7月にはレコーディングに入らないといけなくて、たった3カ月でアルバムの骨組みをがっちり作らなきゃいけない状況でした。いつも半年ぐらいかけてやるところだから、そこだけが大変でしたね。
ーーどうやって突破しました?
加藤:気力ですよ(笑)。THE COLLECTORSは35周年をニューアルバムで締めくくるっていうことを、ファンにアピールしてこそ、35周年がきれいに終わるって思ったので。もうその気力だけで作りました。
ーー加藤さんはいつもそうですけど、今の世の中、今の状況が、直接歌詞に反映されるソングライターじゃないですか。今回さらに、それが強い曲が多い気がして。だから、書きやすかったんじゃないかなと。
加藤:うん。たとえば歌詞の中に「ウクライナ」って入れることによって、今リアルで自分が見ていることの悲しさとかが、そのまま歌える。それは想像で書くようなラブソングよりも、書きやすいし、歌っていて力が入りますね。
ーーやっぱり、世の中が、今がいちばんまずいことになっているのがーー。
加藤:今がいちばんまずいですよ。でも、日本にいる人ってそれをあんまり感じないんですよね。だから、いつの時代でもそうだったのかな、って思っちゃいます。たとえば太平洋戦争が始まった時も、案外みんなのんびりしていたのかな、って。2011年の原発事故だって、あんなに被害が出て、未だに収束していなくたって、みんな忘れたかのように語らないし。だから、昔からこういう国民性なのかな、って、ふと思ったりしますね。何が起きても、大惨事が起きても、危機感のない感じっていうのは。
ーーという中にあって、このアルバムの「長い影の男」は、「これを書いたか!」と思いました。
加藤:まあねえ。もっとリアルな歌詞だったんですけど、さすがにここまでぼかさないと、プロデューサーにダメだって言われました。でもほんと、こういうことが、この国の諸悪の根源なのかもしれないな、とすごく思いました。隠されてることがたくさんあって、いろんな組織と政治がくっついていて。もちろんテロリズムはよくないんだけど、そういうことによってハッとさせられるというか。で、ロックンロールってずっと、そういうことを歌ってきたんですよ、脈々と。The Beatlesもそうだし。俺はそういうことを歌う音楽がロックンロールだってずっと信じてたんだけど、最近そういうことを歌ってくれる人が、いなくなっちゃった。でも俺は、The Beatlesから教わったロックンロールを、ずっとやり続けるだけだよな、と思って。たぶん(忌野)清志郎さんとかもそうだったんだろうし。
1枚でも多く、丁寧に丁寧にリリースしていくしかない
ーー今回、多くの曲が「欲望」をテーマにしている、という聴き方もできるな、と思って。タイトルチューンからしてそうだし、「もっともらえる」もそうだし、「イエスノーソング」もそうだし。
加藤:ああ。いや、欲望がテーマというよりも……たとえば「もっともらえる」は、“世界は俺のものだぜ”っていう歌はいっぱいあるけど、そういうがめつい歌じゃないんですよ。自分たちがもらえるものを、搾取されてるから取り返せ、っていう歌なんですよね。だから“世界は俺のものだぜ”っていう歌と一緒にされたくないというのはまずあるね。で、「ジューシーマーマレード」に関して言うと、大好きだったポルノスターについて歌っていて。それこそ1970代後半から1980年代、自分が20歳ぐらいの頃だから、いちばんそういうことに興味があるし、観たいじゃないですか。その中で、自分の好みのポルノ女優がいて、そのビデオばっかりずっと観てたんです。それをなんで今歌うかっていうと、そういう欲望があった、エネルギーの塊だった自分が、うらやましいんですよ。だから、ここで歌ってる自分は、もう枯れちゃってる。
ーー (笑)。でも、わかります。
加藤:それを取り戻したいっていう、自分が終わっていくのがわかっている歌だから、非常に悲しい歌なんだよね。欲望があった頃の自分が、まぶしくてしょうがない。兵庫くん(インタビュアー)は俺より若いから、そのフィーリングはわかんないと思うんだけど、還暦ってけっこう歳をとるんですよ、やっぱり。
ーー僕、あと6年なんですが、60を境に、まざまざとそういう実感がありました?
加藤:うん、急に歳をとるのよ。でも俺たちみたいな仕事は、20代からずーっと同じことをやってるじゃないですか。だから、顕著なんですよね。レコーディングをやってても、「前はここまでできたのに」っていうことが集中力がなくてできない。だから、若かった頃にやれたことを、歌いたくもなるよね。そう考えると、能天気に見えるこのジャケットも、ずいぶん重く感じられると思いますよ(笑)。
ーージャケット、すごくいいですよね。
加藤:いいよね。まず「ジューシーマーマレード」が、憧れのポルノスターに恋い焦がれた歌なので、それを連想させるジャケットにしたいな、とは思ったんですよ。で、今回のアルバムはサイケデリックな匂いが全体的に強い。サイケデリックって1967年から1969年ぐらいの音楽じゃないですか。その頃流行ったものというと、女性の身体に絵を描くボディペインティング。それとポルノスターをつなげて、ボディペインティングをした女性をジャケットにしたら、「ジューシーマーマレード」の意味が伝わるな、と思って。ただ、今のご時世、女性の身体に絵を描いて、バストのトップがわかったりすると、レコード会社がすごくいやがるんですよ。1969年だったらOKだったものが、なかなか今の時代は……。
ーー昔はあたりまえでしたよね。
加藤:全然あたりまえ。もっと過激な、たとえばScorpionsの『ヴァージン・キラー』とか。
ーー日本ではそのまま出たけど、アメリカでは差し替えになってましたね(裸の少女の写真がジャケットで物議を醸した、1976年リリースの4thアルバム)。
加藤:それもあったし、Roxy Musicの『カントリー・ライフ』もあったし(1974年リリースの4thアルバム。ジャケットは女性ふたりのセミヌード写真)。
ーー確かにサイケデリック感がありますけど、自分がなぜこのタイミングで、そういう匂いのあるアルバムを作りたくなったんだろう、というのは、できてから考えたりしました?
加藤:いや。でも、今考えると、そうねえ……やっぱり、終わりが見えてきたってことじゃないですか?
ーーいやいや(笑)。やめてくださいよ!
加藤:いや、本当にそうですよ。だから急いでるし。やれることを今やらないと、もうできなくなるな、っていう。コロナも背中を押してますよね。だって、いつコロナ前みたいに戻れるかっていった時に、たとえば10年後だなんて言ったら、もう70歳を超えてるんですよ。そしたら今までみたいに歌える自信もないし、じゃあ今やれることを、ってなったら、リリースを続けるしかない。それを丁寧に丁寧にやっていくしかないじゃないですか、1枚でも多く。先が見えるというのは、そういうことだと思いますよ。
ーーという時に、ロックバンドで、今後のTHE COLLECTORSの進み方の参考になってくれそうな先輩、いないですもんね。
加藤:そう。ソロならいるけど、バンドは4人とかで集まってやるもの。一人ひとりの考え方も違うから、その分難しいだろうし。でもやっぱり、自分がロックバンドが好きだから、バンドでやりたいし。
ーーTHE COLLECTORSは、今後のバンドたちのモデルケースになるんでしょうけどね。
加藤:モデルケースになろうと思ってやってるわけじゃないんだけどね。本当にもがいてもがいてやっていることがこれで、後から人が見たら……まあThe Beatlesとかもそうだったと思うんですけど。あとになってThe Beatlesの歴史を振り返ると、「ああ、ここでこんなことをやったのか」っていう、本人たちも知らない評価が出て来る。って考えると、俺たちもーー。
ーーキャリアはThe Beatlesの3倍ですけどね。
加藤:そうか(笑)。でも、本当に無我夢中でやり続けているだけなので。今も、次の作品を考え始めなきゃな、って思ってるんですよ。できたものを味わっている時間もない、できるうちにやらなきゃ、っていう。どこでまたつまずくかわかんないし。