SHE’S、フジファブリックとの念願の対バンライブ 同郷の先輩招いて魅せたフィジカルなステージ
SHE’Sが対バンツアー『UNION Tour』を3年ぶりに開催。全国9カ所を巡り、11月18日のZepp Hanedaでファイナルを迎えた(キュウソネコカミを迎える名古屋公演はメンバーの体調不良で延期)。対バンのラインナップはBLUE ENCOUNT、Chilli Beans.、Omoinotake、KEYTALK、Ivy to Fraudulent Game、go!go!vanillas、The Songbards、フジファブリックと、バラエティに富みつついずれも強力なライブバンド揃い。羽田公演に迎えたフジファブリックは山内総一郎(Vo/Gt)がSHE’Sと同じ大阪・北摂の出身であり、対バンライブを行うことは双方の念願だったという。
フジファブリックが「若者のすべて」や、SHE’S「Letter」のカバーをワンコーラス披露するなど大いに沸かせ、山内は同郷の後輩をあくまでも“友達”と表現する。自身も『フジフレンドパーク』というツーマンイベントを主催しているだけに、ホストバンドの大変さは理解できると言い、ましてコロナ禍での開催ということもあり、SHE’Sを労っていた。
フジファブリックが大いにフロアを温めた中、登場したSHE’S。武道館公演など、じっくり構築していくライブを見慣れていたせいか、1時間に凝縮する対バンライブは序盤からオーディエンスを踊らせる、なかなかにアグレッシブなスタートだ。「Masquerade」では服部栞汰(Gt)のアコギがパーカッシブに響き、井上竜馬(Vo/Key)はスケールアウトも意に介さない熱量を発揮。複雑なリズムのクラップに挑むファンも多く、その勢いのまま「追い風」へ。こんなにフィジカルに訴え、フロアが躍動するSHE’Sのライブを久々に観た思いだ。シームレスに繋がった「Blue Thermal」も今やライブに欠かせないキラーチューンに成長していた。フジファブリックのステージで山内が発した、SHE’Sとフジファブリックによる伝説の一夜にしようという、オーディエンスを解放するメッセージも大いに後押ししたのだと思う。SHE’S流のゴスペルの解釈でもあり、人間讃歌「Imperfect」も序盤の流れのピークポイントを形成。広瀬臣吾(Ba)が操るシンセベースと井上のピアノリフが作る弾むようなAメロ、間奏の服部のソロも痛快に心を解放してくれる。フルキャパのライブハウスならではの解放感だ。
MCでは彼らの地元にある楽器店兼スタジオにフジファブリックのポスターが貼られ、いつかは対バンしたい先輩バンドであり、上京後は交流も生まれたという同じ地元出身の対バンライブならではのトークを展開。井上は「出番前は緊張するかと思ったけど、(フジファブリックが)あったか優しいライブをしてくれて。ありがとうございます」と話した。それはオーディエンスも同じ気持ちだっただろう。
「If」では撮影OKを告げ、急いでスマホを掲げるフロアの忙しなさも微笑ましかった。というのも、それまでずっとクラップやハンドワイパーをしていた誰もがスマホなんて手にしていないからだ。親密なムードの後は一転、ダークな「Ugly」で場面転換。同期も印象的なエレクトロニックチューンだが、実は生演奏が大半で、生音の迫力が以前より増していることに気づく。服部の表現のレンジも広がり、ジャズ、ファンク、ブルース要素のあるフレージングが曲に深みを与えていた。
フジファブリックのカバーで驚かされた「Letter」本家版は広瀬と木村雅人(Dr)のコーラスがよりブラッシュアップされていたことが印象に残る。シンプルであるが故に堂々とした一音一音、井上の腹の底から発される生への希求が、目の前の人に手を伸ばすような渾身のロングトーンに繋がって、心を揺さぶる。失敗しないことより、全力であること。バンドが地力をつけた上で挑む“全力”は以前とは違うことを思い知った。