SHE’S、結成10年のキャリアで結実したオリジナリティ アニバーサリーツアー日本武道館公演を振り返る

SHE’S、日本武道館公演レポ

 2021年2月に地元・大阪公演から結成10周年イヤーをスタートしたSHE’S。約1年を経たバンド初の日本武道館公演は、時代の音楽を反映しつつ、決して流されない、強く育まれたオリジナリティのひとつの完成形だった。

SHE'S

 定刻に場内が暗転すると、紗幕にこれまでのライブやバックヤードの映像が投影され、そこに流れるSEのビートからつながるように「追い風」のイントロへ。心拍のようなビートに合わせて大きなクラップが起きる。サビへ突入すると同時に紗幕が落ち、いきなりの青いレーザーがまるでステージから放たれる追い風のようだ。スケールの大きな演出が似合う。

井上竜馬

 この日のライブの完成度の高さの要因でもあったのが、各楽器の分離の良い音響と曲と曲の流れの良さ。武道館を大きめのホール(劇場)として、メンバーもスタッフも掌握しているようなのだ。妖しくも情熱的なムードに一転した「Masquerade」では、これまでで最も服部栞汰(Gt)のアコギが作るグルーヴを体感。また、スペシャルな編成として過去にもライブに参加していたストリングスとホーンが、もとから存在していたような馴染み方をしていたのも完成形と表現したい理由のひとつだ。井上竜馬(Vo/Pf)の歌とピアノをさらに高く空へ上昇させるような「Over You」でのストリングスアレンジはポップスとは少し違う、クラシックの行進曲に付けられるそれのような端正さすら感じた。

 前半でSHE'Sの音楽的なレンジの広さと解釈の深さを見せたのが、「Do You Want?」「In Your Room」「If」の、言わば80年代以降の洋楽ヒットチューンを再解釈したような洒脱なブロックだった。服部の洗練された音色やフレージングと、生のホーンが生み出す「Do You Want?」は、音源以上にAORテイストが増幅されたライブアレンジに。音響の良さも手伝って、アンサンブルに包まれた中で身体を揺らしたいような心地よさを醸成。80年代が青春時代だったリスナーにも遜色なく届くであろう、普遍性を湛えていた。

 また、エレクトロニックなサウンドとマイナーコードが特徴的な「Ugly」と「Delete/Enter」を2曲続けて披露することで、サスペンスフルなニュアンスをより深く印象付けられることも大きな進化。この2曲ではリズム隊の柔軟なセンスとスキルアップが実感でき、「Ugly」では広瀬臣吾(Ba)が操るうごめくシンセベースの効果、「Delete/Enter」では木村雅人(Dr)のAメロでのパッド使いからサビで生ドラムに変わることで、場面転換と心情の変化を支えていることがより理解できた。

木村 雅人

 チームSHE’Sの演出面での息の合い方を実感できたのは「ミッドナイトワゴン」。原曲では焚き火を囲むようなイメージだが、今回は武道館の天井まで設えた、森の中で星を見上げるようなライティングだった。この演出には思わずため息が漏れた。しかも、曲後半でエネルギーが増して夜明けを迎えるようなイメージをライティングでも表現。バンドにとって大事な芯の部分を、細部に渡って共有できていることに感銘を受けた。何も大げさな演出だけが感動を呼ぶわけではないのだ。

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