VOCALOIDシーンにおけるリミックス文化の広がり Spacelectro、DIVELA、TAKU INOUE……アレンジに光る個性
また例年該当部門で人気の曲をジャズ調でユニークにアレンジし他と差をつけた「メルティランドナイトメア / シャノン REMIX」(2022年)や、原曲の退廃的な寂寥感にスポットを当て、大胆なイメージチェンジで一際異彩を放つ「稲葉曇 - ラグトレイン (OLDUCT Remix)」(2022年)なども、直近の『The VOCALOID Collection ~2022 Autumn~』にて上位入賞を果たした作品となっている。この他今回「熱異常」(2022年)で念願のTOP100部門優勝に輝いたいよわや、TOOBOEとしての活躍も目覚ましいjohn、柊マグネタイトや雄之助などもリミックス部門への参加経歴を持つ。オリジナル曲とはまた違う一面がみられるのも、リミックスならではの魅力といったところか。
さらに近年では1曲を複数のフレーズに分割し、各パートを別々のボカロPが担当。結果大人数のクリエイターによるメドレー形式となるリミックス曲も、少数だが散見されている。その代表的な例が、複数のボカロPコラボをコンセプトとしたコンピレーションアルバム『キメラ』収録の「ダンスロボットダンスアレンジメドレー(キメラver)」(2021年)だ。原曲作者のナユタン星人を含む14名のボカロPに加え、動画サイトに投稿されたPVでは各ボカロPとタッグを組んだイラストレーター11名を追加招集し、総勢25名が集結した超大作となっている。同じ楽曲を題材とし、かつ各面々が担当するフレーズはわずか十秒前後という短時間の中、各プロデューサーの個性が明確に浮き彫りになる本リミックスは、近年のボカロシーンを愛する人々にとってまさに垂涎モノと呼ぶに相応しい作品だ。
既存のVOCALOID曲に対し、同じく音声合成ソフトを使用した音楽を作る立場から、大きな愛とリスペクトを下地として生みだされるリミックス楽曲。多様性に満ちたボカロジャンルの一角で、この文化は確かな存在感をもって今後も継承されていく。これからも深いボカロ愛を持つクリエイターたちによる往年の人気曲の魅力の再発掘や、今現在も人気を博する才能によるひと味違った引き出しの新発見が、VOCALOIDシーンを時に大きく沸かせていくのだろう。